第71話 筋肉道って何ですか?
「元『早々野隆美』。久しぶりにここへ来たと思ったら、テロを仕掛けてくるとはいい度胸だな!」
私は、デビルエイプの『う●こ投げ』対策のために『オープンザマッソー』の呪文を使って、マッチョ爺さんのトレーニングルームへやってきました。
う●こまみれで悪臭を撒き散らしている私は、確かにテロリストかもしれないです……
「あの…… お風呂を……」
「風呂は使うな! いいか! 絶対にそこから一歩も動くなよ! すぐ戻るから、ちょっと待ってろ!」
暫くして、マッチョ爺さんが大きなドラム缶を2つ担いで戻ってきました。
「まずは、裸になってこの中に入れ。入ったら大きく息を吸いこめ」
う●この付いた服を捨てた後、私は片方のドラム缶に入りました。
中はお湯がいっぱいで、洗剤が入っているのか泡が出ています。
ここで汚れを落とせばいいのかな―― と思っていると、ドラム缶に蓋をされた!?
「しっかりと息を止めておけ! いくぞ!」
何? 何をする気なの?
うわああぁぁぁ!?
ドラム缶が持ち上がったかと思うと、激しく揺れだしたよ!?
「よし! これで大方の汚れは落ちた筈だ」
何度も何度も高速でシェイクされて、もうフラフラ…… 危うく溺れるところだったけど、臭いは完全に取れました。
「今度は、こっちのドラム缶に入れ」
もう1つのドラム缶も、お湯でいっぱいに満たされています。
今度こそ、ゆっくりとお湯に浸かることができそうだよ―― という希望は、勿論あっさりと打ち消されたよ。
再びドラム缶に蓋がされて、高速シェイクの餌食となりました。
2つのドラム缶は洗濯機の代わりで、『洗い』と『すすぎ』をされたみたい。ということは、次は…… 脱水!?
マッチョ爺さんは、私の頭を右手で鷲掴みにすると、
うわあああぁぁぁ!?
私の頭を掴んだまま、右腕をグルグルと高速回転させたのでした。
・・・・・・
し、死ぬかと思った……
「とりあえず、これで綺麗になったな」
「もう少し優しい乾かし方はなかったんですか!?」
「うるさい! 糞まみれで神聖なトレーニングルームにやって来るなど、言語道断! あのまま、元の場所に戻されなかっただけ、感謝しろ!」
誰でも『う●こまみれ』の人がいきなり押し掛けてくれば、絶対に追い返すと思うけど、あの扱いで感謝はしたくないです。
とはいえ、これ以上怒っていても時間の無駄。私は、ここに修行しに来たんだから。
「理沙絵師匠は、いらっしゃいますか?」
「理沙絵はこないだ研修を終えて、魂の管理人として赴任先へ行ったわ」
ああ…… 理沙絵師匠に、最後にお礼の挨拶を言いたかったよ。でも、もう私のことは覚えていないのですよね。
「理沙絵のプライベートな記憶は、全て消去されたからな。もうお前の事は綺麗さっぱりと忘れ去っておるわい。残念だったな」
その言い方に、ちょっとムカついたけど、ここは我慢。それよりも今は修行です。
「敵の投擲攻撃を『触れずに防ぐ』技を覚えたいんですけど、そんな修行ってありますか?」
デビルエイプの『う●こ投げ』は、両手を使って防ぐこともできないから、新しい方法を身に付ける必要があるんです。
「地球の格闘技では難しいな。『う●こ』を投げてくる相手を想定した武道など、普通は存在せんからな」
やっぱり、そんな技はないのか……
理沙絵師匠なら!
って思ってここに来たけど、頼みの綱の理沙絵師匠はもういません。今回は諦めるしかないですね……
「落胆するのは早いぞ!『筋肉道』ならば、お前の望む技も存在するぞ」
「本当ですか!? その技を私に教えてください!」
『筋肉道』って何のことか全然わからないけど、今の私はその技を絶対に身に付けないといけないんです。
「いいだろう、教えてやる。まずは、百聞は一見にしかず。儂が筋肉道の秘技を実際に見せてやるから付いてこい」
あっ! 懐かしいな。
理沙絵師匠との特訓で使った、金属球を撃ち出すマシンだよ。まだあったんだ!
「それを儂に向かって撃ってこい」
「また『マッスルパワー』とか言って、金属球を握り潰すんじゃないですよね?」
「フフフ、心配するな。今回は、触れずに金属球を防ぐ技を見せてやる」
この金属球が防げるなら、デビルエイプの『う●こ』も簡単に防げます。しっかり見て覚えないと!
「それじゃあ、行きます!」
ドーン!
勢いよく発射された金属球。
マッチョ爺さんが、両腕の肘から上の部分をグルグルと回転させました!?
絶対に肘の間接、外れてるよ……
すると、両腕の間から竜巻が!?
金属球は、発生した竜巻に飲まれて、粉微塵になってしまいました……
「今のが筋肉道秘技―― マッスルタイフーンだ! どうだ、身に付けたいだろ!」
何となく想像は付いてたけど、それ―― 絶対に人間の使える技じゃないです!
私が教えて欲しいのは、あくまで『人間の使える範疇の技』ですから!
やっぱりマッチョ爺さんに教わるのは、筋トレだけにしておこう。
「まったく信じられんわ…… 折角儂が筋肉道を教えてやる、と言っておるのに断るとは……」
マッチョ爺さんがブツブツ独り言をいってるけど無視―― 今回は、もう帰らしてもらいます。一応、奇麗に洗ってもらえたお礼だけは言っておこうかな。
「他の防御方法なら、魔法を使うやり方もあるにはあるが、筋肉道を使うなら無用な手段だから、教えるのは止めておくか」
今『魔法を使う』って言ったよね!?
「もしかして、魔法を使って防ぐ方法があるんですか!?」
「まあな…… だが、魔法など筋肉道の秘技と比べれば糞の役にも立たんから、覚えるだけ時間の無駄だぞ」
いやいや、どう考えても魔法の方が私にとっては有難いし、寧ろ『筋肉道』なんて絶対に覚える気もないですから!
「本当にお前は『魔法を使った防御方法』を知りたいのか?」
「勿論ですよ!」
「最初に言っておくが、魔法を使った方法では、50kgの金属球は防ぎきれんし、ましてや粉々にする事など不可能だぞ。それでも知りたいのか?」
「それでもです!」
50kgの金属球を粉々にする必要なんて全くないですから!
『う●こ投げ』さえ防げれば十分だよ。
「最も簡単なのは、幻を見せて、本体を狙われないようにする方法だな」
ああ、そうか! 防御っていうと、敵の攻撃を弾き飛ばすことばかり考えてたけど、狙いを外す方法もあったんだ!
今の私でも、風幕を上手く使ったら、敵の狙いを外すことができるかな?
「風幕では影響範囲は精々2mだから、確実に敵の狙いを外したいのなら中級風魔法の『幻影』を使うのがいいだろう」
マッチョ爺さん、只の『筋肉バカ』だと思っていたけど、魔法にも詳しいみたい。
そういえば、身体強化の魔法陣を描いて、私の背中に張り付けたし、元々は魔法のある世界の人だったのかな。
「他にはどんな魔法を使って防ぐ方法があるんですか?」
「風系の攻撃魔法なら、だいたいが防御にも有効だな」
風系攻撃魔法なら、旋風が使えますよ。
「但し、瞬間的に使えないことには意味がないぞ」
『瞬間的』ということは、無詠唱魔法が必要ですね…… 私、魔法陣を覚えるのが苦手だから、今のところ無詠唱で使える魔法は、火球と風幕だけなんだよね。
「無詠唱魔法を簡単に使える方法はないですか?」
「お前、自分で努力する気はないのか? 何でも簡単に手に入ると思うなよ。それよりも、やはりお前には『筋肉道』の修行を勧めるぞ」
「筋肉道の修行は結構です。それよりも、旋風の簡易魔法陣を私に教えてください」
同じ修行なら、私は無詠唱魔法の習得に時間を使います。
「魔法陣を覚えんでも、簡単に旋風を使えるようになる方法もあるぞ」
そんな便利な方法があるんですか!?
「筋肉道の修行をするなら、それを使ってやってもいいが、どうする?」
マッチョ爺さんは、どうしても私に『筋肉道』の修行をさせたいみたい。
「わかりました…… 修行しますよ……」
私は、仕方なく『筋肉道』の修行を受けることにしました。




