第70話 悪魔の攻撃
デビルエイプに逃げられた後は、今のところ魔物と遭遇していません。
でも――
「おかしいな…… そろそろ滝が見える頃なんだけどなぁ?」
ディアナさんはリーダーということで、地図を持って先頭を歩いているんだけど、さっきからディアナさん、キョロキョロしっぱなしだよ?
ディアナさんは結構自信あり気に歩いていたから、皆信用して付いて行ってたのに、もしかして道に迷ってる?
「おい、リーダー! 本当にこの道で合ってるんだろうな!?」
シベルスターさんが、業を煮やしてディアナさんに聞きました。
「4ヵ月前にサポーターとして遠征に行った先輩から、いろいろと話を聞いてきたから、多分合ってると思うんだけど……」
ディアナさんは滝を探していたようだけど、周りは完全に『樹海』という感じで、滝なんて影も形もないですね。
「ちょっと俺にその地図を貸せ!」
シベルスターさんは、ディアナさんから受け取った地図を凝視しています。
「リーダー。俺達の現在地がどの辺りか、わかっているのか?」
「えっと…… 今私達がいるのは、この辺りだと思うよ?」
「全然違うだろ!? 明らかに目的地の滝の場所より、大きく東に外れてるぞ!」
「嘘っ!? 太陽に向かって3時間ほど歩いたら、第1休憩地点の滝に着いた、って先輩は言ってたよ?」
「それは4ヵ月前の話だろ!? 今の時期なら、太陽を少し右側に見るように進まないと、滝のある場所には着けないぞ!」
どうやら、ディアナさんは時期によって『太陽の軌道が変わる』ことを理解してなかったみたい。レムス王国は1年中温暖な気候で季節感がほとんどないから、太陽の動きに関心がなかったようです。
「このままじゃ、夕方までに第3休憩地点まで行けないぞ! こうなったら、ここからは俺が先頭を歩くが、文句ないな!?」
シベルスターさんは全員を睨み付けています。
私としてはその方がいいと思うんだけど、他の方々がどう反応するのか……
「シベルスターが先頭を歩きたいなら、私は別に構わないわよ。でも、その前に昼食にしようよ。歩きすぎてお腹ペコペコよ」
「僕も姉さんに賛成! ここで休憩にしようよ」
セレーヌさんとセシルさんが休憩を訴えてきました。
私も結構疲れているので賛成。何せ私は、50kg近くあるリュックを背負っているから、ちょっとでも休憩したいです。
「まだ10時になったばかりだぞ? 昼食には早すぎるし、周りを見てみろ!
見通しが悪いから、いつ魔物に襲われるかわからんぞ! こんな場所で休憩を取ったら魔物に狙われるだけだ!」
確かに、鬱蒼とした木々に囲まれているから、薄暗いし不気味…… 休憩するなら、もっと安全な場所に移動してからの方が良い気がします。
「シンディさんは、どう思いますか?」
さっきからシンディさんは、静かに考え事をしているようでした。
「私はデビルエイプが気になるわ。ここでデビルエイプに襲われたら最悪よ」
確かにここじゃあ木や草が密集してるから、火系の魔法は使い辛いです。
やっぱり、さっさと移動するのが吉ですね。
「リーダー、ここで休憩にしようよ」
「そうだよ。休憩しようよ」
それでも、セレーヌさんとセシルさんは休憩を取りたいみたい。
「うーん、そうだね…… よし! ここでは昼食は取らずに、10分間だけ休憩することにしよう!」
「ちっ、仕方ない…… 10分だけだぞ。10分経ったらすぐに出発するからな!」
シベルスターさんも妥協しました。
全員腰を下ろすと、すぐに仰向けに倒れ込みました。
やっぱり、皆結構疲れていたみたいです。
・・・・・・
仰向けになって寛いで5分程経ちました。
「やばいわ…… 魔物が近付いてきてるわ……」
シンディさんが、魔物の接近に気付いたみたい。
「皆、音を立てるなよ…… この感じは『デビルエイプ』だ。6匹いるぞ」
「6匹も? どうするの? あいつら、絶対に『あの攻撃』をしてくるわよ……」
「僕は『あの攻撃』だけは食らいたくないよ…… 何とか戦わずに逃げられないかな?」
『あの攻撃』って何だろう?
『デビルエイプ』なんていう、おっかない名前からして、相当危険な攻撃力を持っているのは間違いなさそうですね。
「マセルの持っている荷物だけが頼りね。『あの攻撃』を防ぐには、ジョディから借りてきた道具を使うしかないわ」
私の背負っているリュックの中には、防具が入っていたんですね!
流石はシンディさん、準備万端です。
しかも、『ジョディさんから借りてきた』ということは、きっとマチョリカ公国製の防具だよ。それなら、デビルエイプの攻撃でも防げる筈だよね!
おおっ!
シンディさんがリュックから取り出したのは、私が思った通りマチョリカ公国製の『透明の盾』でした。
小型だけど、強化プラスチックでできていると思われる盾―― 絶対に防御力抜群だよ!
シンディさんは、1人ずつに盾を配ります。
「マセルはこれ」
そして、最後に私に配られたのは――
これ、盾じゃないですよね? どう見ても『お鍋の蓋』……
アルミ製みたいだから、ムセリットでは貴重品かもしれないけど、これはあんまりだよ……
「それもマチョリカ公国製だから、きっと大丈夫よ」
だったら、シンディさんの『盾』と私の『お鍋の蓋』を交換してください!
と言いたいところだけど、『お鍋の蓋』が防具扱いのゲームもあったし、これで何とかするしかないですね。
とりあえず、全員『盾?』を手に入れたので、ちょっと気持ちに余裕が生まれたようです。
「デビルエイプは、まだ攻撃してくる様子はないわ。私達の動きを伺っているようね」
「ああ。奴らは俺達が背中を向けて逃げた途端に、一斉に攻撃してくる筈だ」
「ということは、全員で円陣を組んで背中を見せなければ、攻撃されずに済みますね?」
「マセル、あなたは黙っていて。私達で作戦を考えるから」
私の提案は、シンディさんがあっさりと却下。
そして、皆さんが話し合って決まった作戦は――
「リーダーの合図で、皆一斉にシベルスターの後ろを追い掛けるわよ」
ということでした。
「マセル、殿は任せたわ」
荷物を持っている私は、当然皆より遅れるから―― という理由で最後尾を任されることになったんだけど、サポーターの扱いが酷いように感じるのは私だけ?
私が狙われることになる予感しかしません……
・・・・・・
「今だ!」
「よし! 皆付いてこい!」
ディアナさんの掛け声と同時に、シベルスターさんがダッシュ!
皆、シベルスターさんの後を追い掛けます。
私は最後尾で後方を警戒しながら走っていると
ビュン!
後ろから、何かが飛んできた!?
私は咄嗟に持っていた『お鍋の蓋』で防ごうとしたけど
ガラガラゴン!
簡単に弾き飛ばされちゃったよ!?
飛んできたのは石のようです。
なかなかのスピードと威力―― これは確かに危険です。頭に当たったら死にますね。
きっとこの『石の投擲』が、皆が言ってたデビルエイプの『あの攻撃』の正体のようですね。
ビュン、ビュン、ビュン、ビュン……
今度は連続で石が飛んできました。
でも、その程度の攻撃じゃ、私には通用しませんよ!
伊達に理沙絵師匠の特訓を受けてませんからね!
私は飛んできた全ての石を、掌で払い除けてみせました。
これで、通用しないと悟って、諦めてくれることを期待したけど
ビュン!
性懲りもなく、また『投擲攻撃』をしてきました……
勿論それも、私は掌で軽く捌きます。
べちゃっ!?
今、凄く嫌な感触が掌に残ったよ?
しかも、顔にも泥のような物が撥ねて付いたみたい。
臭ああぁぁぁ!?
まさか、これって……
「マセル、さっさと逃げるんだ! デビルエイプの『う●こ投げ』が来るよ!」
やっぱりか!?
再び飛んできた『う●こ』を躱したら、
ズゴン!
『う●こ』が木にめり込んだ!?
態々石を『う●こ』でコーティングしてるみたい…… まさに『悪魔』の所業!
ビュン、ビュン、ビュン、ビュン……
ひいっ!?
連続で『う●こ』が飛んできた!?
素手で払い除けたくないけど、コントロールがいいから躱すのが難しいよ……
そうだ! お鍋の蓋!
しまったああぁぁぁ!? さっき弾き飛ばされたんだった……
私は自棄糞で、『う●こ』を掌で払い除けました。
べちゃっ!
両手は糞まみれだし、また撥ねた『う●こ』が顔に付いたし……
許さんぞ、この糞猿共め!
私の怒りが頂点に達しました!




