第64話 マチョリーノに震えました
「マチョリーノ行き、発車いたします」
ポーッ!
ガタンゴトン!
車内アナウンスの後、マチョリカ公国の首都『マチョリーノ』行きの汽車が動き出しました。
汽車はマチョリーノまでの約150kmを、2時間程で走るそうです。
「この辺りは、昔は危険な場所での、盗賊や魔物がよう出たんじゃよ」
ベンプス先生が、マチョリカ公国の昔の様子を話してくれました。
「盗賊はともかく、魔物は最近でも出るみたいだよ」
ジョディさんは、マチョリカ公国には何度か来ているので、最近のことも詳しいようです。
「ジョディの言う通りだわ。ほら、あそこ!」
シンディさんの指差した方角には、大きな土煙が上がっているのが見えます。
「あれは【グレートホーン】の群れだわ。このままでは、この汽車と衝突するわ」
確かに、このままでは、魔物の進路と汽車の進路がぶつかって、大事故になりそうですよ。
「心配ないよ。この汽車に装備されている武器で、すぐに掃討されるから」
ジョディさんが、そう言ってすぐに
ドドドドドド!
グレートホーンに向かって砲撃が始まりました。
そして、20秒後――
「ほら、終わったみたいだよ」
もう砲撃の音は止んで、土煙も上がっていません。
代わりに、何体ものグレートホーンの巨体が横たわっているのが見えます。
「トンでもない威力ですね。あの硬い外皮を持つグレートホーンが、穴だらけになっていました。魔力を込めた矢を使っても、あんな風にはなりません」
「儂が全力で魔力を込めた『土壁』でも、防げそうにないですのお」
神官長もベンプス先生も、砲撃の威力に驚いているようです。
「盗賊団なんかは、数年前に全滅させられて、今は魔物がたまに現れるくらいなんだって。今回は魔物が討伐されるところが見られて、幸運だったね」
幸運ですか?
皆、砲撃の威力の凄まじさに引いてますけど……
さっきのジョディさんの話では、きっと汽車を襲おうとした盗賊団も、砲撃の餌食になったんですね…… その様子を見なくて済んだのは、良かったです。
それにしても―― もし、あの武器が戦争で使われたらどうなる?
そう考えると、絶対に『転生者』を暴走させてはいけない。こんな武器を作れる人が、魔族と手を組むようなことが起きたら、人族は絶対に滅びるよ……
そのためにも、『転生者の目的』というのを知る必要があるんだけど、私はいったいどうしたらいいんですか?
今更ながら、初代神官長の残留思念が怨めしいよ…… せめて、転生者と接触できる為のヒントくらい教えてくれたらどうなのよ!?
あの爺さんが、レムス王国の歴史上1・2を争う偉い人だったなんて、私は絶対に認めないから!
・・・・・・
「間もなくマチョリーノに到着いたします。お降りの方は、お忘れ物にご注意ください」
車内アナウンスが、マチョリーノ到着を告げました。
「これほど速くて快適な乗り物があるなんて! ジャガル帝国にも汽車を走らせてもらうように、お兄様に頼んでみようかしら!」
クラネス姫は、今回の視察に一緒に行く予定ではなかったのですが、どうしても「マチョリカ公国を見たい」と仰って、無理矢理ついてきました。
入学試験といい今回のことといい、初めて会ったときの『お淑やか』という印象は、今や全くないです。結構な『お転婆の駄々っ子』ですね。
でも、この旅行中は、大人しくしておいてくださいよ。
「レムス王国にも、汽車があると便利ですね。国王陛下に頼んでみましょう!」
きっと、目玉が飛び出るくらいの値段が掛かりそうだよ。
線路の維持だって簡単じゃないと思うから、とてもじゃないけど無理だよね。
駅の外に出ると、そこはまるで『異世界』
『異世界』という表現は、地球から転生してきた私からすれば、おかしなことを言ってるみたいだけど、その景色は『地球の町』といっても違和感のないものでした。
駅前には、10階建てはあるビルが建ち並んでいて、それだけでも驚きの光景なのに、広々とした交差点で走っているのは――
「馬のない馬車が走っていますよ!?」
「ジョディ、アレは何?」
「私も初めて見る…… 前に来たときは、あんなの走ってなかったよ……」
自動車まで走っているなんて!?
「これは何なのですか? 本当にここが、マチョリカ公国の首都『マチョリーノ』なのですか? 十数年前は、小さな建物しかない普通の田舎町だったのですよ……」
神官長達も、空いた口が塞がらない程の驚きようだよ。
「上を見てください!?」
急に地面に大きな影が落ちてきました。
ヒエッ!? 上空に浮かんでいる物体は――
ひ、飛行船まであるんですか!?
予想以上の『転生者』の実力を目の当たりにして、その恐ろしさに震えが止まらないよ……
戦争になったら、あの飛行船から爆弾が落とされることが、容易に想像できるよ。
◇ ◇ ◇
飛行船内――
「ジード王子。いつ見ても、この飛行船からの眺めは最高でございますな」
「バール将軍よ。この程度の景色で満足しているようでは、お前もまだまだ甘いな」
「ハハハ、これは手厳しい。私ごときでは、王子の目指しておられる高みなど、到底考え及びません」
小さな子供に対し、頭を下げる大男『バール将軍』。
彼が初めてジード王子に会ったのは、ジードの3歳の誕生の宴の席であった。
そのときジードが行った演説に、バールは度肝を抜かれた。
ジードは、そこに集まっていた『権力者達』を『無能』と罵ったのだ。
子供の言動ということで、皆笑って聞いていたが、バールを含め大半の人間は、その不躾な態度を不快に感じたのだった。
だが、彼らはすぐに、ジードの卓越した能力に驚かされることとなる。
貧しい小国であったマチョリカ公国は、常に食糧不足に悩まされていた。
それが、ジードの的確な進言による治水工事・農地整備により、僅か数年で食糧危機を脱することができたのだ。
しかも、ジードの才能は治世にとどまらなかった。
彼の開発した商品は、近隣諸国で瞬く間に大人気となり、国の財政を潤すこととなったのだ。しかも、その恩恵は惜しみ無く国民に分け与えられ、国内の経済も急速に発展していった。
更に、誰も想像すらできなかった乗り物や武器の発明により、今やマチョリカ公国はムセリット1の技術大国であった。
国民の誰もが、ジードに畏敬の念を持ち、『王』と認めるようになっていた。
しかしジードは、開発した兵器を使って他国を脅すつもりはなかった。
それは、彼の目的が『世界征服』などという世俗的な物ではなく、あくまで兵器開発は『大国の侵略からの防衛手段』としか考えていなかったからだ。
ところが、最近になってジードの考えに変化が起きていた。
彼の目的を達成するためには、大国にある『古代迷宮』を調べる必要があることが分かったのだ。
『古代迷宮』を他国から奪い取る――
ジードは、そのためには『手段を選ばない』ことに決めたのだった。




