第62話 また、神殿の地下迷宮ですか?
私達が隠し通路から出てきた場所は、
「ここは第1階層の北東の端だね。こんな所に隠し通路の入口があったんだね」
第2階層への階段は西側だし、ここは一見して岩があるだけで他には何もないから、殆ど人が近付くことがなかったようです。
「この通路のことは、僕達だけの秘密にしておきましょう。魔道人形のいる部屋に、誰かが間違って入ったら大変ですからね」
「そうだね。あそこの本には興味あるけど、幽霊にはなりたくないから、私も黙っておくよ」
ジョディさんも同意してくれて良かった。
「でも、どうしてこの迷宮内に隠し部屋が作られていたのか、気になりますね」
クラネス姫、そんなことは気にしないで。私がカルラさんから『あの部屋の管理』を引き継いだんで、何か起きたら私の責任になるんです。
「この迷宮は、第二学院の初代神官長が造った、って言われてるんだけど、もしかして、あの部屋にあった本が、初代神官長の残された貴重な物だったりして」
えっ? このカーラの迷宮を造ったのも『初代神官長』なの?
あの爺さん、神殿の地下にも迷宮を造ったり、迷宮大好きな迷惑な方だったんだね。
「初代神官長様とは、どのようなお方だったのですか?」
「大予言者にして大賢者と謳われて、レムス王国の歴史上1・2を争う程、凄く偉い人だそうよ。神殿の食堂に肖像画が飾られているから、1度見ておくといいよ」
あの肖像画は、本人とは似ても似つかない程『美化』されてますけどね。
・・・・・・
「そこを曲がった所に、ドブチュウが2匹います」
クラネス姫の強さを知ってしまってから、警戒して歩くのがバカバカしくなってきました。
ドブチュウやオオバットくらいなら、その木剣でも瞬殺できますよね?
それなのに、絶対に自分で戦おうとせず、私に任そうとするのはどうしてですか?
「ドブチュウ2匹くらい、クラネス様の実力なら簡単に倒せると思うのですが……」
失礼と思いながらも尋ねてみると
「マセルくん。女の子は、例え魔物でも生き物を殺すのは抵抗があるんだよ」
確かに、前世の自分のことを思い返すと、魔物と戦うこと自体信じ難いことですが、慣れというのは恐ろしいもので、今では割と当たり前に戦えます。
そんな私でも、『手榴弾で大量殺戮』は精神的にキツかったよ…… それを平気でできる方が、そんなことを言っても、説得力皆無ですよ。
「魔物を斬ると血が出ますよね」
それはそうですが、まさか血が怖いの?
でも、クラネス姫は魔物の死体の転がった横を、平気で通り過ぎてましたよね?
「魔物の返り血が服に付くと、なかなか臭いが取れないのです」
まさかの答え。
血を見るのが怖いのではなく、返り血が付くのが嫌で、戦わなかったんですか……
「早く攻撃魔法を覚えて、私もマセルさんのように、離れた場所から攻撃できるようになりたいです」
クラネス姫が、攻撃魔法に興味を持った理由が良くわかりました。
結局ドブチュウは、私の火球で仕留めました。
その後もクラネス姫は、魔物とは1度も戦わなかったのでした……
◇ ◇ ◇
クラネス姫は、入学試験に無事合格。
試験の翌日から『戦闘魔法技能科』の1回生として、授業に参加するようになりました。
私は神官長の『クラネス姫を合格させるな』という指令を破ったために、神官長からお説教を食らい、暫く神殿の地下迷宮の礼拝堂の掃除をするように、言い付けられてしまいました。
何とも理不尽な話だけど、そのお陰で『ジョディさんの実験』に付き合わなくて済むので、このままずっと掃除を任されるのも悪くないです。
ということで、午後の授業の後に、私は1人で神殿の地下迷宮に向かっています。
「マセル、よく来ました」
神官長が、迷宮の入口の前で待っていました。それともう1人、見たことのない若い男性も一緒にいるけど、この人も学院の先生かな?
「では、行きましょうか」
2人も一緒に行くようです。
掃除を手伝ってくれる―― なんてことはないですよね。多分、私一人ではさぼると思われていて、監視するつもりですね?
ハァハァハァ……
礼拝堂まで、僅か10分程で到着。神官長達がダッシュで前を行くから、私も必死に追いかけたよ。
神官長はともかく、この男性も殆ど息を切らせていない。かなり鍛えられた人のようですね。
「マセル、今日の目的地はここではありません。あの先へ私達を案内してほしいのです」
神官長が指しているのは、祭壇の後ろの壁―― あの先って、もしかして『初代神官長の墓』のことですか?
いやいや、あそこまで行くのは滅茶苦茶遠いですよ。それに、行き方は入学試験の後で説明しましたよね?
「実は、あなたから教わった方法を試しても、ここの壁は開かなかったのです」
えっ?『開かなかった』って、どうして?
祭壇の後ろの壁に書かれた神聖文字を見て、その理由がわかりました。
『壁の隙間に左手を入れて、土系の魔力を流せ』
前に私が見たときは、この壁の文字はそう書かれていました。
それなのに今は
『右手を入れて、風系の魔力を流せ』
まさか、壁に書かれた文字が変化してるなんて!?
私が壁の文字を読むと、神官長の横に控えていた男性が、すぐに隙間に右手を突っ込みました。
ゴゴゴゴゴ……
壁が左右に開きました。
「さあ、行きましょうか」
神官長は、そう言って壁の奥へ進もうとします。
「あの…… 礼拝堂の掃除は……」
「大丈夫ですよ。掃除は、こっちの用事が終わってからでいいですから」
「掃除しなくてもいいよ」という返事を期待したのに、後からしないといけないようです。となると、夕飯も抜きになるし、絶対に徹夜だよ……
拒否することもできず、私は強制的についていくことになりました。
・・・・・・
その後の仕掛けも前回とは違っていたけど、私は神聖文字が読めるから、特に問題なく仕掛けを解いていました。ところが――
こんな所、前のとき通った記憶がないよ?
見覚えのない行き止まりに来てしまったよ。
「ここが王都のどの辺りか、わかりますか?」
神官長が男性に尋ねましたが―― その人、どなたなんですか?
全く紹介されないから、ずっと気になっているんです。第二学院の先生なら、知らないと失礼になるから、今更私からは聞き辛くて困ってるんです。
「恐らく、西広場の辺りです」
西広場!? 王都の中心地からは、結構離れてますよ。初代神官長の墓は『王都の中心』にあった筈です。
「壁の前に、何か立っているようですね」
神官長の言う通り、何かが立っています。また、仕掛けを解くためのヒントかな?
近付いてよく見ると
「石碑―― のようですね?」
それには、ギッシリと細かい文字が書かれています。確か『初代神官長の墓』にも、これと同じように文字がいっぱい書かれていましたよ。
嫌な予感がするんで、私は少し離れておこう。
「何が書いてあるか、わかりますか?」
「残念ながら…… 所々読める部分もありますが、殆ど未解読の神聖文字で書かれています」
「そうですか。では―― マセル!」
神官長が私を呼んでいます。読みたくないから離れていたのに……
「あなたは読めますよね」
『否定は認めない』と言わんばかりの強い眼力で睨まれたら、頷くしかないです。
仕方なく石碑の前に進み、文字を読み始めたら―― やっぱり来た!
私は、頭が割れそうな強烈な頭痛に襲われました……




