第61話 V.S.魔道人形
魔道人形はゴーレムと同じで魔法耐性が高く、私の攻撃魔法ではダメージを与えることができないので、肉弾戦で直接攻撃を当てないといけません。
でも、魔道人形の攻撃手段も『格闘』のようなので、私の方も遠距離攻撃を警戒する必要はなさそうです。
とはいえ、王族や貴族が重要な場所の警備に使用する魔道人形が、絶対に弱い筈がないので、何とか私から先制攻撃をしかけて、優位に立ちたいところです。
今、魔道人形は出口の方を向いていて、私に背中を向けている。まだ、私に気付いている様子はなさそう。
これは先制攻撃のチャンス!
この距離なら、身体強化を使って全力ダッシュすれば、1秒掛からずに私の攻撃距離まで近付けるよ。
私はゆっくりと魔道人形の索敵範囲に近付いて行き、後1歩で8m―― という所で足を止め、緊張を解すために1度深呼吸をします。
そして軽く屈伸運動して、緊張で力が入っていた身体をリラックスさせた後、身体強化3倍を発動―― 戦闘準備に入りました。
用意…… 私はクラウチングスタートの態勢を取り
スタート! 地面を強く蹴って、一気に魔道人形の背中に接近。
無防備な後頭部に向かって、全力の右ストレート!
決まった!
と思ったのに、手応えなし……
魔道人形が消えた!? と思った瞬間
ドン!
私は背中に強い衝撃を受けました。
目の前に壁が!?
私は、瞬間的に両手を突き出して、何とか壁に頭がぶつかるのを防ぎました。
魔道人形は、私の右ストレートをジャンプして躱すと同時に、態勢を崩した私の背中に蹴りを入れたようです。
私は吹っ飛ばされて、危うく頭から壁に激突するところでした。
今の奇襲攻撃が簡単に躱されるなんて……
あの反応の良さは脅威ですよ。正面からの私の攻撃じゃあ、全く当たる気がしないよ。
でも、今の魔道人形の『蹴り』の威力は、正直大したことがなかったよ。
無防備で食らったのに、ダメージは殆どないです。急所にさえ攻撃を食らわなければ、一撃でやられることはなさそう―― といっても、攻撃の当てられない私の方が圧倒的に不利だし、どうしよう……
とか悩んでる間もなく、魔道人形が私に急接近―― 魔道人形は、左右のパンチから蹴りを混ぜたコンビネーション攻撃を仕掛けてきました。
私はそれを必死にブロック。
痛いことは痛いけど―― ドラゴンさんの蹴りの威力に比べれば、全然平気です。十分に耐えられますね。
後は、パンチか蹴りか、どちらかに絞って攻撃を止めて、反撃に出る!
私が狙うのは右パンチ。
態と蹴りを受けて隙を見せたら、食いついてきたよ!
フィニッシュに、やや大振りの右ストレートを打ってきた所を、身を屈めるような低い態勢でパンチを躱し、素早くタックル!
そのまま相手を倒して寝技に移行。
やった! マウントポジションを取るのに成功。そのまま両腕を押さえ付けて、身体を密着―― 魔道人形の動きを封じ込めたよ。
私もこのまま動けないけど、この隙にクラネス姫とジョディさんを部屋の外に逃がせます!
私は、2人を逃がした後で、戦わずに部屋を出ればいいだけです。
「2人共、今です! 僕がコイツを押さえてる間に、部屋から出てください!」
階段の下に待機していた2人が、顔を見せました。
「わかったよ。マセルくん、頑張ってね!」
先にジョディさんが出口に向かって走り、少し遅れてクラネス姫も走りました。
魔道人形が、私の拘束から逃れようと、必死に暴れるけど―― 逃がすもんか!
私も必死に押さえつけます。
ジョディさんが出口の前まで到達。
よし、後少し! と思ったそのとき
痛っ!?
突然の左手の痛みに驚いて、私は魔道人形の右腕の拘束を解いてしまいました。
左手を見ると、血が出ている……
なんと!? 魔道人形の右腕が、刃物に変化してますよ!
魔道人形が右腕で斬りつけてきたのを、私は転がって避けました。
私が起き上がろうとしたときには、魔道人形は既に立ち上がっています。
ヤバい……
魔道人形が動きました!
狙いは―― クラネス姫です!
私は必死に叫びました!
「クラネス様、逃げてええぇぇぇ!」
ところが、クラネス姫は恐怖で動けないのか、その場に立ち止まっています。
あああ……
魔道人形は、一瞬でクラネス姫の目の前まで移動―― そして、刃物と化した右腕を振りかぶり、クラネス姫を突き殺そうとしています。
私が目を背けたと同時に
イヤアアァァァッ!!
クラネス姫の悲鳴が響きました。
ドサッ!
そして何かが倒れる音が!?
ごめんなさい……
私は心の中で、クラネス姫に謝りました。
1秒の沈黙の後――
「マセルさん、早く!」
クラネス姫の声が聞こえる。
そうか…… こんなにすぐに、私を天国に迎えに来たんですね。
「マセルさん。魔道人形は倒しましたから、早く部屋を出ましょう」
えっ!? 魔道人形を倒した!?
出口の方を見ると、クラネス姫が立っていて、その足元に魔道人形が倒れています。
これって、どういうこと?
・・・・・・
魔道人形の右腕が、クラネスを貫くかと思われたその瞬間――
クラネスの持つ木剣が閃いた!
それは正に、閃光のような3段突き。
クラネスの木剣は、魔道人形の『額』『喉』『胸』を一瞬で突き抜いたのだ。
魔道人形は、ゴーレムと同様に、魔法陣からエネルギーを供給されている。そして、魔道人形の魔法陣は、『額・喉・胸』のどこかにあるのだ。
この魔道人形の魔法陣は喉の位置にあり、クラネスの突きによって、魔法陣は見事に粉砕されていた。
・・・・・・
つまり、あの声は悲鳴じゃなくて、クラネス姫の『気合』だったんですね。
クラネス姫が魔道人形の魔法陣を破壊したから、コイツは動かなくなった。
そういうことですか……
って、嘘でしょ!?
確かに魔道人形は、攻撃しようと振りかぶったから、一瞬動きは止まってたけど…… 普通あの一瞬で、3回も『突き』を打てますか!?
しかも、ピンポイントで急所に命中―― って、どんな達人ですか!?
私が訝しげにクラネス姫を見ていると
「大丈夫ですよ、マセルさん。この魔道人形は自動的に修復して、3時間後には復活しますから、壊したことは気になさらずに」
いえいえ、誰も魔道人形の心配はしてませんよ。
それにしても、『姫様=弱い』と思い込んでましたけど、本当は私よりもクラネス姫の方が強いんじゃあ……
確かに武器が木剣ですから、攻撃力に不安はあるけど、普通に刀を持っていたら、滅茶苦茶戦力になったんじゃあ?
今更そんなことを言っても仕方ないですね。ちょっとモヤッとするけど、さっさと迷宮を脱出しましょうか。
あの魔道人形以降は、危険な目にあうこともなく、私達は途中休憩を挟んでも、3時間掛からずに第1階層まで戻ってこれました。




