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第60話 隠し部屋へ行きましょう

 私が元の場所に戻ってくると、『幽霊=カルラさん』の姿は当然ありません。


「あれ? 幽霊が急に消えたよ?」


「マセルさん、幽霊はどうなったのです? マセルさんが話を聞いてあげたので、成仏なさったのですか?」


 まあ、確かに私が『幽霊の話を聞いた』と言えなくもないので、そういうことにしておきましょう。


「ええ。これで2度とこの迷宮に、幽霊は現れない筈です」


「それはそれで、ちょっと残念な気もするけど、マセルくんが、幽霊と何を話したのか、私にも教えてくれないかしら?」


 うっ…… ジョディさんは、話し辛いことをピンポイントで聞いてきますね。


「そ、そんなことより、今は早く試練を終わらせることに集中しましょうよ」


 取り敢えず、この場は話をはぐらかして、帰り道で良い言い訳を考えておかないと。


「そうですね。先に目的を達成しておきましょう」


 私達は無事、祭壇から宝石を手に入れることに成功しました。


 これで、後は入り口まで戻るだけです。

 帰りも『ICレコーダー』を使えば、苦労なく戻れる筈―― って思っていたのに


「この魔道具の魔力が切れたみたいだ。『Power』のランプが消えたから、ボタンを押しても何も反応しなくなっちゃったよ」


 ジョディさんが『ICレコーダー』を持ったまま、そんなことを言いました。


「まあ…… それは困りましたわ」


 どうやら、電池切れのようですね。


「それに、この『携帯トーチ』の光も、大分弱くなってきています」


 更に悪いことに、懐中電灯の電池まで切れかけていました。


「そっちは大丈夫だよ。交換用の『魔力パック』があるから」


 ジョディさんは、リュックから乾電池を取り出して、懐中電灯の電池交換をしてくれました。


「その『レコーダー』の方は、交換パックはないんですか?」


「こっちの魔道具の交換パックは、ちょっと高価だったから買わなかったんだよ。他にも欲しい物が一杯あって、手持ちのお金が足りなかったからね」


 因みに、乾電池1個が大銅貨1枚(約千円)で、レコーダー用の電池が銀貨3枚(約1万5千円!)だったとか。


「あの時は、いろいろ買いすぎて馬車が一杯になっちゃったよ」


 いったい、いくらお金を使ったんですか? 聞くのがちょっと怖いよ……


   ・・・・・・


 迷宮探索を始めて、ここまで約11時間。


 私は、マッチョ爺さんの所で、風呂にも入ってきたので体調万全ですが、クラネス姫もジョディさんも、かなり疲労が溜まっている筈です。


 ここで一休みしたいところだよね。

 でも、帰りに掛かる時間を考えると、余裕が全くないです。


 行きと同じルートが最短だけど、『ICレコーダー』が使えないから、帰りは魔物との戦闘は避けられない…… 最短ルートでも13時間以内に戻るのは厳しいです。


「もう間に合いそうにないですね……」


 クラネス姫が悲しそうに呟きました。


「クラネス様、まだ諦めるのは早いです」


 こうなったら、カルラさんから聞いた『隠し部屋』へ行ってみよう!

 幽霊になる前のカルラさんは、その『隠し部屋』まで1人で行っていたそうなので、きっと迷宮の入り口から隠し部屋まで来れる『秘密の通路』がある筈です。


 隠し部屋の入り口は、祭壇の後ろ…… ジョディさんに隠し部屋がバレるのは、いろいろと不安だけど、試験に合格するにはそこに行って、秘密の通路を探すしかないです!


「マセルさん? 何か方法があるのですか?」


「絶対―― とは言えませんが、幽霊から『隠し部屋』のことを聞かされました。もしかすると、その部屋から入り口までの『通路』が見つかるかもしれません」


「マセルくん、幽霊とそれほど話していた雰囲気じゃなかったのに、よくそんな部屋のことを聞き出せたね」


 ぎくっ!? ジョディさん、鋭いです。


「キミには、幽霊と意識を通じあえる―― そんな特殊能力があるのかもしれないね。この試験が終わったら、また調べないといけないね」


 また私は、ジョディさんに身体を調べられるんですね……


 私は覚悟を決めて、隠し部屋に入ることにしました。


   ・・・・・・


 ガガガガガガ!


 カルラさんから教わった呪文を唱えると、祭壇の後ろの壁が左右に開き、隠し部屋への入口が現れました。


 ゴゴゴゴン!


 私達が部屋の中に入ると、壁は再び閉ざされたようです。


「へえ…… 本当に迷宮の中に、こんな部屋が隠してあったんだね」


 隠し部屋の中は、思ったよりも広く、多くの本棚に囲まれていました。


 ジョディさんが本棚に手を伸ばして、本を取り出そうとしています。


「ダメです!」


 私は慌てて止めました。ここには『神代魔法の魔道書』があるかもしれないんです。


「マセルくん、そんな大きな声を出さなくても良いじゃない?」


「幽霊が言ってたんです。この中には、読んだら命を落として幽霊になる本があるそうなんです」


「まあ、恐ろしい……」


「ここにある本は随分昔の物のようだけど、保管状態は凄く良いね。歴史学研究科の人達に見せたら、絶対に泣いて喜ぶよ」


 でも、危険な本があるみたいだから、人に見せるのは止めた方がいいですよ。


「でも、私もまだ、誰も幽霊にはしたくはないから、残念だけどこの部屋のことは秘密にしておくね」


 ジョディさんが、珍しく引き下がってくれて良かったよ。でも、ジョディさんならいつか『誰か幽霊にしたい』と考えそうで怖いです……



 部屋の中を調べていると――

 ありました! 明らかに『隠し通路』って感じの、怪しい出口らしき扉が!


「ここを使えば、迷宮の入口まで早く安全に戻れるのでしょうか?」


 わかりませんが、可能性は高いと思うんです。それに、もうここに賭けるしか、時間内に戻ることは不可能です。


「どっちにしろ、ここを通るしかなさそうだね」


 扉を開けると細い通路が続いていて、その先には上り階段がありました。

 やっぱりここは、迷宮の入口まで戻れる近道のようですね!


 階段を上ると細長い部屋―― 幅は4mくらいですが、階段から出口までは結構遠くて15m程もあります。


「あっ!?」


 クラネス姫が、小さく驚いた声を上げました。


「どうしたんですか? クラネス様?」


「あれは【魔道人形】……」


「魔道人形だって!?」


 部屋の出口の手前5mくらいの所に、大人くらいの大きさの人形が立っています。


 スタイルが良く、キチンと衣服を着ているから、一見只のマネキン人形のようですが、クラネス姫がちょっと恐れていて、ジョディさんが興奮してるから―― きっと碌でもない物に違いないですね。


「魔道人形は、侵入者の排除を目的とする、戦闘に特化した魔道具なのです」


「私は初めて見るよ。王族や貴族なんかが、大切な場所の警備に使うそうなんだよ」


「ゴーレムでは大きすぎるので、王宮では魔道人形がよく使われます」


 ということは、あの人形―― 相当に『強い』ということですね。


 よくよく考えたら、大事な隠し部屋へ続く路に、何の仕掛けもしてない筈がなかったよね……


「勿論、魔道人形の攻撃対象は不審者だけですが、私達は……」


 私達は、間違いなく『不審者』ですね。


 困ったよ。時間内に迷宮の入口に戻るには、ここを通るしかないんだけど、あの魔道人形とは戦いたくないです。


「何か、戦いを避ける方法はないですか?」


「魔道人形の追跡範囲は、この部屋の中だけだと思いますので、あの出口まで逃げ切れれば戦いを避けられると思います」


 うーん。あの人形に見つからずに、出口まで行けるのかな?


「クラネスさん。魔道人形の索敵範囲がどれくらいかわかるかな?」


「私の知っている魔道人形の索敵範囲は、半径8mだった筈です」


「というわけだから、マセルくん―― キミだけが頼りだよ」


 やっぱり避けて通るのは無理ですね……

 ゴーレムには1対1で勝てたし、魔道人形相手にも何とかなるかな?


 やるしかないですね!

 私は覚悟を決めて、1歩前へ進みました。

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