第58話 使命を引き継ぐことになりました
私達が『最奥の部屋』の扉を開けると、正面に祭壇が見えました。
でも、その祭壇に続く道の途中に、ぼんやりと光る『何か』が浮かんでいます。
それは、良く見ると人の後ろ姿―― 長い黒髪に真っ白なドレスを着て、姿が透けている……
忘れていました…… この迷宮には、出るんでしたね……
目的地まで辿り着けたというのに、まさか部屋の中に幽霊がいるなんて!?
「ど、どうします? あんな所に立っていられたら、見つからずに祭壇まで行くのは難しいですよ?」
「うーん、そうだね。こうなったら、幽霊が何をしてるのか、聞いてみるのもありかもね」
「きっと、この世に未練があるのですよ。誰かが話を聞いて差し上げれば、成仏なさるかもしれませんね」
ジョディさんもクラネス姫も、私を見ながらそんなことを言います。
それって、私に『幽霊の話を聞いてこい』っていうことですか?
流石に、それは嫌ですよ。
とはいっても、ここで無駄な時間を食ってもいられないし、行くしかないですね。
私は覚悟を決めて、祭壇に近付くことにしました。
幽霊は後ろを向いていて、今のところ動く様子はない。
黙って通り過ぎれば案外気付かれずに済むかも?
幽霊さん、頼むからじっとしていてね。
という私の願いは叶いませんでした。3歩動いた所で幽霊が振り返りましたよ!?
「赤髪、見つけた」
表情はわからないけど、小さな声が確かに聞こえました。
『赤髪』って、私のことですか?
幽霊に知り合いも、恨まれる覚えもないから、人違いだよね?
それなのに、幽霊は私を見つめたまま『おいでおいで』と手招きしています。
私は、今すぐこの場から逃げ出したいのに、恐怖で金縛りにあったみたいに足が動きません。
その時、視界の端にジョディさんとクラネス姫が見えました。幽霊を避けて回り込むように祭壇へ向かおうとしています。
ジョディさんは、私に目配せしています。
「マセルくん。私達で宝石を取るから、キミは幽霊をしっかり引き付けておいてね」
って、その目は言ってる…… ジョディさん、私を見捨てるつもりですね!?
幽霊は、2人に気付いていないとは思えないのに、2人を完全に無視して私だけをロックオン。
「赤髪さん、おいで……」
嫌です…… 声は出せないけど、何とか首だけ横に振れました。
「そう…… じゃあ、こっちから行くね」
幽霊が私の方に一歩近付いた瞬間、私は声にならない悲鳴を上げて、横に飛び退きました!
自分でも驚くほど跳んだせいで、着地できず転倒……
慌てて起き上がったけど、幽霊は目の前に迫っていました!
もうダメだ……
そう思った時、私は『あのポーズ』をとって叫んでいました。
・・・・・・
まだ心臓がバクバクしてる……
どうやら私は、また『オープンザマッソー』を使ったようですね。
ピンチに陥ると無意識に使ってしまう、悪いクセが付いてしまったのかも……
私はちょっと落ち込みながらも、深呼吸して心を落ち着かせようとしました。
「よく来たな。元『早々野隆美』」
マッチョ爺さんが、いつものピチピチパンツ姿で迎えてくれました。
あれっ? 今日は珍しく、初めからマッチョ爺さんの横に誰かいますよ?
長い黒髪に真っ白なドレスを着た女性―― どこかで見たような?
「あの…… その女性は?」
「知らん。お前と一緒に、ここへやってきたみたいだな」
まさか、その女性…… あの部屋にいた『幽霊』ですか!?
「何をビビッておるのだ?」
マッチョ爺さん、その人『幽霊』なんですよ。平気でいられるわけないですよね?
「今更幽霊に驚くお前に驚くわ」
マッチョ爺さんは呆れたように言ったけど、驚いて当然ですよ!
私、幽霊を見るのは初めてなんですよ。
「バカかお前は…… ジョージもドラゴンも理沙絵も、幽霊みたいなものだろうが!」
あっ! そういえば皆さん、死んでおられましたね。そう思うと、急に幽霊が怖くなくなりました。
「ところで、お前は何者だ?」
マッチョ爺さんが、女性にいろいろと質問しました。
彼女は、随分昔に亡くなった方のようです。
自分の名前も忘れてしまっていましたが、何やら重大な使命を与えられていたみたいで、カーラの森の迷宮でずっと『誰か』を待っていたそうです。
その『誰か』というのが『赤髪の人物』らしいのですが、髪の色以外の特徴はわからないみたいです。しかも、使命の内容も忘れてしまっているようです。
「どうやらコイツは、一度消滅しかけたことがあるようだな。そのせいで、大事な記憶をいろいろと失くしてしまったようだ」
「記憶を取り戻せないんですか?」
「可能だが、それをするとコイツは『ムセリットの魂の管理人』の元へ送られることになって、幽霊として現世には戻れなくなるのだ」
それで別に問題ないと思いますけど?
「それでは、コイツは使命を全うできなくなるから、お前が代わりに使命を引き継ぐ、ということだな?」
えっ? 何でそうなるんですか!?
どうせ今のままでは使命は果たせないわけだし、私が引き継がなくても状況は変わりませんよね。
「コイツの記憶が戻れば、当然使命を果たそうとするだろう。だが、それはもうできない。幽霊になってまで使命を果たそうとするほど、強い意志を持っているコイツのことだ。使命が果たせないとなると、きっとお前を呪うだろう」
そんなまさか? とは思っても否定できない…… 使命のために幽霊になるような非常識な方ですから、逆恨みで呪われたりするかもしれないです。
仕方ないです。『使命を引き継ぐフリ』をして誤魔化そう!
「わかりました。僕が引き継ぎます!」
「よし、決まりだ! もしお前が約束を破ったら、死後『地獄へ落とす』ように『ムセリットの魂の管理人』に伝えておくからな」
そんな…… 酷いですよ……
・・・・・・
幽霊の名前は【カルラ】さん。
何と彼女は、王立第二学院の2代目神官長だったそうです。
カルラさんは初代神官長のお弟子さんで、死期を悟った初代神官長から、2つの使命を託されたそうです。
1つは、初代神官長が使っていた『神代魔法の魔道書』の保管。
魔道書は、悪用されたら大変なことになるため、それに、適正のない人が使用すると、命を落とす危険な物でもあるために、迷宮に隠して人を近付けないように頼まれたそうです。
2つ目の使命は、『赤髪の生徒』に『初代神官長の墓』を探すように伝えること。
理由は教えられなかったそうですが、初代神官長の死後800年前後に、迷宮にやって来た『赤髪の生徒』に伝えてほしい、と頼まれたそうです。
カルラさんは、20年以上前『赤髪の女生徒』が迷宮に来た時に、使命を果たそうとしたそうですが、その時一緒にいた『光魔法を使う女生徒』に刀で斬られて、危うく消滅するところだったそうです。
そのときのショックで記憶を無くしたけど、使命の断片だけは覚えていて、ずっと迷宮の奥で彷徨っていたのだとか。
「どうして幽霊になってまで、そんな使命を果たそうとしたんです?」
「私は師に頼まれていた魔道書を、欲に負けて興味本意で読んでしまったのです」
何と、そのせいでカルラさんは命を落として、幽霊になってしまったそうです。
『神代魔法の魔道書』恐ろしすぎる…… 私は、間違っても読まないようにしないと。
それから、2つ目の使命に関しては、思い切り心当たりがあるんですが……
兎に角、カルラさんの使命は私が引き継ぐことになりました。
「ありがとう、マセルさん。後のことはお任せしますね」
カルラさんは、その後『ムセリットの魂の管理人』の所へ、送られていきました。




