第57話 ある転生者の独白
私の前世は『地球人』だった。
私は7年前、不慮の事故で生命を落としてしまったのだ……
◆ ◆ ◆
死んだ筈の私は、トレーニング用の設備が充実した、謎の部屋の中にいた。
「お前は『・・・・』だな? お前はさっき事故で亡くなったが、超幸運だぞ!」
私の前に、異常に大きなマッチョな爺さんが立っていた。
「事故で亡くなった」と言われたが、私がここに存在しているのはどういうことだ?
爺さんは、『魂の管理人』だとか、意味のわからない言葉を捲し立てていたが、それよりも『ここがどこか』を知ることの方が、私にとっては重要だ。
「随分とノリの悪い男だな。すぐに転生できるというのに、そんな冷めた反応の奴は初めてだぞ……」
爺さんは不服そうに呟いていた。私は無視を決め込もうと思っていたが、彼の『ある言葉』に反応してしまった。
「転生…… だと?」
「やっと反応したな。そうだ、お前は今すぐに転生することができるのだ」
あの時の状況からして、私が即死したのは間違いない。
とすると、今の私は『幽霊のような存在』というわけなのか?
ハハハハ!『地球一の頭脳』と謳われ、非科学的な現象を否定し続けてきた私に、このような明らかに非現実的なことが起きようとは!
しかも、あり得ないことに、私は『転生』という爺さんの言葉を信じてしまっているのだ。
「どうやら、転生する気になったようだな。それでは、何か希望することはあるか?」
爺さんに聞かれた私は、『地球での記憶の保持』と『男に生まれること』の2つを希望した。
「その2つを希望すると、魂の寿命が1年縮まるが、それでもいいか?」
『魂の寿命』は100年あるらしい。ならば1年くらい減っても問題ないだろう。
私はそれを受け入れ、転生することになったのだった。
◆ ◆ ◆
私の転生先は『ムセリット』という世界だった。
私はその世界で、『マチョリカ公国』という小国の第3王子として生まれた。
この世界では、『魔法』という前世では作り話の中にしか存在しなかった力を、誰もが持っていた。
当然、私にも魔法は使えたが、それほど魅力的な力だとは思わなかった。
所詮は人間の有する力―― 科学の持つ圧倒的なエネルギーには遠く及ばない。
まず私は、科学の力で『マチョリカ公国』を『ムセリットで最強の国』にすることを目指すことにした。
それは別にマチョリカ公国の王子として、この国に住む人々のために働きたい、などと思ったわけでも何でもない。
私が転生を望んだ理由は唯ひとつ―― それは、地球に残した『愛する妻と娘の元に帰ること』それだけだ。
今の私に、それを実現するのはかなり難しいが、不可能ではない、と信じていた。
だが、研究には金と権力が必要だ。
力の弱い小国では、大国の圧力に屈し、滅んでしまう可能性がある。
そのため、早急にマチョリカ公国の軍事力を、大国と互角以上に押し上げる必要があるのだ。
私は地球での知識を生かし、この世界でも作れそうな物を生産し、それを売ることで財を得ることにした。
国が富めば、民衆の支持を得られ、軍備を増強しやすくなる。
そして同時に、兵器の開発にも着手する。
機械文明は遅れているが、その分は魔法で補えばいい。
必要な原料は、『迷宮』と呼ばれる場所で手に入れることができたし、優秀な魔道士がいれば、彼らは理屈を知らなくとも、設計図通りに正確に加工し、組み立てることができた。
個人の能力に頼る部分が大きいため、大量生産とはいかなかったが、確実に優秀な魔道士を増やし生産性を高めていった。
私の知識で作った商品は、どれも大人気となり、他国から来た旅人や商人が、こぞって買っていった。
特にインスタント食品の人気が、すこぶる高いようだった。
◆ ◆ ◆
私が転生して、6年が過ぎた頃――
マチョリカ公国は、計画通りに順調に国力を付けていた。
すでに父王は、私に殆どの権力を譲渡してくれていた。
私の圧倒的な能力の前に、兄弟達も逆らおうとはせず、寧ろ喜んで私の下に付いてくれた。
尤も、私は無駄な権力争いをするつもりもないから、兄弟達には十分な富と役職を与え、不満を持たれないように注意している。
父王直属の親衛隊も、今は私の親衛隊となり、手足のごとく働いてくれている。
そんなある日――
私は『地球への帰還』のための最大の『可能性』を発見した!
それは『転移魔法』
転移紋という紋章を設置した場所へ、瞬間移動できる魔法だ。
転移紋を地球に設置できれば、地球へ跳ぶことも可能な筈だ!
とはいえ、転移紋を地球に設置する方法はあるのか?
地球に転移するために、どれだけの魔力が必要なのか?
その日から私は、魔法について記された文献を読み漁り、転移魔法のことをひたすら調べた。
そしてとうとう、『転移紋を地球に設置する方法』を見つけたのだ!
地球のある方向と距離さえわかれば、転移紋の設置は可能――
地球の方向と大まかな距離は、星の位置から計算できる。
一番の問題は、『神代魔法』と呼ばれる、今は失われた『特殊な魔法』を使う必要がある、ということだ。
漸く手掛かりを見つけたのだ。
絶対に『神代魔法』を手にいれなければならない!
◆ ◆ ◆
つい数日前のこと――
「ジード王子! 古代迷宮の側で、魔族の目撃情報があったそうです!」
魔族だと!?
これは絶好の機会だ。私の読んだ書物には、『魔族とは、長命で魔法に長けた種族』と記されていた。
捕まえて、神代魔法に関する情報を聞き出せるかもしれない。
そう考えた私は、親衛隊を引き連れ、古代迷宮へと向かった。
しかし、そこで見たのは―― 虎顔の人間?
コイツはどう見ても脳筋で、魔法に長けているとは思えなかった。
だが、コイツのタフさは何かと実験の役に立ちそうだ。
それに、他の魔族についての情報も得られるかもしれない。
私はその虎男を、研究室へと運ぶように指示したのだった。
・・・・・・
迷宮の中には、神聖文字という古代文字の記された場所がある、と聞いた。
神聖文字を調べれば神代魔法についても、何かわかるかもしれないのだが、残念ながらマチョリカ公国内にある迷宮には、神聖文字の記された場所はないようだ。
『神聖文字がいくつも発見されている』という迷宮の大半は大国にある。
我が国の軍備も整ってきた。
今なら、どの大国と戦争しても負ける気はしない。
そろそろ次の段階に入る頃だな。
私は、膝の上に座る『マリア』の喉を撫でながら、そんなことを考えていた。




