第55話 その魔道具って……
「ジョディさんの戦闘スタイルは、魔法系ですか? それとも武術系ですか?」
魔物と遭遇したときの連携を考えるためには、メンバーの戦闘スタイルを知っておく必要があります。
本当は、もっと早くに聞いておくべきだったけど、ジョディさんと2人でいると、何をされるか分からないから、今まで聞けずにいました。
「私は医者だよ。戦闘魔法も武術も使えないよ」
ジョディさんは『さも当然』と言わんばかりで返答されましたけど……
どうして? 戦闘できないのに、魔物のいる迷宮探索に来る気になったんですか!?
「でも、大丈夫大丈夫! いろいろと準備してあるから、心配無用だよ!」
全然、心配ですよね! どうしてそんなに自信満々でいられるのか、その神経が信じられないよ!
今日のクラネス姫は、探索に向いた機能性重視の服装をしています。足下を調べるための杖まで準備してるなんて、迷宮探索をよく理解してますね。
「じゃあ、クラネス様の戦闘スタイルは……」
一応クラネス姫にも聞いておこうと思ったものの、『洗礼の迷宮』のときのことを思い出すと、戦闘ができるとは思えません。
「私は、剣術を少しばかり嗜んでおります」
剣術? それは意外です。『洗礼の迷宮』探索のときは剣を持ってなかったようですが、今日は持ってきてるのかな?
「でも、エリック兄様が『刃物を振るのは危険だ』といって、稽古のときも木剣しか持たせてくれないのです」
そう言いながら、クラネス姫は木剣を見せてくれました。
その木の棒、杖だと思ってました…… その棒では、魔物と戦えないですよね。
結局、戦力は私一人か。
2人を守りながら、『最奥の部屋』まで行けるのか、不安いっぱいです……
・・・・・・
ファイヤーボール!
ドン! ドン! ドン!
ふう。最初の戦闘は、無傷で乗り切れたよ。
ネズミの魔物3匹と遭遇しましたが、遠距離からの火球で倒せました。
第1階層の魔物は、今の【ドブチュウ】か蝙蝠の魔物【オオバット】くらい―― どちらも弱い魔物だから、油断しなければ私の魔法で十分対処できます。
「その曲がり角の向こう、5mの所に『オオバット』が4匹います」
懐中電灯は基本前方3mくらいしか照らさず、曲がり角があるとクラネス姫の感知魔法で、先に魔物がいるか確認します。
クラネス姫の感知魔法の有効範囲は半径10mですが、それでも十分役に立ちます。
「ファイヤーストーム!」
曲がり角の向こうに炎の嵐を発生させ、危なげなく魔物を仕留めました。
「マセルさんは、中級の攻撃魔法も使えるのですね」
「でも、僕は炎の嵐は無詠唱では使えないので、今みたいに魔物に気付かれていないときしか使えないです」
詠唱魔法は、詠唱の文句が決まっているだけでなく、詠唱のリズムも決まっていて、リズムが早すぎても遅すぎても、効果が小さくなります。正しいリズムで唱えないと威力が発揮できないから、戦いながら唱えるのは難易度高いのです。
「でもマセルくんの魔法、中々の威力だったね。これは、いい研究データが取れそうだよ」
ジョディさんは、相変わらずマイペースですね。その余裕が羨ましいよ。
・・・・・・
「そこを曲がったら階段がある筈だよ」
流石ジョディさん! 1度迷宮の最下層まで行ってるだけあって、最短ルートで階段まで来れました。
かなり慎重に進んでいるので、ここまで1時間近く掛かりましたが、魔物に気付かれる前に戦闘を終わらすことができています。
「ジョディさん、第2階層はどんな所なんですか? どんな魔物が出ますか?」
しっかりと情報を確認して、対策を立てておかないと。
「そうだね、広さは第1階層の倍くらいあったね。魔物は、犬っぽいのが増えるくらいで、大したことなかったよ」
犬の魔物ですか……
転生してから、犬の魔物には何度も襲われているけど、前世で犬好きだっただけに、結構キツいんです…… 自分の命が掛かってるから、そんなこと言ってられないけどね。
でも、できるだけ遭遇しませんように!
私はそう思いながら、第2階層への階段を下りていきます。
第2階層もジメジメして真っ暗―― 迷宮内って、たいていそうですけどね。
「ジョディさん、どっちに向かえばいいですか?」
階段を下りてすぐ、道が左右に別れていました。
「前来たときは右側を行ったよ」
「それじゃあ、僕達も右側の道を行きましょう」
私達が右側の道を進んで暫くしたとき
タッタッタッ……
前方から足音が聞こえてきました。
この足音は『ドブチュウ』のものではないですよ。
懐中電灯で正面を照らすと、20m以上先に1匹の犬を発見!
ファイヤーボール!
正面に向けて、火球を4連射!
ドドドドン!
その内2発が魔物に命中!
した筈なのに、一瞬怯んで動きが止まっただけで、すぐに態勢を立て直して走ってきます。
「あれは【ジャックル】です。火耐性の高い魔物なので、火系魔法は殆ど効きません」
火系魔法が効かないとなると厄介ですよ。
近距離で戦うしかないです。
ウインドカーテン!
まずは、風幕で魔物の視界を封じ――
マッスルブースト3倍!
からの―― 右ローキック!
ギャイン!?
魔物の鼻っ柱に思い切りキックを叩き込むと、吹っ飛んで壁に激突―― 魔物はそのまま動かなくなりました。
ふう…… 1匹だったから何とかなったけど、魔法が通用しないとなると、複数匹に襲われたらどうしよう?
まだ第2階層だというのに、早くも目の前真っ暗だよ……
・・・・・・
その後は、運良く『ジャックル』とは遭遇していません。
「ジョディさん、階段まで後どのくらいありますか?」
「そうだね。そこの突き当たりを左に曲がってちょっと行くと、約30m四方の大きさの部屋があって、そこを通り抜ければすぐだったよ」
そこそこ大きな部屋ですね。たいていそういう場所は『危険地帯』です。
そこで『ジャックル』の群れなんかと遭遇すると、とても2人を守りきる自信がないですよ。
「その部屋を迂回することはできませんか?」
「うーん。そこを迂回すると、2時間以上余計な時間を取られることになるよ」
2時間以上ですか…… まだ第2階層なのに、そこまで時間を取りたくないですね。どうしよう……
「マセルくん、そんなに悩まない! その部屋に魔物がいるとは限らないし、仮にいても大丈夫だよ」
ジョディさんは、リュックの中をゴソゴソすると、大事に包装された何かを取り出しました。
「ウフフフ。コイツを使えば、部屋の中に魔物がいても、一発でお終いだよ」
ジョディさんが包みを外して取り出した物は――
「そ、それって……」
「これも『マチョリカ公国』で買った魔道具だよ」
本当にそれが『魔道具』なんですか?
・・・・・・
部屋にゆっくりと近付く私達――
「います…… 10mの範囲だけでも4匹」
「さっき説明したように、私とマセルくんがこの魔道具を部屋の中に投げ込むから、クラネスさんは下がっていてね」
私は部屋の奥の方に、この魔道具を投げ込めばいいんですね。
「マセルくん、やるよ」
ジョディさんの合図でピンを外し、2人同時に魔道具を部屋の中に投げ込むと、私達もすぐさま後退。そして――
ドゴーン!!
部屋の中から大きな爆発音が!?
やっぱりあの魔道具―― 前世で戦争映画なんかで見た【手榴弾】でしたね。
部屋の中は、目を覆わんばかりの惨状でした。
暫く夢に見そうだよ……
心の中で手を合わせながら、足早に部屋を通り抜けました。




