第54話 偶然だよね
早朝から、私とクラネス姫とジョディさんの3人は、ベンプス先生の転移魔法で『カーラの森』に来ました。
そこには私達を待っている人が2人いました。
「クラネス…… 本当にこの危険な試験を受けるつもりなのか?」
1人はエリック皇子―― 心配そうにクラネス姫に尋ねられました。
「大丈夫です、お兄様。私は今までの甘えた自分と決別して、今日生まれ変わるのです。強くなった私が戻ってくるのを待っていてください」
「そ、そうか……」
エリック皇子は、クラネス姫にそれ以上何も言いませんでしたが、その後に私がエリック皇子に手招きされました。そして、周りに聞こえないような小声で言われたんです……
「万が一クラネスが怪我でもしたら、キミの命は確実に『ないもの』と思っておいた方がいいよ」
更に、その後には
「当然、明後日のレムス王国とジャガル帝国の『講和条約』の話もなくなるし、それどころか、再び戦争になること必至だからね」
8歳の子供が背負うには、重すぎるプレッシャー…… 当然私は必死に訴えましたよ。
「そこまで大事になると思っているなら、無理矢理にでもクラネス様の入学試験を止めてくださいよ!」
それに対するエリック皇子の返事は
「そんなことして、可愛いクラネスに嫌われたらどうするんだ!?」
エリック皇子、あなたはシスコンだったんですね。
イケメンのシスコン…… 久しぶりにクリスくんを思い出したよ。
もう1人は神官長です。
私は神官長に尋ねました。
「神官長様。どうしてクラネス様の入学試験を『カーラの森の迷宮探索』にしたんですか?」
「当然ですが、他国の方がレムス王国の学院に入学した、という前例はありません。今回は特例として入学試験を受けることを認めましたが、もし簡単に入学許可を出せば、今後他国からの入学希望者が大勢来る可能性があります」
確かに、そんなことになると学院側の対応が大変になるのは目に見えますね。
「そんなことになったら、私の仕事が忙しくなってしまうから、厳しい試練を課してクラネス様には諦めてもらおうと思ったのです」
「忙しくなるから?」
「そうです。私は、貴族社会とはできるだけ関わりたくないのです。今の毎月1度のレムス国王への報告会も、しきたりがどうのこうのと、やたら手続きが面倒なのに、これ以上面倒な事務仕事を増やされてはたまりません」
まさか、神官長の個人的な思惑が原因で、こんなことになったんですか!?
「ですが、もしクラネス様が今回の試練で怪我でもなさったら、どうするんですか? 神官長様、今からでも試練の内容を簡単なものに変更しましょうよ」
「学院の責任者として、一度決めたことを簡単に覆すことはできません。とはいえ、クラネス様は大切なご来賓―― 怪我をさせるわけには参りません。いいですねマセル、あなたは命懸けでクラネス様をお守りしなさい。そしてできれば、クラネス様の入学も阻止しなさい」
私の提案は、神官長にあっさりと却下され、それどころか、全部私に丸投げされましたよ!?
・・・・・・
神官長が試験の説明を始めました。
「9時になったら、クラネス様の入学試験を開始します。試験の内容は『迷宮の最奥の部屋まで行くこと』です。明日の9時までに、部屋にある祭壇から宝石を持ち帰ることができれば『合格』です」
『最奥の部屋』は迷宮の第5階層にあるそうです。
「24時間か。楽勝ね」
ジョディさんが呟きました。
「ジョディさんは、迷宮に入ったことがあるんですか?」
「ええ。2年前に『最奥の部屋』まで行ったことがあるわ」
おお! 経験者がいるなら心強いですよ!
「それで、そこまで辿り着くのは大変でしたか?」
「そんなことなかったわ。あの時は、10時間程で戻ってこれたわよ」
そうなんだ! 半分も掛からなかったのか!
クラネス姫は『洗礼の迷宮』で迷宮の厳しさを体験済みだし、案外楽勝かも。
「ベンプス先生とマチルダ先生も一緒だったけどね」
へっ? ちょっと待ってください。
その2人がいて『10時間掛かった』となったら、話が変わってきますよ!?
楽勝どころか、不安しかありません……
私には、もう1つ気になっていることがあったので、ベンプス先生に尋ねました。
「ベンプス先生。昨日シンディさん達が、迷宮内で『幽霊』を見たそうなんですが、大丈夫なんでしょうか?」
「幽霊? そういえば、ここ数年は出ておらんかったのう」
「ベンプス先生は、幽霊を見たことはあるんですか?」
「噂はよう聞いておるが、儂は見たことないのお」
そうですか…… ベンプス先生が知らないとなると、対策の打ちようがないですね。
「ホッホッホッ、幽霊に危害を加えられた人の話は聞かんから、そんなに心配せんでもいいじゃろう。それよりも、魔物に注意するんじゃぞ」
・・・・・・
とうとう試験が始まりました。
私達は3人だけで迷宮に入っていきます。
迷宮の入口の所で、ジョディさんが私達に話し掛けてきました。
「マセルくん、キミはこの荷物を持ってね。クラネスさんはこっち」
ジョディさんは、リュックを3つ持ってきていました。
かなり大きいリュック1つと小さいリュック2つ―― 当然、私は大きいリュックを渡されました。
結構重い、20kgくらいありそうだよ。
「この袋の中には、何が入っているのですか?」
「フフフ、とっても便利な道具ばかりだから期待しててよ」
クラネス姫の質問を、笑ってはぐらかすジョディさん。
本当に便利な道具が入ってるんですか?
ジョディさんが嗤うと、不吉な悪寒を感じます。
ギギギギ……
迷宮の入口の扉を開けました。
迷宮の中は当然真っ暗―― 私が松明に火を点けようとしたとき
パッ!
光が灯りました!
「まあ! ジョディさんは光魔法が使えるのですか!」
感嘆の声を上げたクラネス姫。
光魔法は物凄くレアで、レムス王国では神官長と他数人しか使い手がいないのです。
でも、私は別の意味で驚いています。
ジョディさん…… その【懐中電灯】はどうしたんですか!?
「クラネスさん、残念ながら光魔法じゃないよ。これは『携帯トーチ』という魔道具なのよ」
「魔道具ですか! 私、初めて見ました!」
「すごいでしょ! マチョリカ公国で買ったんだよ」
魔道具? 前世で使っていた懐中電灯とそっくりですけど……
「クラネスさんの分も、その荷物袋の中にあるから使ってみて」
気にしてなかったけど、このリュック―― これも前世で使っていた物にそっくりで、品質も驚く程良いですよ。
ムセリットの文明レベルで、これを作れるなんて想像出来ないよ。
「この魔道具はね、このボタンをONの方に移動させると灯りが点いて、OFFの方にすると消えるんだ」
ジョディさんが使い方を説明してたけど、まんま懐中電灯の使い方だよね!
マチョリカ公国…… もしかして、私みたいな転生者がいるのかも?
いいえ、偶然だよ。懐中電灯にしか見えないけど、只の魔道具だよね!
何せ、私は懐中電灯を知っていても、自分では作れないし、もし他に転生者がいても、私と同じで作れないよね、きっと……




