第51話 お世話係をすることになりました
7日後には、1ヵ月ぶりの第二学院の休日です。
ジョディさんが良からぬ計画を企てているようなので、私は王都脱出計画を練っています。
そんなとき、大きな出来事が起こりました!
なんと、レムス王国がジャガル帝国に終戦協定を申し出たのです。
そして、ジャガル帝国側もその申し出を請けて、講和条約が結ばれることになったのです!
条約の締結式は、3日後にここ『王都レムシール』で行われるそうで、ジャガル帝国からは第一皇子が代表でやってくる、という噂です。
勿論第二学院でも、この話題で持ち切りです。
「キミらは、ジャガル帝国を信用しても大丈夫だと思うかい?」
昼食のとき、ディアナさんが聞いてきました。
20年前、いきなり戦争を仕掛けてきた国ですから、私も簡単には信用できないですね。
「僕も信用できないな。でも、今のレムス王国とジャガル帝国の間には『魔の森』が広がっているから、簡単には行き来できないし、講和条約を結んだからといって、今とあまり変わらないと思うな」
リックくんは歴史学研究科なんで、ジャガル帝国とのこともちょっと詳しい様子。
私はこないだジャガル帝国まで行ったから、『魔の森』が危険なことはよくわかっています。
戦争以前は、2国が協力して『魔の森』を開拓して街道を作り、お互いに行き来できるようにしていたらしいけど、戦争以後街道はなくなっているので、簡単には行き来できないのです。
「条約を結んでおけば、何かメリットが有るってことだろうな」
「リックは、その『メリット』って何だと思うんだい?」
「さあ…… マセルはわかるか?」
今回の終戦協定は、『魔族の活動』が関係しているんだと思います。
神官長が国王陛下に働き掛けていたそうなので、『魔王復活』という人族全体の危機を前に、人族同士がいがみ合ってる場合じゃないでしょう、という流れになったんだと想像します。
でも私は、魔族のことは口外しないように言われているので、
「うーん…… 僕も思い付かないよ」
とりあえず誤魔化しました。
「じゃあ、エミリはどう思う?」
「私は政治の事は分からないけど、ジャガル帝国には『ジャガリッコ』っていうお菓子があって、とっても美味しいらしいのよ。それが食べられるようになるのがメリットだわ」
ジャガリッコ!?
私も前世では、よく似た名前のお菓子が好きだったよ。
「エミリ。その『ジャガリッコ』って、どんなお菓子なんだい?」
ディアナさんが食いつきます。
「確か、ジャガル芋を細長く切って揚げたお菓子、って聞いたわ。塩味が効いて美味しいそうよ。他にも『ポテッチ』という、ジャガル芋を薄切りにして揚げたお菓子も、癖になる美味しさらしいのよ」
ポテッチ!?
これって偶然? まさかと思うけど、このムセリットには、私以外にも地球からの『転生者』がいるのかも…… 今度、マッチョ爺さんに聞いてみよう。
・・・・・・
「今日は、皆にお知らせがあるんじゃよ」
授業が始まる前に、ベンプス先生が言いました。
まさか、また迷宮探索に出掛けるんじゃあ……
「明日の授業に、見学者が来ることになったんじゃよ」
「新入生が来るんですか?」
「マセルくん、新入生ではないんじゃよ。実はの、お忍びで『偉い人』が来るんじゃよ」
偉い人?
そういう方なら、貴族様の第一学院の方に行きそうなのに、第二学院の、それも不人気学科の『戦闘魔法技能科』の見学に来るなんて、物好きな方なんですね。
「それでの、マセルくん。その人の世話を、マセルくんに任せたいのじゃよ」
えっ!? 何故私に!?
「ベンプス先生! そんな方のお世話なら、僕より上級生の皆さんの方が適任だと思いますよ」
「そうよ! マセルなんかより、私に任せてくださいよ!」
そうですよ。ポリィさんと交代ということでお願いします!
「ポリィくん、もし粗相があったら牢屋行きになるかもしれんが、かまわんかの?」
「マセル、あんたに任せるわ。しっかり世話係を務めるのよ」
ちょっと待ってください! それって、私も牢屋行きの可能性がある、っていうことですよね?
「マセルくんなら、牢屋に入ってもきっと耐えられるよ。頑張って」
ボルツくん…… 何故、私なら耐えられると思うんですか?
「大丈夫よ、マセル。1日おきに差し入れしてあげるわ」
シンディさん…… 私、牢屋に入る前提ですか? それに、何故1日おき?
せめて毎日にしてください…… って、私、牢屋に入る気はありませんよ!
結局、私が来客のお世話をすることに決まってしまいました……
明日は絶対に粗相しないように注意しなくちゃ。
◇ ◇ ◇
「知ってるか!? さっき校内に、スゲェ豪華な馬車が入ってきたんだぞ!」
「リック、それ本当なの? お貴族様なら、普通は第一学院に行くでしょ?」
「嘘じゃないぞ、エミリ! でも、見たことない紋章だったな」
「へえ、リックでも知らない紋章があったんだね?」
貴族の馬車には『家を表す紋章』―― 所謂『家紋』が付いているので、紋章を見れば、その馬車の主人が誰か一目瞭然なんです。
私が知ってるのは『王家』の紋章くらいだけど、リックくんは「伯爵家以上の紋章は全部知っている」と豪語していました。
「うるさいなディアナ…… 多分、子爵家の馬車だったんだよ!」
「でも、ビックリするぐらい豪華だったんでしょ? じゃあ、子爵家ってことはないでしょ?」
どうやら、昨日言ってた『偉い人』が来ているようです。『お忍び』なんで、偽物の紋章を用意したのかもしれません。
プレッシャーが……
急にお腹が痛くなってきたよ……
・・・・・・
昼食後、いつものように人気のない『戦闘魔法技能科』の教室に向かっていると、
「ちょっとそこの学生さん」
後ろから誰かに呼ばれました。
「僕のことですか?」
振り向くと、見るからに高価な服装をした、長身で金髪の爽やかイケメンのお兄様が立っていました。年齢は20代前半くらいですね。
きっと『この人』が、今日私がお世話するお客さんだよ!
「私は【エリック】という者で、今日は私の妹がお世話になるんで、先に挨拶に伺ったんだよ」
半端ない『キラキラオーラ』で、笑顔が眩しいです。
それに、口調も柔らかくて気さくな方みたい。
「失礼しました、エリックさん。僕はマセルといいます。今日は、僕が妹さんのお世話をさせていただきますので、よろしくお願いします」
私も、畏まらずにフレンドリーに挨拶を返しました。
すると、イケメンお兄様は、ちょっと沈んだ表情を見せました。
しまった! 敬語を使わなかったせいで、気を悪くされたんじゃあ……
牢屋行きが頭を過って、血の気が引いてきました。
「す、すみませんエリック様…… 馴れ馴れしく話してしまい、真に失礼いたしました」
「いや、気にしなくてもいいよ。実は、私の妹は今『心の病』に掛かっていて、キミに迷惑を掛けるかもしれないんだ」
「心の病? どうかされたんですか?」
「最近、ちょっとショックな裏切りに合ったみたいで、他人を信用できなくなっているんだよ」
裏切りですか…… 貴族社会って陰険そうですものね。
「それで、気晴らしのために、レムシールまで妹を連れてきたんだ。それに、妹は昔から戦闘魔法に興味を持っていたんで、高名な魔術師を数多く輩出したと聞く、この学院の授業を見学するように勧めたんだよ」
「それなら大丈夫です! ベンプス先生の授業なら、絶対に妹さんも満足されると思います!」
「そうだね、期待しているよ」
「あの…… 妹さんのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「妹は『クラネス』というんだ。マセルくん、仲良くしてあげてくださいね」
クラネス?
まさか、エリックさんの妹って…… ジャガル帝国第2皇女様!?




