第48話 拉致されました
『魔王復活』に向けて魔族が暗躍している――
その事がハッキリと分かったので、神官長は国王陛下に『今回の調査』の結果を報告されたようです。
その影響か、今日の王都では、いつも以上に警備の兵士の数が増えていたそうです。
といっても、第二学院は普段と変わらない様子だったのですが、昼食時に私に事件が起こりました。
「マセル…… お前、また大きくなったな……」
「どうなってるのよ? マセル、ホントは『病気』なんじゃないの?」
「マセル、それ『呪い』でも掛かってるんじゃないのかい?」
いつものように、リックくん・エミリさん・ディアナさんと昼食を取ろうとしたんだけど、5日ぶりに私を見た3人は、やっぱり驚いた反応を見せます。でも、今回は私がマセルであることが疑われていないだけ、まだマシですね。
「ちょっと僕、今が成長期なんですよ」
兎に角、私の身体のことをつっ込まれても困るので、雑にごまかしていると
「キミがマセルくんだね?」
いきなり後ろから声を掛けられました。
振り返ると、上級生らしき眼鏡を掛けた女性が立っていました。
誰だろう? 初めて見る顔ですが、どこかで見たことがあるような気もする―― 私が考えていると
「ひえっ!?」
いきなりその女性は、私の身体をペタペタと触りだしましたよ。
「へえ…… これが8歳の身体とは、信じられないね。これは研究のし甲斐がありそうだよ」
「あ、あの…… あなたは一体?」
「ああ、ごめんなさい。私は『医術研究科』3回生の【ジョディ】という者だよ。怪しくないから安心してね」
ウインクされましたが、自分から「怪しくない」と言って『本当に怪しくなかった人』は絶対にいないよね。
「あの、僕に何か御用でしょうか?」
この思いっ切り怪しい女性に警戒しつつ尋ねました。
「実はキミの身体を調べたいんだ。マチルダ先生に、キミの身体の秘密を探るように頼まれたんだよ」
マチルダ先生に頼まれた!?
まさか、マチルダ先生は、まだ諦めてなかったんですか?
「それに、私自身もキミには興味を持ったよ! キミは前回の体力テストで、学内ワースト8位だったのに、今のキミは、マチルダ先生が驚くほどの身体能力を持っているそうじゃないか!」
「いえ…… 全然大したことないです……」
この人は危険な臭いがする。絶対に関わり合いになってはいけない―― そんな気がします。
「フフフ。昼食が終わったら、『医術研究科』第5研究室に来てちょうだいね」
ジョディさんは、そう言い残して去っていきました。
「マセル、大変なことになったね。医術研究科に狙われるなんて……」
ディアナさん、どういうことです?
「悪いことは言わないわ。逃げなさい」
エミリさん? 何か知ってるんですか?
「否、逃げない方がいいよ。あの人――『ジョディ』さんは『医術研究科』の首席だった筈だ」
あの人、そんなすごい人なんだ!
「そのジョディさんに、全身をいじくり回される、って―― 最高じゃないか!」
リックくん…… あなた、そういう性癖が有ったんだね。でも私はゴメンだよ。
ということで、悪いけど無視することにしました。
・・・・・・
「マセル、あなた、まだ呪いが解けていないの?」
久しぶりに『戦闘魔法技能科』の教室に行くと、シンディさんがいました。
シンディさん…… あなたが私に掛けた呪いは、聖水のお陰でしっかり解けましたよ。
「僕の身体は、『呪い』でも『病気』でもないようです。只の『急成長』だったみたいです」
「急成長? こないだまで、私と変わらない体格だったのに、異常過ぎるわ。恐ろしいことになる前に、調べておいた方がいいわ」
「だ、大丈夫ですよ…… 調べるなんて、必要ないですよ」
一瞬ジョディさんが頭に浮かんで、寒気がしたよ。
「あっ!? マセル、戻ってきたんだ!」
ポリィさんが教室に入ってきました。
「あんた、また大きくなったわね。私も身長伸ばして、ボルツよりも大きくなりたいから、コツを教えなさいよ!」
マッチョメーカー28号飲んで、トレーニングするだけですが、説明しようがないんですよ……
「そういえば、ベンプス先生がいない間、皆さん授業はどうしてたんですか?」
「勿論、自習よ」
「そうよ。私達3人でカーラの森の迷宮へ行ってたわ」
3人だけで、危険じゃなかったですか!?
「マセルくん、久しぶりだね」
ボルツくんが教室にきました。少しやつれた気がしますよ?
「お久しぶりです。皆さんだけで迷宮に行って、危険じゃなかったですか?」
「心配ないわ。カーラの森は、警備兵が巡回するようになったから」
「ボルツさんは、随分疲れてるみたいですが、大丈夫だったんですか?」
「ひどいんだよ、マセルくん! 2人共、僕だけに荷物持ちさせて、勝手にどんどん進んでいくから、僕は迷宮で置き去りにされそうになるし……」
それは可哀想でしたね。
「何言ってるのよ! あんたがしっかり付いてこないから、結局最下層まで行けなかったのよ!」
「ホッホッホッ。皆さん、久しぶりの授業を行いますぞ」
いつの間にか、教壇にはベンプス先生が立っていました。
・・・・・・
やっぱり、学院は落ち着きます!
久しぶりのベンプス先生の授業は、楽しかった!
新しい魔法の呪文を教えてもらったよ。
私が1人寮に向かっていると
「約束、守らなかったわね」
いきなり、背後から声がした!?
と思うと――
バチッ!
電気ショックのような衝撃が……
・・・・・・
こ、ここは何処?
「フフフ、お目覚めかしら?」
「ジョディさん!?」
動けない…… 拘束されてるみたい。
「私との約束を守らなかった罰よ」
「ぼ、僕をどうするつもりですか!?」
「大丈夫よ。ちょっと調べるだけだから、安心して!」
他人を平気で拉致するような方ですよ……
絶対に安心できません!
その手に持ってるのは、『注射器』ですか!? それで私に怪しいクスリを射つつもりじゃあ!?
「ちょっと血をもらうわね」
採血されました。すごく手慣れた感じで、全く痛くなかったよ。
「それじゃあ、骨格を調べるわね」
よく分からないけど、透視の魔道具を使って、レントゲン撮影をされました。
その後は、まるで前世の精密検査のような事を、一通り行われました……
「身長175cm、体重72kg―― 8歳でこれ程成長した人は、過去の記録にはないわ。しかも、只大きいだけじゃなく、筋力もまるで身体強化を使っているのかと思う程の数値ね」
150kgの重りを持ち上げて見せたら、ジョディさんは、かなり驚かれました。
「本当に興味の尽きないデータだわ。普通身体を鍛えたとしても、筋肉はついても身長は急激に伸びることはないわ。骨の成長が追い付かないからね」
ということは『マッチョメーカー28号』には、筋肉だけでなく骨まで急速に成長させる効果があったんだね。全然うれしくないけど。
「みっちりキミの身体を調べたけど、安心してちょうだい。病気の可能性はなさそうだよ」
いえ…… 知ってました。
「しかし、8歳にしてその体格は異常としか考えられないから、できれば今後も私の興味―― いえ、医術の発展のために研究に協力してほしいわ」
今『私の興味』って言いましたよね!?
やっぱり個人的興味で調べてたんですね。
ジョディさんは間違いなく危険人物です。今後付き合いたくはないですが、完全にロックオンされた気がします……




