第47話 奴は魔王軍六将軍の中で……
はっ!? 私―― 今、何をしてたんだっけ?
ずっと、頭の中を蝶々が飛んでいて、夢心地だった気がする……
『マッチョ爺さんの部屋』から現実世界に戻ってきたのは、何となく覚えてるんだけど、今の状況がよく分からないよ。
確か、『マッチョ爺さんの部屋』に行く前は、ネメアが『金剛石の塊』で今にも攻撃しようとしていた所―― だったと思ったのに、そのネメアが私の前にいないよ?
「マセルくん! 気を付けるんだ!」
あれっ? ゴランド先生の声が遠くから聞こえましたよ?
っていうか、皆さん―― どうしてそんな離れた場所にいるんですか?
「このクソヤロー……」
えっ? 今度は私の足下から人の声がした?
私が足下に目をやると、ネメアと思い切り視線が合いました……
何が起きてるの? ネメアがどうして私の足下に倒れてるの!?
「殺す…… お前だけは、跡形も残さず消し去ってやる!」
うわぁ、凄く怒ってるよ…… もしかして『洗礼の間』で殴ったことを、まだ根に持たれていたの? ネメアって、執念深そうな感じだから、きっとそうだよ。
バーン!!
ネメアの全身から噴き出した魔力? で、私は弾け飛ばされました!?
じょ、冗談でしょ!? やっぱり将軍の1人だけあって、とんでもない魔力だよ。これは、逃げないとヤバすぎます!?
私は立ち上がると、ネメアに背を向けて全速力で駆け出しました!
5m先に曲がり角がある! そこまで逃げなきゃ!
「死ねや! ゴラアアアアァァァァ!」
ネメアの怒声を背中で聞きながら、私は曲がり角に向かって必死のダイブ!
そのすぐ後に――
ドゴーン!!
凄まじい轟音と共に、迷宮の壁が消し飛びました!?
爆風に巻き込まれて、吹き飛ばされる私……
すぐにネメアが追い掛けてくる筈―― 倒れてる場合じゃないよ。すぐに立って逃げなきゃ!
それなのに、立てません…… あまりのショックに腰が抜けてしまいました。
終わった…… 私の人生―― 完全に終わった……
とその時、曲がり角の向こうから
ぎゃああああぁぁぁ!!
絶叫とも思える悲鳴が!?
何? 何が起こったの!?
・・・・・・
ネメアは完全に我を忘れていた。
背中を向けて逃げ出したマセルを見て、怒りの頂点に達したネメアは、マセルに向けて全力で魔法を放った!
その時ネメアは、マセルを殺すことしか頭になかったため、一時的に治療や防御に回していた魔力も全て攻撃に振ってしまった。
その僅かな隙を『神官長』は見逃さなかった!
偶然にも、マセルはグレシア達がいる方向と逆方向に逃げたため、ネメアはグレシアの動きを察知することができず、完全に無防備で背中を向けてしまったのだ。
グレシアの刀に心臓を貫かれたネメアは絶叫を上げた。
だが、それでも流石は魔王軍六将軍の1人―― 最期の力を振り絞って、『魔王の身体の一部』の入った箱を、迷宮の壁の穴を通して、仲間の所へ転移させたのだった。
◇ ◇ ◇
私達が『洗礼の迷宮』から外に出ると、カルトロさんとマーベラさんが出迎えてくれました。
2人は急にいなくなったネメアを心配していましたが、ネメアが魔族の将軍だったことを知ると、真っ青な顔になってしまいました。騙されたことを知って、ショックを受けたみたい。
でも、今回の騒動で一番落ち込んでいるのはクラネス姫です。
「私が騙されたせいで、『魔王の身体の一部』が奪われてしまいました……」
「姫様、落ち込んでいても仕方ありません。皇帝陛下へ、今回の事件を報告しなくてはなりません」
「きっと、陛下に叱られますね……」
姫様は泣きそうな顔をしています。ちょっと可哀そう―― と思っていると、姫様がトンでもないことを言ってきました。
「ご迷惑と思いますが、皆さんにも帝都まで来ていただきたいのです」
如何に姫様の頼みでも、私達は密入国者―― 調べられたら、私達の素性はすぐにバレます。ですから帝都に行くなんて無理です。
「姫様の仰る通り、皆様にも今回の報告のために、帝都まで来ていただけませんでしょうか」
カルトロさんも頼んできましたが、神官長は拒絶する筈……
「分かりました。ですが、今日の所は『カーロール』の町で一泊しましょう」
まさかの承諾!?
「ありがとうございます。帝都に戻れば、十分な報酬もご用意できますので、宜しくお願いします」
まさか、報酬に釣られたんじゃないですよね?
そして、カーロールの町に到着。
帝都に行くのは不安ですが、今日は何も考えずに、宿屋でゆっくりと過ごそう――
そう思っていると、いきなりベンプス先生が紙を広げて魔法陣を描き出しました。
「マセルくんも、早うこっちへ来なさい」
ベンプス先生が描いた『これ』って、もしかして『転移魔法陣』ですか?
「クラネス様、ごめんなさいね。私達は急いで国へ帰らないといけないので、ここでお別れです。またご縁があればお会い致しましょう」
神官長がクラネス姫達に別れを告げると、すぐに転移魔法が発動して、私達は第二学院の敷地に戻ってきました。
大人って汚いよね……
最後に見た、クラネス姫の悲しそうな顔が忘れられません。
結果的に、ネメアに続いて私達にも騙されたようなもので、この事がトラウマにならないか心配です。
◇ ◇ ◇
魔王城の一室では、魔王軍将軍達による緊急会議が開かれていた。
「まさか、ネメアが殺られるとはな……」
「人族如きに殺られるなど、我ら『魔王軍六将軍』の面汚しよ!」
「フッ。ネメアなど所詮は我らの中で『最弱』の奴……」
「否…… 口惜しいが、ネメアは我らの中でも最強の魔力を持っていて、その実力は我ら六将軍の中でも1・2を争う者だった筈だぞ?」
「た、確かに……」
「つまり、『ジャガル帝国』にはネメアを倒せる程の恐るべき使い手がいる、ということか…… これは、ジャガル帝国を攻めるのは、後回しにした方がいいな」
「そうだな。魔王様復活の暁には、まずは楽に落とせそうな国――『ズラーマン』ですら無傷で『魔王様の身体の一部』を奪取できた『レムス王国』から攻めるのが良さそうだな」
「異議なし! 最初に攻めるのは『レムス王国』に決定だ!」
「兎に角、残りの『魔王様の身体の一部』を早く手に入れなくてはならん!」




