第46話 大丈夫でえす!
何だか分かんないけど、気分最高だよ!
「大丈夫? 50kgの金属球10連発なんて、マセルくんにはまだ厳しいかもしれないわよ?」
「理沙絵師匠、大丈夫でえす! 全然ヘッチャラでえす!」
今の私は、何をやっても失敗する気がしないもん!
いいえ、失敗したって大丈夫―― 寧ろ失敗も成功と同じだよ!
・・・・・・
「ここでの修行も残り数時間なのに、マセルくん―― あの調子で大丈夫かしら?」
『マッチョ脳1号』を食べさせられたマセルは、目を覚ましてからずっとハイテンションで、無謀に近い訓練を自ら進んで行うのだった。
「フフフフ。『マッチョ脳1号』は儂の予想以上だ。まさかこれほど効果が持続するとは思わんかったわ。あのまま、恐怖心を持たず戦えるとなると、最高の状態ではないか! 何も心配することなどあるまい」
「いいえ、今のマセルくんは只の『能天気』ですから、かなり心配ですわ…… 寧ろ少し『恐怖心』を持つくらいの方が、慎重になる分、良い気がしますわ」
「筋トレもしっかりさせておるから、心配ない。筋肉が全て解決してくれる筈だ」
「それは兎も角、マセルくんの身体は、相当高い能力を秘めていますわね」
「ウム。確かにアヤツの身体は、『マッチョメーカー28号』との相性が、すこぶる良好だ。筋肉の成長が儂の予想以上に早い―― きっとアヤツの両親の筋肉スペックが高いのだろう。良い筋肉を継いでおるようだ」
「筋肉スペックはわかりませんけど、マセルくんの身体に宿るエネルギーは、とんでもない大きさです。それが諸刃の剣にならなきゃいいですけど……」
・・・・・・
「そろそろ時間だ。元の場所に戻る心の準備はできておるな?」
「大丈夫でえす! 心配要りませえん。『チョチョイのチョイ』って片付けて、後日報告に伺いますね!」
「マセルくん、少しは慎重になった方がいいですよ」
「理沙絵師匠、大丈夫でえす! 僕、絶好調ですから!」
そうです! 今の私は『無敵』な気がしますよ!
でも、何でこんなに気分がいいんだろう?
まあ、そんな理由―― どうでもいいですけど!
「そろそろ時間だ。頑張ってくるがいい」
「はあい! 頑張ってきまあす!」
いつものように、私の視界は真っ白な光に包まれ、そして―― 次の瞬間には『あの時の状況』に戻ってきました!
◆ ◆ ◆
それは、私が『オープンザマッソー』の呪文を使う前のこと――
・・・・・・
『洗礼の間』を出て、ネメアを追い掛けた私達でしたが、簡単には追い付けませんでした。
階層の途中途中に『行き』にはなかった『罠』が、いくつも張られていました。絶対にネメアの仕業です。
特に『魔物寄せ』の罠が厄介で、何度も何度も魔物と戦闘する羽目になり、時間も体力も随分削られましたよ。
「この罠は、単純に儂らの足止めのためだけではなく、ネメア自身の傷の回復の時間稼ぎも含まれておると思われますのお」
ベンプス先生は、そう仰いました。つまり、ネメアは私達が追い掛けてくることも想定しているわけです。
「それじゃあ、今回はネメアを追い掛けるのを諦めた方がいいんじゃないですか?」
私はそう提案しましたが
「きっとネメアは、傷を完治させて私達を待ち構える筈です。それに、私達が戻るのが遅れれば、外で待っているカルトロさんとマーベラさんが心配です」
そうでした…… クラネス姫のお供の2人のことを忘れてました。
「魔族とはいえ、グレシア様から受けた傷はそう簡単には完治せんでしょう。儂の見立てでは、完治には40時間は掛かる筈ですぞ」
ネメアとの戦闘は避けられない―― それなら、少しでも早くネメアに追い付きたいところですが、罠のせいで簡単ではありません。
「ここから先の魔物とは、神官長様抜きで戦いましょう」
「そうです。私達だけで戦いましょう」
「ホッホッホッ、儂もそう提案するつもりでしたわ」
えっ!? どういうことですか?
「残念ですが、我らはネメア相手に戦うには力不足です。神官長様だけが頼りです。ですから、神官長様は体力を温存しておいてください」
確かに、神官長が頼りですが…… 3人で魔物を相手するのもかなり大変だと思いますが、皆さん頑張ってください!
「さあ、踏ん張りどころですぞ! 我ら4人で頑張りますぞ!」
もしかして―― 私も『戦闘要員』ですか!? クラネス姫を背負いながら戦うんですか!?
・・・・・・
ついに追い付いた!
第一階層への階段を上がった所で、20m程先を行く『ネメア』と思われる人物の背中が見えました。
私達がネメアを追い掛けてから、丸一日以上が経っています。
戦闘に次ぐ戦闘で、正直かなりクタクタ……
まあ、私、ここまでほとんど役に立ってませんが、それが余計に精神的にきつく感じて、疲れてるんです……
ネメアが私達に気付いたみたい。
「ほう、ここで追い付かれるとはな…… 思ったよりも早く追い付かれたか」
振り向きもせずに、そう言ったネメア―― でも、その声は悔しそうではありません。寧ろ、余裕さえ感じられます。
「まだ完全回復には時間が必要だが―― キサマらを片付けるだけなら十分だ!」
ネメアが振り返りました。ゾッとするような笑みを浮かべている……
「フハハハハ! バカ共が、お誂え向きに『こんな狭い通路』に並んでくれようとはな!」
私達が今いる通路は幅2m程―― 確かに狭いですが、何をするつもりなの?
その時、ネメアの後方に『ピカピカ光った塊』が1つ浮かんでいました。
大玉スイカくらいの大きさだね。何だろう?
「い、いかん!? アレは『金剛石』の塊ですぞ! あんな物を食らったら、只では済みませんぞ!」
金剛石!? それって『ダイヤモンド』のことですよね!?
あの塊1つで、いったいどれ程の価値があるんだろ? 何て、現実逃避してる場合じゃないです! 当たったら……『痛い』じゃ済みませんよ!?
そうだ! ダイヤモンドなら燃やせばいいよ!
私が火玉で燃やすことを思いついたとき、
「この金剛石に潰されて死ね!」
ネメアが腕を振り下ろすと、金剛石の塊が猛スピードで飛んできました!
皆、横に飛びのいて躱しましたが、迷宮の壁には大きな空洞ができていました。
と、トンでもない破壊力……
無理…… こんなの絶対に燃やせないよ……
「フハハハハハ! 今のは只の脅しだ! 本番はこれからだぞ!」
ネメアの後ろには、今の金剛石と同じくらいの大きさの塊が、7つも浮いています。
1つなら兎も角、アレが全部同時に飛んで来たら…… 絶対に躱せないよ……
そう思った瞬間、私は『サイドチェスト』のポーズを取って叫びました。
オープンザマッソー!
◇ ◇ ◇
私―― 戻ってきましたよ!
「さあ、キサマらの最期だ。祈る間もなく―― 死ね!」
ネメアの腕が再び振り下ろされ、7つの金剛石の塊が同時に飛んできました!
「大丈夫でえす!」
私は、皆の前に出ていきました。
「ま、マセルくん!?」
ドドドドドドドン!!
土煙が朦々と上がりました―― が、それは私が金剛石の塊全部を、横の壁に弾き飛ばしたからでえす!
「マッスルブースト3倍!」
私は身体強化を発動させながら、ネメアに向かって走りまあす!
「なっ!? キサマ…… どうして!?」
ネメアの驚いてる顔を見ながら、ネメアの懐を掴み――
「おりゃあああぁぁぁ!」
そのまま『背負い落とし』を決めました!
私って―― 無敵!!




