第41話 まさか、あなたが?
ゴゴゴゴゴ……
クラネス姫が指輪に向かって魔法を唱えた後、扉に描かれている紋章に指輪を翳すと、紋章に向かって指輪から一筋の光が伸びました。
その光が紋章に吸い込まれると、扉全体が輝き、ゆっくりと扉が開き始めたのです。
なかなか大掛かりな仕掛けですね!
ここまで厳重に保管されていることからも、中の物の重要性が理解できます。
「姫様、私達も中に入って構いませんか?」
正直、姫様の返事が怖いです……
神官長はクラネス姫に尋ねましたが、返事関係なく入る気満々ですから。
姫様の目的は『神器』なる物の確保ですが、私達の目的は『魔王の身体の一部』の確認です。中に入らないと確認できませんから、姫様が「NO」と言った場合は、力尽くで入ることになります。姫様に危害を加える気はなくても、邪魔されるとどうなるか分かりません。
「勿論、一緒に中に入ってください」
良かった! 姫様の返事にホッとしました。
・・・・・・
『洗礼の間』の中は、私の想像では『金銀財宝で部屋の中が埋もれている』と思っていたんだけど、予想に反してガランとした空間で財宝らしきものは全然見当たりません。
部屋の奥には『封印の間』と同じような祭壇があり、その祭壇の上には、『棺』のような物と綺麗な箱が置いてあるだけでした。
私達が祭壇に向かおうとしたとき
「そこにいる者―― 隠れてないで姿を現しなさい!」
突然、神官長が祭壇に向かって叫びました。
私達以外に誰かいるんですか? 私には何も見えませんが?
「フフフ、よく気付いたな」
何もない空間から声がしたかと思うと、人の姿が見えてきました。現れたのは――
「ネメア!? どうしてあなたがここにいるのです!?」
クラネス姫の驚いた声―― 私達も意外な人物の登場に驚いて足を止めます。
「私はお前達の後を付けていたのだ」
「どうしてそんなことを?」
「決まっているだろ。クラネス姫が、無事にこの部屋まで到達できるように見守っていたのだ」
あっ! もしかして!
「大蜘蛛から僕達を助けてくれたのは、ネメアさんだったんですか?」
「そうだ。あんな所でクラネス姫に死なれては困るからな」
もしかして、ネメアさんは【影の護衛役】みたいな人なんじゃあ!?
きっとクラネス姫のお姉さんに頼まれて、密かにクラネス姫の護衛をしていたんですね!
「ありがとうございました。ネメアさんのお陰で、僕達は助かりました」
私がお礼を言うと、突然ネメアさんは
「ハハハハハハ!」
大声で笑いだしました。
「まだ気付いていないとは―― 愚か者共よ」
ネメアさん? 流石にその言動は宜しくありませんよ?
「ネメア、どういう意味です? 私達が何に気付いていないと言うのですか!?」
「まだ騙されていることに気付かないとは、つくづく察しの悪い奴らだな」
ネメアさんは、今回の事件のあらましを語り出しました。
・・・・・・
「そ、そんな…… では、『帝都でクーデターが起きた』というのは嘘なのですか!?」
何と、今回クラネス姫が『洗礼の間』に来ることになった原因全てが、ネメアさんの狂言だったなんて!?
「ネメア…… どうしてそんなことを?」
「この部屋には、私の力をもってしても入ることができなかった。情報を集めた結果、『一部の皇族だけが入ることができる』ということが分かった。だから私はフローナに近付いたが―― あの小娘は中々に小賢しく、騙すのが難しかった」
ネメアさんは、言葉を切った後クラネス姫に目をやった。
「そんな時、クラネス―― お前が現れた!
他人を簡単に信用するお人好し―― まさに『格好の餌食』だ。私は『お前を騙す計画』を立てることにしたのだ」
「その計画が、今回の『狂言』だったのですか!?」
「そうだ! だが今回の計画は、正直急ごしらえの穴だらけの作戦だったから、まさかこんなに上手くいくとは思わなかったわ。クラネス、お前が私の想像通りのバカで助かったぞ! ハハハハハ!」
クラネス姫がショックのあまり崩れ落ちそうになったところを、私が後ろから支えました。
「ネメアさん…… あなたはいったい何者なんですか!?」
10歳の少女をバカにするネメアさんに対して怒りを覚えた私は、睨みつけながら聞きました。
「フフフフ…… いいだろう! 冥途の土産に私の真の姿を拝ませてやろう!」
その言葉と同時に、ネメアさんの身体が煙に包まれました!?
煙が晴れたときに最初に見えたのは、側頭部の大きな巻貝のような角。
でも、それ以上にインパクトがあったのはその衣装―― 黒のボンテージスーツに全身を包んだ妖艶なお姉さんが現れました!
「私は『魔王軍六将軍』の1人、ネメア!」
魔王軍六将軍!? まさか、いきなりボス級の登場ですか!?
「魔王軍じゃと!?」
「キサマ、魔族か!?」
声を上げたのはベンプス先生と神官長。
「本当に魔族が動いていようとは…… つまり、魔王復活は間近ということか!?」
「ほう! 魔王様の復活に気付いた人間がいるとは驚きだ。だが、キサマらは魔王様の復活を見ることはない。何故ならキサマらは―― ここで死ぬのだからな!」
!?
その瞬間、とんでもなく『禍々しい気』が全身を貫きました。
これは間違いなく『とんでもない大物』です……
クラネス姫は、ネメアの放った『気』に中てられて、気を失ってしまいました。
私もドラゴンさんの『殺気』に慣れていなかったら、気絶していたかも……
「ぐっ!?」
ゴランド先生とマチルダ先生は、軽く呻いて両膝をついています。
「これはたまらん…… グレシア様、これはかなりの大物ですぞ……」
ベンプス先生も顔を歪めて片膝をつきました。
「ええ…… これほどの『妖気』を浴びたのは久しぶりです」
神官長だけは普通に立っていますが、それでも目が険しくなっています。
「ほう! 私の妖気を浴びて立っていられる者が2人もいるとはな!」
ネメアの視線が私を捉えています。
あれっ? もしかして、私が狙われてる?
「まずは、お前から!」
ネメアの身体が消えた!?
と思ったら、一瞬で私の目の前に現れました!
ネメアは、残虐な笑みを浮かべながら右腕を後ろに引きました。
鋭く伸びた爪が見えます。それで私を突き殺す気なんですか!?
「マセルくん!?」
私を呼ぶ悲鳴のような声が聞こえる中、ネメアの右腕が目にも止まらぬ速さで、私の顔目掛けて突き出されました!
「ぐわああぁぁぁ!?」
・・・・・・
ネメアの右腕がマセルの顔を貫いた!?
そのように見えたが、実際は―― ネメアの攻撃はマセルの頭上を掠めただけで、空振りに終わったのだった。
ネメアが右腕を引いた瞬間に、マセルは身体ごと後ろに倒していたため、ネメアの攻撃はマセルに届かなかったのだ。
そしてマセルは、ネメアの攻撃を躱しただけでなく、倒れながら右ローキックを放っていた。マセルのローキックは、右手を突き出したまま無防備になっていたネメアの左足に直撃!
あまりの痛みに絶叫を上げたのは、ネメアの方だったのだ!
・・・・・・
ネメアが正体を現した時、私は嫌な予感がしたんで、すぐさま『身体強化3倍』を発動しておきました。
身体強化3倍で打ち込んだローキックは、ネメアにも通用したようです!
「このクソヤローめ…… 私の美しい足を蹴るなど、絶対に許さんぞ!」
涙目になりながら私を睨み付けるネメア。
思いの外綺麗に膝に入ったんで、相当痛かったようですね。
またネメアは一瞬で私に近付き、今度は左腕で攻撃してきました!
左手にも鋭く伸びた爪が見えましたが、攻撃の瞬間が丸分かりです。いくら速い攻撃でも、予備動作が大きいから簡単に先読みできます!
ヘッドスリップで避けると同時に踏み込んで、右フックのカウンター炸裂!
「ぐわああぁぁぁ!?」
ネメアは後ろに吹っ飛びました!
自分でも驚きですが、魔王軍の将軍に私の攻撃が通用している?
スピードは私よりも遥かに速いですが、攻撃自体は力任せの素人同然―― これなら、私でも互角に闘える!
「フフフフフフ…… よくも私の顔に傷を付けてくれたな……」
ゆっくりと立ち上がったネメア―― 綺麗な顔にパンチの跡が残っています。
「1人ずつ殺すのは止めだ。全員まとめて地獄に送ってやる!」
ネメアはそう言うと、右手を前に突き出しました!?




