第40話 謎の救出者
うーん! 久しぶりによく眠れました!
身体が軽くなった気がします!
「マセルくん、キミは冒険者向きだな」
目を覚ましたばかりの私に声を掛けてきたのはゴランド先生。
「おはようございます、ゴランド先生」
「ああ、おはよう」
あれ? クラネス姫はまだ眠っていますが、他の先生方の姿が見えませんね。
私がキョロキョロしていると
「神官長達は、先に第6階層の探索にいかれたよ」
そうなんですか!? 私、寝過ごしたようです……
「気にしなくてもいいぞ。姫様もさっき眠られたばかりで、もう少し待つつもりだ」
良かった…… 迷惑かけたかと心配しました。ところで
「ゴランド先生。僕が『冒険者向き』というのは、どういう意味ですか?」
「迷宮内ですぐに眠れることは、冒険者にとって重要な資質なんだよ。第二学院の卒業生にも冒険者になった者はいるが、冒険者になって食べていける者はほんの僅かしかいない。でも、キミは年齢のわりになかなか肝が座っているようだし、冒険者向きな気がするよ」
それは、私の神経が『図太い』ということですか?
そんなことありませんよ。只、疲れてただけです。それに
「先生方がいるから、安心してたんです」
「そうだね。パーティーを信頼できるということも、冒険者には大切なことだよ」
「先生方は眠られたのですか?」
「ああ、皆交代で休息を取ったよ。ベンプス先生が最初に見張りをされた後、交代で神官長様が、その後私とマチルダ先生で見張りをしていたんだ」
「あの…… あれからどれくらい経ったんですか?」
「10時間くらいだな」
10時間!? 私、目茶苦茶爆睡してたんですね。
早く先に進まないといけないのに…… これはやっぱり失態です。
暫くして、神官長達が戻ってきました。
「思った通り、下の階も『探索封じ』が掛かっておったよ」
「それに、第6階層にいたのは【大蜘蛛】ですよ…… 嫌になります……」
「マチルダ先生は、蜘蛛が苦手ですからね。とはいえ、これ以上遅れるわけにはいけませんから、すぐに出発しますよ」
そうですが、クラネス姫はまだスヤスヤ眠っています。
起こすのも可哀想なので、そのままおんぶすることにしましたが、これは結構きついですね。眠っている人をおぶるのは、バランスを取るのが難しいので、起きているときの1.5倍くらいの重さに感じます。
仕方ないので、私は『マッスルブースト2倍』を使うことにしました。
・・・・・・
第6階層――
ここは、今までの階層とは雰囲気が全然違います。
迷宮内というよりも、なんだか鬱蒼とした森の中です。
「地下迷宮に、どうしてこんな場所があるんですか?」
ラノベなんかではよくお目に掛かった不思議空間だけど、実際に目にすると異常としか思えませんよ。
「マセルくん、気を付けるんじゃぞ。この草木自体が、迷宮の魔力によって作られた『幻』なんじゃよ」
「幻なんですか!?」
「そうじゃよ。迷宮には時々こういう場所があって、幻に騙されていろんな感覚が狂わされるんじゃよ。だから、迷宮内の『森』は特に注意せんといかんのじゃよ」
見通しが悪くなるだけでも困りものなのに、感覚まで奪われるなんて…… 今までと違って、上からの攻撃も十分に警戒しなくちゃいけませんね。
と思っていると、突然私の身体にネバッとしたものが貼り付いた!? って感じた次の瞬間―― 私の身体は、クラネス姫ごと持ち上げられていました!
何が起きたの?
見上げた私の目に映ったのは―― 巨大な蜘蛛!? 私よりずっと大きな蜘蛛に、複数の黄色い目で睨まれました。目もそうですが、ウネウネ動いている口元が特に気持ち悪いです!
このままじゃ、この大蜘蛛に食べられる!? 早く脱出しないと!
身動き取れない状態でできる攻撃―― 私は火球を大蜘蛛に撃ちました!
ドーン!
命中! したのに…… 全然効いてない?
大蜘蛛の目が赤く変わったのは、怒らせたから? 糸を手繰り寄せるスピードが上がった!?
や、ヤバイよ…… 誰か助けて!
ドゴーン!!
目の前の大蜘蛛が、突然爆発したように四散しました……
「マセルくん!」
下からベンプス先生の声がしました。先生が助けてくれたんですね!
「よく無事じゃったの。儂がちょっと目を離した隙に、マセルくん達が消えたから、焦りましたぞ」
「ベンプス先生…… 助けてくださって、ありがとうございます」
私は半泣きになりながらお礼を言うと
「マセルくん? 自力で脱出したんじゃないのかの?」
「えっ? ベンプス先生が助けてくれたんじゃあ……」
じゃあ、きっと神官長が助けてくれたんですね! 神官長にお礼を言わなきゃ。
ところが――
「ごめんなさいね。私達も戦闘中で、あなた達のフォローができなかったわ」
そ、それじゃあ一体…… 誰が私達を助けてくれたの?
助かったのは良かったのですが、別の不安が残りました……
「ここではベンプス先生の索敵魔法も殆ど使えないのです。今まで以上に隊列を詰めて慎重に行かないといけませんね」
朝食は『大蜘蛛』の肉のようです。
正直見た目がアレじゃあ、気味悪くて食欲沸きません……
「私、蜘蛛は苦手なんで朝食はパスします」
マチルダ先生の『苦手』は、そっちの意味でしたか!? それなら、私も苦手なんでパスします。
目を覚ましたクラネス姫は―― 意外にも平気で食べていました。
姫様はもしかすると、私よりも冒険者向き?
・・・・・・
その後は大きなピンチに合うこともなく、しかも運良く1時間ほどで第7階層への階段を発見! 第7階層に到達しました。
目の前には『封印の迷宮』の時と同じように、巨大な扉があります。
「いよいよ目的地も間近です。皆、最後の踏ん張りどころです。気を引き締めるように」
神官長は扉の横のボタンを押しました。
ゴゴゴゴゴゴ……
ゆっくりと扉が開いていきます。
「神官長様、ゴーレム4体です」
ここもやっぱりゴーレムが設置されています。
「倒し方はすでに学習済みです。もう、問題ありません。皆はそこで待っていなさい」
神官長が1人で階段に向かって歩いていきます。
神官長―― 1人で大丈夫なんですか? 私は心配しながら見ていましたが、他の方々は全然心配していません。
階段の前15mの所に神官長が到達すると、4体のゴーレムが動き出しました!
そして―― ゴーレムは崩れ落ちました……
はあ!? 何が起きたのかも把握できませんでした。本当にゴーレムが腕を振り上げた! と思った瞬間に頭部が斬り刻まれて、只の瓦礫と成り代わりました……
・・・・・・
第8階層に下りると、綺麗な泉が湧いていました。
泉の先には【扉】が見えます。あの扉の先が『洗礼の間』ですね。
「マセル、これがどんな病にも効くと言われる『霊水』です。早くお飲みなさい」
困りました…… 私、これを飲んでも身体が変化することはないんですよ。
「神官長様、お待ちください!」
「どうしたのですか、マチルダ先生?」
「マセルくんの病を治すのを、お待ちいただきたいのです」
マチルダ先生―― 昨日言ってた『私の病気を他の生徒にうつす』というのは本気だったんですか!?
マチルダ先生が神官長に訴えているのを聞きながら、私はクラネス姫に尋ねました。
「姫様。『洗礼の間』にはどうやって入るんですか?」
「はい。私は皇帝陛下からこの【指輪】を授かっています。この指輪に、特別な魔法を使うことで扉が開くのです」
なるほど。その『指輪』と『特別な魔法』の2つが揃わないと、扉を開けられないのですか。もしかすると、更に『血統』なんかも絡んでいる可能性もあります。
『封印の間』よりもずっと強固なセキュリティですね。
「マセル。マチルダ先生は説得しました。早く『霊水』をお飲みなさい」
「マセルくん、済みませんでした。私は、あなたの苦しみを理解できていませんでした。許してください」
マチルダ先生、どうしたんですか? そんなに凹まなくても大丈夫ですよ。
病気じゃないんで、誰にもうつりませんし、霊水飲んでも治りませんから。
私は仕方なく霊水を掬って飲みました。