第39話 洗礼の迷宮探索
『洗礼の迷宮』に入って約1時間経過――
私達は第2階層(地下2階)に到達しています。
「マセルさん、重くありませんか?」
クラネス姫は私におんぶされていることを、まだ気にしている様子。
でも姫様の体重は、精々30kg程度。150kgのベンチプレスが可能な私にとっては、軽い荷物を背負ってるのと変わりませんよ。
「姫様はお軽いので、全然平気です」
「そうですか…… それにしても、皆さんはお強いのですね。先程から何度も魔物と遭遇しているのに、全て一瞬で倒されています」
ここまで、ゴランド先生とマチルダ先生の2人が、危なげなく魔物を倒しています。
「ええ! 先生方はとてもお強いので、大舟に乗ったつもりでいてください」
「先生? 皆さんはどこかの町で先生をなさっておられるのですか?」
ハッ!? まずいです…… 誤魔化さないと、私達がレムス王国から密入国したことがばれてしまいます。
「このパーティーは、全員僕に戦闘を教えてくださる先生方なんですよ」
「そうなのですね。ですが、前の方のことは『神官長』と呼ばれていませんでしたか?」
うっ…… なかなか鋭い所を突いてきますよ。
「そ、それは…… 渾名です! 衣装が聖職者風なので、パーティー内では親愛の情を込めて『神官長』と呼んでいるんですよ」
「そうなのですね。ところで、マセルさんは、これまでもいろんな迷宮を探索なさって来たのですか?」
「いいえ。僕はまだ新米なんで、『封印の迷宮』しか経験ないんです」
「封印の迷宮?」
うわぁ!? しまった…… また、墓穴を掘っちゃったよ。
「ふ、封印じゃなくて【フイーン】の迷宮です!」
「フイーン? 聞いたことがありませんね?」
「田舎の方にある、すごく小さな迷宮なんで、無名なんですよ」
「そうなのですか。じゃあ、マセルさん達は、どの地方の出身なんですか?」
ダメです…… 私ではこれ以上誤魔化せきれません。誰か助けて!
「ホッホッホッ。姫様、儂らは【マゾット】地方の出身なんですぞ」
「マゾットですか! 随分と遠くから来られたのですね」
ベンプス先生! ナイスフォロー!
「ホッホッホッ。マセルくんが町を見てみたいと言うから、遠征してきたんですわ」
「そ、そうなんです! 僕は世間知らずの田舎者なんで、町が見たかったんです!」
ベンプス先生のお陰で、何とか誤魔化せました。
これからは、姫様との会話は最低限だけにしないといけませんね。
・・・・・・
「ベンプス先生、どうしました?」
「どうやらこの階には、『探索封じ』の魔法が掛けられておるようですの」
「それは困りましたね」
迷宮探索から約4時間―― 現在私達は、第5階層に到達したところです。
これまで、新しい階層に入る度に、ベンプス先生の探索魔法で構造を調べてから進む方向を決めていましたが、この階ではそれが出来ないようです。
「仕方ありませんね。この階はしらみ潰しに探索するしかありません。皆さん、気を引き締めましょう」
「私が迷宮に詳しければ良かったのですが…… 何のお役にも立てず、足を引っ張ってばかりで……」
クラネス姫は申し訳なさそうに言いましたが、このパーティーなら心配ないですよ!
「姫様、心配無用です。今までよりも進む速さが少しばかり遅くなるだけです」
神官長も、そう言ってますし。
「ベンプス先生、『索敵』は使えますか?」
「グレシア様、使えるには使えますが、30mが精一杯のようですの」
「そうですか…… ゴランド先生、曲がり角は特に注意して、魔物を警戒してください」
「ハッ! 畏まりました」
・・・・・・
暫く進むと、広間のような大きな場所に出ました。下は砂地で歩きにくそうです。
「グレシア様、下に何かおるようですぞ」
「ええ、分かっております。皆、地面に注意するように!」
ドバーン!
突然砂の中から、巨大な尻尾のような物が飛び出しました!
「砂サソリの巣か!?」
ゴランド先生が叫びました。
「マセルさん! 下!」
はっ!? 私の足元が盛り上っている!?
慌てて飛び退くと
ズザッ!
私の居た場所に、巨大な鋏が!
危なかった…… 飛び退くのが遅れたら、あの鋏の餌食でした。
「マセルさん! また!」
「マッスルブースト3倍!」
身体強化を発動させ、大きくジャンプ!
全長8mは有りそうな巨大なサソリが姿を現すと同時に、尻尾を振り回します。
ひいっ!?
身体強化を使ってなかったら、今の尻尾攻撃を食らってましたよ……
「姫様のお陰で、避けることができました」
「10m範囲ですが『感知』の魔法が使えます。お役に立てて良かったです」
クラネス姫は『感知』が使えるんですね。
私は探索系の魔法を覚えてないんで、これは助かります。
「マセルさん、もう1匹来ます!」
必死に飛び退く私―― 巨大な尻尾が突きだしています。
この場所には、少なくとも4匹の砂サソリがいて、先生方も交戦中です。
ゴランド先生とマチルダ先生が一緒に、1匹の砂サソリと戦闘中。
神官長は――
「裂光斬!」
閃光が走ったかと思うと、巨大な砂サソリがバラバラに崩れ落ちました…… 相変わらずの強さです。
ベンプス先生は―― 高く盛り上がった砂の上に立って、呪文を唱えているようです。
「マセル、私の方にきなさい!」
神官長の指示に従い、私は神官長の方へ走りました。
「砂爆発!」
ベンプス先生の魔法が発動!
広間の中央が急激に盛り上がり、砂が爆発!
砂の下に隠れていた砂サソリが、爆発に巻き込まれて吹っ飛んでいます!
下には5匹も隠れていましたよ!?
「はっ!」
砂サソリに向かってジャンプした神官長。
そして―― 5匹の砂サソリは、神官長の刀の餌食となりました……
ゴランド先生とマチルダ先生も、砂サソリを仕留めたようです。
・・・・・・
「砂サソリの身は、中々の美味ですよ」
ここで食事タイム―― いつも通り、神官長が懐の包丁で捌きます。
砂サソリの肉は、お湯で煮て食べると、少しパサパサしてるけど、エビに近い味で悪くないですね。
クラネス姫は気味悪がって料理を口にしようとしませんでしたが、
「『洗礼の間』は8階層にあるのでしたね? まだ先は長いですし、ここで食事を取っておかないと、この先食べられる保証はありませんよ」
神官長の厳しい言葉に、クラネス姫は意を決して砂サソリの肉を口にしました。
「思ったよりも美味しいですね」
良かったです。しっかりと食べられたようです。
・・・・・・
漸く第6階層への階段を発見―― 第5階層の探索だけで2時間以上掛かりました。次の階層も探索魔法が使えないとすると、探索にはそれ以上の時間が掛かる可能性があります。
「神官長様。今日はここで休息を取ってはどうでしょう?」
「そうですね…… もう夕方になっている頃ですね。マチルダ先生の言う通り、ここで休憩を取って疲労を回復しましょう」
流石に昨日からの長旅で疲れが溜まっていたので有難いです。
ゴゴゴゴゴ……
ベンプス先生は、土壁で魔物が入ってこれないようにしてくれました。
「それでは、儂が見張りをしますので、皆さんはお休みくださいの」
そのまま、ベンプス先生は見張り役まで買ってくれるようです。
私はそれまでの緊張の糸が切れたのか、急に睡魔に襲われ
「それじゃあ皆さん、お休みなさい……」
地面に寝ころぶと、そのまま眠りについてしまいました。




