第34話 想定と違いますよ
「よう覚えとけよ! 闘いの場に立ったら、どんな汚い手ぇ使うても勝たなあかんのじゃ! 隙見せたら、命取られると思うとけよ!」
マッチョ爺さんがいないときのドラゴンさんは、とんでもなく汚い言葉遣いで、やっぱり怖いです……
「何黙っとんじゃい! 分かったら返事せんかい! 舐めとったら、奥歯がたがたいわすぞ、ボケェ!」
「わ、分かりました!」
「なんじゃその返事は!? 空手の返事いうたら『押忍』に決まっとるやろが! 早う返事せんかい、ボケェ!」
「お、オッス……」
「オッスやと!? キサマはワイに『オッス! オラ、ドラゴン』とでもボケさせたいんかい? ええ度胸やないか…… いてまうぞ、コラッ!」
そう言って、ドラゴンさんが私の方に近付いてきます……
ヒイッ!? マッチョ爺さん―― あなたがいないと、私、ドラゴンさんに殺されます……
ドラゴンさんの手が私の頭を掴みました!
もうダメ……
「いやぁ、良く頑張りましたね。私の修行はこれでおしまいですよ。後はゆっくり休んで、闘いに備えてくださいよ」
??
ドラゴンさんの言葉遣いが急に丁寧になり、私の頭を優しく撫でました。
「ドラゴンの言う通り、ゴーレムとの闘いまで休んでおけ」
その声は、マッチョ爺さん! よく来てくださいました! ああ―― 地獄に仏とは、正にこの事です!
「そ、それじゃあお言葉に甘えまして、お風呂に入って身体を休めてきます!」
私はそのまま浴室に逃げていきました。
・・・・・・
とうとうタイムリミットいっぱいです。
「お二人共、有り難うございました。後日、勝利報告に来ますので―― それでは、行ってきます!」
「頑張ってこい」
「負けてワイに恥かかすんやないぞ! 勝たへんかったら、ワイがお前を打ち殺しに行くから、覚悟せいよ!」
ドラゴンさん…… マッチョ爺さんがいるのに『地』が出てますよ……
そして、私は光に包まれました。
・・・・・・
近付いてくるゴーレムの姿が見えます。
でも、もう恐怖心はありません。
ドラゴンさんの怖さに比べたら、ゴーレムなんて大したことないもん!
「マッスルブースト3倍!」
私は身体強化を発動させました。
目の前に迫ったゴーレムは、大きく右腕を振りかぶり、私に向かってパンチを振り下ろしました!
ドゴゴーン!!
地面を揺らす強烈な一撃!
でも、私はそこにはいませんよ。私は足を使って、ゴーレムの左側に回り込んでいました。
問題ないです。ゴーレムのテレホンパンチなら、ジョージさんとのトレーニングで身に付けた足を使って、軽く躱せます!
後は、ローキックを出すタイミングを掴むだけ。
攻撃するときは、当然回避行動は取れないから、慎重に攻撃機会を伺う必要があります。
私のローキックは、左よりも右の方が威力が高いので、狙いはゴーレムが右のパンチを出すときに踏み込んでくる左膝――
そこに身体強化でパワーアップした、3tの威力のローキックを叩き込めば、ゴーレムの体重分のダメージも加算されて、一撃で倒せる筈です!
私は、ゴーレムの攻撃を避けながら、攻撃パターンを観察します。
私がゴーレムから2mくらいの範囲に入ると、ゴーレムは攻撃してくる。その時、私がゴーレムの正面より右側にいると、ゴーレムは右のパンチを打ってくるみたい。
ゴーレムが右腕を振りかぶった時に、ゴーレムの左側に回り込めば―― バッチリOKですよ!
そして、予想通りゴーレムが大きく右腕を振りかぶりました!
私はゴーレムの左側に回り込み、ローキックの間合いに入ります。
今だ!
踏み込んできたゴーレムの左膝に、渾身の打ち下ろしの蹴りが炸裂! する予定だったのに…… ゴーレムの膝の位置が―― 高過ぎる!?
ゴーン!
私のローキックは、ゴーレムの膝よりも遥かに低い位置―― 人で言う『脛』の部分に命中。
人間相手なら、脛でも十分効果ありそうですけど、痛みを感じないゴーレムには、全然効いてないの!?
そのままゴーレムは身体を捻って、右パンチを打ち下ろしてきます!
ヤバい!? 私は咄嗟に転がって、距離を取りました。
ドゴゴーン!!
危なかった…… 何とかゴーレムのパンチを避けることができたけど、どうすればいいの? 私のローキックが、ゴーレムの膝に届きません……
ゴーレムの脚が長過ぎるのよ!
マッチョ爺さんの膝なら、余裕で蹴ることができたのに!
マッチョ爺さんは、身長2mは絶対にあると思う。それなのに、膝の位置がそれほど高く感じなかった…… つまりマッチョ爺さんは、『めっちゃ短足』だったんですね!
これは想定外です……
ローキックしか練習してこなかったから、自分の胸より高い位置を蹴るのは、全然自信ありませんよ……
といって、間接部以外を壊すには『5tのダメージが必要』って、マッチョ爺さんは言ってました。
ゴーレムのパンチを躱すのは、それほど難しくないけど、時間が経てばその内疲れて動けなくなる…… そうなる前に、勝負に行かないと!
ゴーレムの脚に5tのダメージを与えるためには―― 危険を承知で使うしかないです!
「マッスルブースト5倍!」
凄い! 力が無理矢理に引き出される感じがします。
同時に、筋肉がオーバーヒートしそうな、そんな危うさを感じます。
これでは、長時間の戦闘は無理―― 短期決戦で決着を付けるしかありません!
私はゴーレムの正面に立ちました。
ゴーレムは再び右腕を振りかぶります。でも、私は正面から動きません!
ゴーレムの左足が踏み込まれた瞬間―― 私はその左脛に向かって、全身全霊を込めたローキックを放ちました!
ベキッ!!
鈍い衝突音と同時に、ゴーレムの左脛が砕ける!
ドドーン!
ゴーレムはパンチを打てず、バランスを崩してそのまま前のめりに倒れました!
・・・・・・
今、ゴーレムの顔が私の目の前にあります。
魔力の流れを感じる―― ゴーレムの魔法陣は『額』にある!
私はゴーレムの額に向かって、真っ直ぐに右ストレートを叩き込みました!
ズズズズズ……
ゴーレムの身体が砕けていきます。
そして―― ゴーレムが只の石屑になったとき、部屋の奥に階段が現れました!
やった…… これで、ここから脱出できるよ!
ホッとして気が抜けた瞬間――
うげげげ! 全身に激痛が!?
あまりの痛さに気を失いそうになりながらも、必死に階段を上りきりました。
階段の上は広い部屋―― 奥には祭壇があって、その上には棺のような物が置いてあります。
ま、まさか、ここって……
『封印の間』の中ですか!?
嫌な予感がしますよ……
この部屋の中にも石像が並んでいます。それも、6体も!
うぐぐぐ……
再び激痛に襲われる私。
だ、ダメだ…… 身体が…… 言うことを聞かない……
ガガガガガ!
薄れいく意識の中で最後に聞こえたのは、石像が動き出す音でした……




