第33話 ドラゴンさんの奥の手
寝る間もなく、筋トレと空手の練習漬けの日々――
砂時計の砂は、もうすぐ半分くらいになります。
食事は、前回同様『マッチョメーカー28号』のみ。
今回はお風呂に入れている分、気分的には助かってますが、トレーニングは前回以上に厳しい内容となっています。
筋トレは、キック力を鍛えるために、体幹トレーニングと下半身の強化を中心としたメニューが組まれています。
勿論、上半身の筋トレも欠かしませんが、6:4~7:3くらいの割合で、下半身に重点が置かれています。
空手の練習は、ひたすらローキックです。
筋トレ効果もあって、キック力は上がってきているように思うのですが……
「あの、ドラゴンさん…… 僕、ゴーレムの頭部を攻撃したいのに、ローキックの練習ばかりやってて大丈夫なんでしょうか?」
私が攻撃したい場所は、ゴーレムの頭部―― つまり、私の身長よりも遥かに高い位置にあるんですよ。ローキックじゃ、絶対に届きませんよね?
「テメェはアホか!? ローキック打ち当てたら、相手は膝付いて倒れるやろが! そこで低うなった顔面へ、パンチなり蹴りなり、思いきり打ち込むんじゃ! 分かったか!? ボケェ!」
ヒイッ…… 道着を着ているドラゴンさんに話しかけるのは怖いです。
それでも、ドラゴンさんの言うことは理解できました。
確かにローキックをまともに食らわせたら、相手は膝を付いたり倒れたりすると思います―― 但しそれは、相手が人間だったら…… ですが。
問題は、ゴーレム相手に『ローキックが通じるのか?』ということです。
「ローキックがゴーレムに通用するか? 心配なようだな」
突然、マッチョ爺さんが現れました。
しかも、空手道着を着ていますよ!? 胸には『M』の刺繍が入っています。
初めて見る、ピチピチパンツ姿でないマッチョ爺さんに、私が驚いていると
「ゴーレム相手に蹴りが通じるか? ゴーレムは痛みを感じることはないが、身体の構造は人間に近い。体重を支える脚を潰せば、ゴーレムも倒れることは間違いない」
おお! じゃあ、勝てる可能性はあるわけですね!
「但し、ゴーレムに膝を付かせるには、2t以上の衝撃が必要だ。膝間接部に2t以上の威力のあるローキックを叩き込む必要がある」
2t以上!? 一気に絶望的な気分になってきましたよ……
すると、今度はドラゴンさんが
「2tも必要ないですよ。要はタイミングの問題ですね。相手の膝が伸びきったときや、相手の体重が軸足に乗った瞬間を狙って、膝間接にローキックを叩き込めば、相手の体重分もダメージに加算されますから」
マッチョ爺さんが側にいると、ドラゴンさんの口調は丁寧になります。
「ドラゴンの言う通りだが、お前にそのタイミングが掴めるかどうかだ。まあ、5tも衝撃を与えれば、タイミング関係なく、ゴーレムの大抵の部分は破壊できるんだがな」
マッチョ爺さんじゃあるまいし、5tなんて人間には無理に決まってますよ。
兎に角、『ゴーレムの膝を破壊できるかどうか』が勝利の鍵となることは、よく分かりました。
「ところで、何故道着を着ているんです?」
「フフフ…… 知りたいか?」
「いえ、別に」
「そうか! そんなに知りたいなら教えてやろう。儂がお前の蹴りを、直々に受けてやるために道着に着替えたのだ!」
別に知りたくなかったんですけど、『私の蹴りを受けるため』って、どういうことですか?
「ここには、蹴りの威力を測定するマシンがないから、儂がお前の蹴りを受けてキック力を測定してやろう、と言っておるのだ!」
態々そんなことのために!?
まさか、マッチョ爺さん―― あなたは『マゾ』だったんですか!?
そういえば道着の胸に『M』って刺繍してるし……
「誰が『マゾ』だ!? この『M』の刺繍は『Muscle』の『M』に決まっておろうが!」
「そ、そうだったんですか!? 私は『Macho』の『M』だとばかり、思っておりました…… くそっ…… 私としたことが…… 不覚……」
ドラゴンさん…… そんなに悔しがらなくても……
「ドラゴンよ。『Macho』でも正解にしておいてやるぞ」
「ほ、本当でございますか!? 有難き幸せ!」
いやいや…… そんな、涙流して喜ぶことですか?
「ドラゴン! まずはお前が見本を示してやれ! 儂の脚に、思い切りローキックを打ってみろ!」
「はっ! 仰せのままに!」
そう言うと、ドラゴンさんはマッチョ爺さんの左太腿に、右のローキックを打ちました!
ズドーン!!
す、凄まじい音です……
「フム。流石はドラゴンだ。5t超えの威力だな」
5t超え…… って、ドラゴンさん―― 軽く人間離れしてますよ!?
それを食らって平然としているマッチョ爺さんは、そもそも人間というより『筋肉ダルマ』ですけど。
「お褒め頂き、恐悦至極でございます」
「よし! 次はお前だ!」
「いいですか。これまでの練習通り、脛の部分で思い切り蹴り抜くんですよ」
ドラゴンさんがアドバイスをくれました。
よーし! 一丁気合い入れて―― 行きますよ!
「やあああぁぁぁ!」
びちっ!
何とも迫力のない音…… そして――
痛ああぁぁぁ!? 蹴った私の方が、右脚を押さえて蹲りました……
まるで岩を蹴ったみたいな、そんな硬さでしたよ……
「うーん…… 400kg、といったところだな。脚の力は腕の力の3~5倍と言われるから、600kg以上は出ると思っていたのだが……」
「まだまだ蹴り方に余計な力が入りすぎていますね…… ですが、まだ2週間以上残っていますし、今の倍は出せるように、このドラゴン―― 全力で鍛え上げてみせましょう!」
「蹴り方以前に、儂を蹴ってダメージを受けておることの方が問題だな」
だって、マッチョ爺さんの脚が硬すぎますよ。私の脛の骨が折れたと思いましたよ。
「ゴーレムは儂の筋肉ほどではないが、それでも岩より硬いからな。儂を蹴って痛がっとるようでは、先が思いやられるわ……」
「そうですね。それでは、これからは『外功』も鍛えましょう。さすれば、岩ごとき―― 軽々と粉砕できるようになる筈です!」
「そうだな。だが、止めの魔法陣への攻撃は、蹴りよりもパンチの方が確実だろう。筋トレもこれまで以上に負荷を上げて、全身の筋肉をバランス良く仕上げていくぞ」
・・・・・・
「おりゃああぁぁぁ!」
ピシッ!
「威力は、精々600kg―― といったところだな……」
やっぱり、マッチョ爺さんを蹴ると痛いです…… 一蹴りする毎に痛みで踞る私に
「これでは、ゴーレムの膝にタイミング良く蹴りをいれても、良くて相討ち―― ゴーレムが倒れなかったら、それこそ殺られるだけだぞ」
そんな…… もう砂時計の砂も残り数日分しかないのに、このままじゃあ……
「どうも、蹴る瞬間に力が抜けているようですね…… こうなっては、仕方ありません。『奥の手』を使いましょう!」
「ドラゴン。何か策があるのか?」
「はい…… それは正直、邪道そのもので、私も滅多に使わなかったんですがね」
ドラゴンさんが『邪道そのもの』とまで言うなんて、一体!?
「『脛当て』を装着しましょう!」
「脛当て―― って、何ですか?」
「脛に装着するプロテクターですよ。金属製で、基本脛の防御に使う物ですが、攻撃に使えば反則級の破壊力になる代物ですよ」
はあっ!? そんな便利な物があるんなら、最初から使わせて下さいよ!
「道具に頼るなど、空手家として『あるまじき行為』ですし、試合で使えば、当然『反則負け』ですからね…… いいですか! 使うなら、絶対に相手にばれないようにしなさいよ!」
私、空手家じゃありませんし、そもそも
試合でもないので、そんな心配は『無用』ですよ!
そして『脛当て』を装着した私――
これで、遠慮なく思い切り蹴れますよ!
今までは、自分のダメージが怖くて、どうしても蹴る瞬間に力をセーブしてましたが、この『脛当て』があれば、もう恐いものなしです!
「おりゃああぁぁぁ!」
ビシーッ!
「ほお…… 1t近く出たな。これならマッスルブースト3倍で、ゴーレムとも互角以上に戦えそうだな」
うげげげ…… マッチョ爺さんの脚は、どうなってるんですか!?
私の着けていた『脛当て』が―― ひん曲がってしまいました……
結局、脚の痛みで踞ってしまった私……
「心配するな。ゴーレムは儂の筋肉ほど硬くはないから、その脛当てが曲がることはない筈だ」
ううう…… 本当ですか?
嘘だったら私―― 泣きますよ!




