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第30話 その異名は要りません

「マセル、気をつけなさい。そいつは【ニャンガー】――『迷宮の殺し屋』と呼ばれる魔物です。力も速さも『ダンジョンウルフ』とは段違いですよ」


 神官長―― そんなアドバイスは要らないです。強いのは見たら分かりますから……

 それよりも、弱点とか倒し方を教えてください。それに『ニャンガー』なんてふざけた名前―― 誰が付けたんですか!?


 体長は2m程もありながら、猫化特有のしなやかな歩行で足音をさせずに近付いてくるその姿は正に殺し屋……

 今までの魔物とは格が違うのが分かります。プレッシャーが半端ない…… 正直、向き合ってるだけでチビってしまいそう……


「マセル、下がりなさい」


 そう言って私を押し退けた神官長……

 神官長は2m近くある長い杖を持っています。杖の先端にはライトの魔法を吸収するための宝石が付いていて、その宝石が眩しいほど輝いていますが、どう見ても戦闘に使うような物では無さそうです。

 それに神官長の体格は、私よりもずっと華奢。そんな『か弱い女性』を、ニャンガー(殺し屋)の前に出すなんて、絶対にできませんよ!


「大丈夫です。神官長様こそ、下がっていてください」


 こうなったら危険を承知で使うしかないです! マッチョ爺さんには「マッスルブースト3倍以上は使うな」と言われてたけど、ニャンガー(コイツ)と戦うには5倍…… いいえ、8倍は必要です。8倍のパンチを鼻っ柱に打ち込めば、きっと怯む筈!

 そして、ベンプス先生が後ろの魔物ニャンガーを倒して、こっちに助けに来てくれるまでの時間を稼ぎます!


 魔物ニャンガーが身体を沈めました。


 来る!

 その瞬間―― 私は魔法を発動。


「マッスルブース クション!」


 えっ!? いきなりくしゃみが!?

 な、なんでこんな最悪のタイミングで!?


 も、もう一度。


「マッス クション!」


 うわあああぁぁぁ…… まさか私―― ネコアレルギーだったの?


 魔物ニャンガーが―― 跳んだ!?


 もうダメ クション!


 恐怖で固まる私……


 シュオン!


 私の後ろから風を裂くような音が!? と思った瞬間、目の前の光景がまるでスローモーションのように流れていきます――


 目の前に迫っていた魔物ニャンガーの身体が突然左右に別れて、そのまま私の横を通り過ぎて行きました。


 何? 何が起こったの?


 訳のわからぬまま、後ろを振り向くと


 真っ二つになった魔物ニャンガーの死体が転がっています。


 へっ? クション!


「流石は神官長様! 目にも止まらぬ抜刀術です!」


「神官長様の神業が見られるなんて! ゴランド、感激の極みです!」


「ホッホッホッ。グレシア様の剣技―― 未だ衰えず、ですの」


 神官長が何かしたんですか?

 って、ベンプス先生もいつの間にか魔物ニャンガーを倒してるし。


 後方には、ぺしゃんこに押し潰された魔物ニャンガーの死体が転がっていました。


「神官ち クション! どうなった クション! です クション!」


「マセル、どうしたのです? さっきからくしゃみばかりして?」


「わかりませ クション! 急にくしゃみが クション! 止まらな クション! なったん クション!」


「マセルくん、それは呪いのせいじゃ。マセルくんから、呪詛の波動を感じるのう」


 呪詛!? 確か、シンディさんが私に掛けた呪いが『1日くしゃみが止まらなくなる呪い』でしたよ…… もしかして、今頃シンディさんの呪いの効果が現れたの!?


   ・・・・・・


 あの後、再び隊列を変更しました。


 先頭は神官長です。ゴランド先生とマチルダ先生の体調も少し回復したそうで、ゴランド先生・マチルダ先生・私・ベンプス先生の順番になりました。


 神官長の持つ長い杖は、実は刀を納めた『仕込み杖』で、魔物ニャンガーはその刀で斬り殺されたのでした。

 刀は2m近くあるんですよ? どうやって抜いたのか気になりますが、それはともかく―― それだけ強いなら、初めから先頭に立ってくださいよ。私、無駄に冷汗かいたじゃないですか!


「ホッホッホッ。こうしていると、昔を思い出すのう。『戦慄の剣姫』と『紅蓮の魔女』と共に迷宮を探索した日のことを」


 何でも、神官長は【戦慄の剣姫】という異名を持っているそうで、その強さはレムス王国でも有名で、10代前半にして国中の名だたる迷宮を踏破しているそうです。


「そうですね。第二学院の生徒だった頃は、紅蓮の魔女(彼女)と共にいくつもの迷宮を探索しました。懐かしいですね…… ですが、ベンプス先生。私達のパーティーには、もう一人いたことをお忘れですか?」


「ホッホッホッ。勿論覚えておりますとも。あの【究極の応援者サポーター】と異名を持つ彼のことも」


 究極の応援者―― って…… その異名は他の2人と比べて、ちょっと可哀相じゃないですか?


「大きな荷物を1人で背負ってサポートしてくれた彼がいなくては、私達の旅はうまくいかなかった筈です。彼も、今頃どうしてるのでしょうね……」


「そうですの。彼の功績は大きかったですのう」


 どう聞いても、その人は只の『荷物持ち』ですよね。そりゃ、旅には欠かせない存在かもしれませんが、功績があるようには思えませんよ。


「私はマセルから、彼に似た雰囲気を感じるのです。マセルは、彼に負けない『応援者サポーター』になるかもしれませんね」


 やめてください。私、『荷物持ち』になりたいとは思ってませんので……

【二代目応援者(サポーター)】なんて異名をもらったら、最悪ですよ。

 できれば『戦慄の剣姫』とか『紅蓮の魔女』のような、ちょっと中二的だけど、カッコいい異名を持ちたいです。


   ・・・・・・


 クション!


 とうとう地下7階まで辿り着きました。

 私はずっとくしゃみが止まらなくて、苦しんでいます。

 くしゃみって、思ったより体力使うんです。地味どころか、かなり辛いです。


 くしゃみが酷くて、当然戦闘には役に立てないし…… って、神官長が先頭を歩いてから、他の人の出番は全くありませんけど。

 階段を下りる毎に、出会う魔物は凶悪さを増しているように感じるのに、神官長の前では皆変わらず瞬殺です。

 魔物が弱いの? と勘違いさせられるほど呆気なく倒していきます。


 2mもある刀を、抜いたことすら分からない神速の抜刀術―― 正に、マンガやアニメで見た剣豪が目の前にいるんです。


 神官長《この人》は、絶対に怒らせてはいけない―― そう心に刻み込みました。


「その曲がり角の先に、階段が有りますぞ」


 やった! とうとう最後の階段です!


 そして曲がり角を曲がった先に見えたのは―― 巨大な扉……


 これ、絶対に【ボスのいる部屋】ですよね!?


「ここを抜ければ、後は『封印の間』まで一直線の筈です。ですが、この部屋の番人は少々厄介です。皆、心の準備はできていますね?」


「大丈夫です! もう腹の調子も戻っております」

「はい。私も、もう万全の状態です」

「ホッホッホッ。儂はいつでも大丈夫ですぞ」

「僕は、ま クション!」


「皆、準備万端ですね。では開けますよ!」


 ま、待ってください神官長!? 私、まだ心の準備が……


 ゴゴゴゴゴゴ……


 神官長が扉の横にあったボタンのような物を押すと、扉が左右に開きだしました!


   ・・・・・・

 

 部屋の中は、だだっ広い空間――


 奥の方に階段が見えます。

 そして階段の手前には―― 大きな人型の石像が、左右に2体ずつ並んでいます。


「神官長様。何もいないようですが?」


「石像が並んでいるだけですね?」


「あの石像が クション!」


 ゴランド先生とマチルダ先生に、

「その石像が、この部屋の『番人』です!」

って言おうとしたのに……


「あの石像は【ゴーレム】です」


「神官長様。それではあの石像が『この部屋の番人』なのですか?」


「そうです。あのゴーレム達は、この先へ進もうとする者を阻止しようとするのです」


「グレシア様が前回ここに来られたときは、ゴーレムをどうされたんですかの?」


「あの時は確か――『紅蓮の魔女』の遠距離魔法で、近付く前に片付けましたね」


「ホッホッホッ。ゴーレムは魔法耐性がとんでもなく高いというのに、遠距離魔法で倒すとは―― 流石は『紅蓮の魔女』ですのう」


「ですが、今は眠っているようですね。このまま静かに通り過ぎてしまいましょう」


 ほ、ホントに眠ってるんですか?

 それじゃあ、番人の意味がないですよ?

 それに――


 クション!


 近付いたら、私のくしゃみの音で起きそうな気がしますよ…… っていうか、絶対に起きます! 100%お約束ですから!

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