第27話 迷宮へ行くことになりました
3連休が明けて、再び学院生活が始まりました。
私は昨日、神官長の検査を受けさせられました。
学院には【真実の眼】という、神官長だけが使用を許された魔道具があって、それを用いて私がマセル本人かどうかを鑑定してもらい、やっと『マセルである』という証明を得ることができたのでした。
もし、それで『偽者』と判定されていたら…… と思うと、背筋が凍る思いでしたよ。
『真実の眼』の本来の用途は、学院に持ち込まれる物品の真贋を調べることらしいです。
神官長には、「生徒の鑑定証を書いたのは初めてですよ」と言われました…… 恥ずかしかったです。
暫くは『自分自身の鑑定証』を持ち歩く必要がありそうです。
とりあえず、生徒手帳みたいな物と思い込んで、自分を納得させることにしましたが、私の身体を『こんな風にした』マッチョ爺さんには、文句を言わないと気が済みません!
ところがどういうわけか、昨日は『オープンザマッソー』の呪文が発動せず、『あの部屋』へ行くことができませんでした。
あの時は一発で成功したのに…… 発動には何か条件があるのかしら?
今度行ったら尋ねておかなくっちゃ―― って、いつ行けるようになるのかわかりませんけどね……
・・・・・・
「あなた誰? ここに体験授業を受けに来たのかしら?」
早速鑑定証の出番です。シンディさんに鑑定証を見せました。
「マセル? そういえば顔はマセルの面影があるわ」
自分でも鏡で確認しましたけど、顔はそんなに変わってませんでしたよ。
ただ体格は…… 思った以上に大きく変わってましたけど……
それでも、シンディさんは冷静に私のことを信じてくれました。
続いてポリィさんが教室に入ってきました。
「こんにちは、ポリィさん」
「あんた新人ね。私の名前を知ってるなんて、なかなか見所があるわ」
「ポリィさん、僕はマセルですよ」
「面白くない冗談ね。私を愚弄するつもり? だったら覚悟しておきなさい」
ポリィさん、目が怖いです。
私はポリィさんにも鑑定証を見せました。
「き、気付いてたわよ! 騙された振りをしただけよ!」
いえ…… 私、別に騙してませんから。
その後には、ボルツくんが来ました。
「あれっ? マセルくん、ちょっと見ない間に随分大きくなったね。身長、僕と同じくらい有るんじゃない?」
は、初めてです! この姿になって一発で私のことをわかった人は!
「マセル。それってきっと『呪い』だわ。たった3日でそんなに身体が大きくなるなんておかしいでしょ。ベンプス先生は呪詛にも詳しいから、聞いておくと良いわ」
「そ、そうですね。ベンプス先生に尋ねておきます」
呪いでないことは分かっていますが、とりあえず話を合わせて、話題を反らすことにしました。
「シンディさんは休み中はどうしてたんですか? 予定が有ったそうですが?」
「私は王城にある図書館で調べ物をしていたの」
王城! 王都にある真っ白な美しいお城!
「あのお城の中に入れるんですか!?」
「1月前に申請しておけば、城内の施設のいくつかが利用できるのよ。知らない人が多いけど、王立学院の生徒の特権なの」
あのお城に入ることが出来るなんて!
来月の3連休は、絶対にお城に行くことにします!
「でもマセルは行けないわ」
「えっ? なぜですか?」
「申請できるのは2回生からなのよ」
そんな…… じゃあ私は後半年は申請できないの? ショックです。
「ホッホッホッ。皆さん、そろそろ授業を始めますよ」
いつものように、いつの間にかベンプス先生がおられました。
「マセルくん。3日見ない間に随分と大きくなったもんじゃの」
「え、ええ…… 僕、きっと成長期なんです」
「ベンプス先生。マセルは呪いに掛かっていると思います!」
シンディさん、自信満々ですね。でも、どうして呪いだと思うんですか?
「シンディさん、どうして呪いだと思うんですか?」
「それは私が、マセルに呪詛の実験をしたからよ」
へっ? 呪詛の実験―― って、どういうことですか!?
「私、図書館で呪詛の本を読んだから、試しにマセルに掛けてみたのよ」
「ぼ、僕…… 何かシンディさんに恨まれるようなこと、しましたか?」
私は、シンディさんに恨まれていたの?
何かやらかしたんですか? 心当たりは有りませんが……
「可愛い後輩を恨むわけないわ。ただ、あなた以外に手頃な人を思い付かなかったからよ」
シンディさんって、もしかして相当危ない人なんじゃあ……
「それで、いったいどんな呪いを掛けたんですか?」
「そんな大したものじゃないわ。1日くしゃみが止まらない呪いよ。でも失敗して、別の呪いが掛かったようだわ」
1日くしゃみが止まらない!? 地味にきついですよ、それ……
「ホッホッホッ。マセルくんの変化が呪いによるものかどうかは後で調べるとして―― 実はちょっと急用ができて、儂は明日から5日程、王都を離れることになったんじゃよ」
「ベンプス先生、どこかに出張されるんですか?」
「そうなんじゃ。グレシア様に頼まれてな、グレシア様達と一緒にハムストンの側にある迷宮の探索に行くことになったんじゃ」
ハムストン! 私の故郷じゃないですか!
「ベンプス先生。ハムストンまでは遠いですが、5日で戻ってこれるんですか?」
私は王都に来るのに、3週間は掛かりましたよ。
「ホッホッホッ。転移魔法が有るから、一瞬で行けるんじゃよ」
そっか! 転移魔法―― 便利すぎです。
私も使えるようになりたいです。
「そういえば、マセルの故郷はハムストンだったわね。私の故郷もハムストンの側のダンカールだから―― ベンプス先生! 私達も連れていってください!」
えっ? 私達も?
シンディさん…… 私は別に行きたくないですよ? 迷宮探索って、絶対に危険ですよね? 私は大人しく学院で待っていますよ。
「ベンプス先生! ハムストンの側の迷宮っていったら、あの【封印の迷宮】のことですよね!」
「そうじゃよ。『神代の時代から存在する』と伝わるレムス王国最古の迷宮の1つじゃ」
『最古の迷宮』って聞いただけで、危険な臭いがプンプンしますよ…… 私は絶対に行きたくないです。
「確か『封印の迷宮』には、どんな呪いにも効く聖水が湧いていると聞きます。マセルの呪いを解くために、私達も連れていってください!」
シンディさん―― 私を危険に巻き込まないで!
「如何にシンディくんの頼みとはいえ、封印の迷宮は危険じゃからのう……」
そうですよ! ベンプス先生、反対してください!
「連れていくなら、呪いに掛かっておるマセルくんだけじゃのう……」
ノー! 寧ろ私を除外して!
そもそも私、呪いに掛かってませんから!
私は必死に行くことを反対しました……
「絶対に呪いに掛かっていません!」
って必死に訴えました…… それなのに
「うーむ。確かに呪いではない気がするんじゃが…… 儂の知らん未知の呪いかもしれんからのう。封印の迷宮の聖水を試すのも、ええかもしれんのう」
結局、私だけが神官長とベンプス先生達に付いていくことになったのでした。
◇ ◇ ◇
翌日――
何のトラブルも起きないで!
私は強くそう祈って出発しました。
そして私の祈りは―― 全く通じなかったよ!
今私の目には、体長3mはある【ゴーレム】が近付いて来る姿が映っています。
ひいぃぃぃ…… 絶体絶命です……




