第24話 伝説のトレーナー
あれからも、マッチョメーカー28号のお陰で眠ることなく筋トレを続けた私は、砂時計の砂が3分の1程落ちた頃
「ぐぬぬぬぬ…… おりゃああぁぁぁ!」
渾身の気合いを込めて、ベンチプレスで50kgのバーベルを持ち上げることに成功しました!
「どうです! 50kgですよ! 凄くないですか!?」
「その程度でいい気になるな。ようやく目標の半分を達成しただけだぞ。
とはいえ、1度筋トレの成果を確かめておこうか」
私は久しぶりにパンチングマシンの前に立ちました。
初日は38kgしか出ませんでしたが、今なら結構凄い数字が出そうですよ!
私は今回も全身全霊を込めてパンチを打ちました!
ボスッ……
「53kgか…… うーむ、思った程成果が出ておらんな」
私の戦闘力は53kgです―― って、流石にそんなにショボイわけがないですよ。
このパンチングマシンは、『MC』という謎のレベル表示がされていて、私はMCレベル1となっていました。因みに前回はMCレベル0でしたよ。地球人の一般レベルはMCレベル2だそうです。
「このマシン、壊れてるんじゃないですか?」
きっとそうです!
するとマッチョ爺さんがパンチングマシンの前に立って、デコピンみたいに叩きました。
ドゴゴゴーン!!!
凄まじい音が鳴り響き、数字が出ました。
45――
ただし、そこに出ていた単位は、まさかの『t』ですって!?
デコピン1発で、どんな魔物にも勝てるんじゃないですか!?
いいえ、やっぱりマシンが壊れてるんですよ。そうでないと、こんな数字―― 絶対におかしいですって!
「マシンが壊れてると思うなら、お前の頭にデコピンしてやろうか?」
「いえ…… 遠慮しときます……」
「どうやらお前には、筋トレともう1つ、新しいトレーニングが必要だな」
新しいトレーニング? いったい私に、これ以上何をさせるつもりなんですか?
・・・・・・
「あの…… その横の方は?」
マッチョ爺さんの横には、マッチョ爺さんを2回り程小柄にしたチョイマッチョなお爺さんが立っていました。
「お前のために、優秀なトレーナーを連れてきてやったぞ」
そういえば『新しいトレーニングをする』ようなことを言ってましたね。
「聞いて驚け! この男こそ、あの【ジョージ・モービック】だ!」
ドヤ顔で紹介されましたが
「あの…… 誰ですか?」
「ま、まさか…… お前は元地球人でありながら、『ジョージ・モービック』を知らんのか? ジョージは『ボクシング世界王者メーカー』と言われ、15人もの世界王者を育て上げた伝説の名トレーナーだぞ!?」
前世では女子だったんで、ボクシングには全く興味ありませんでしたから、試合を見たことさえないです。
反応に困っていた私に、ジョージさんの方から近付いてきました。
「ミィはジョージね。ボーイを世界王者にするために、ここに来たよ!」
そう言って右手を差し出し、握手を求めるジョージさん。
済みませんが、私は世界王者になる気はありません…… というか、ムセリットにボクシングがあるのかも怪しいです。
「ボーイ! 世界中のあらゆる国で、男子が憧れる職業第1位―― それこそが『ボクシング世界王者』ね!」
私の前世の記憶では、男子のなりたい職業ランキングのトップ10に『ボクシング世界王者』が入っていたことはなかった筈ですが…… しれっと嘘吐くの止めてください。
「ボーイが8歳からミィのトレーニングを始めるなら、20歳までには絶対に世界王者に育て上げるね! ミィを信じるね!」
ジョージさんは熱心に『世界王者に育てる』と話されていますが、私がここにいる時間は残り(体感日数)20日もないです。
それでも私には戦闘技術が皆無なので、ジョージさんのボクシングの指導を受けられることは有難いです。
「ボーイ。早速ミィのスペシャルなトレーニングを始めるよ」
「はい! よろしくお願いします!」
「ボーイ。ボクシングで1番大事なのは足ね!
アウトボクサーなら、常に足で相手と距離を取って、自分に優位な場所に身体を置くことが重要ね! インファイターなら、相手を逃がさないように追い詰めることが重要ね!」
私は専門的なことは全然わかりませんが、足の動かし方が重要であることは理解できます。
・・・・・・
ジョージさんの指導の下、フットワークのトレーニングが始まるりました。
ジョージさんのトレーニングは、3分間動くと1分間のインターバルを取る―― ということを繰り返しました。それを10セット終えたところで
「OKボーイ! なかなか良かったよ! ちょっと休憩にするね!」
脹脛が痙攣して、私がへたり込んでいると
「ボーイ、これを飲むね!」
そう言ってジョージさんがくれたのは、『マッチョメーカー28号』でした。
そういえば、この部屋に来てから『マッチョメーカー28号』以外の物を口に入れてませんが、他の食料はないのかしら?
「そのビンは、どこから持ってきたんですか?」
「備え付けの冷蔵庫から持ってきたよ。ここの冷蔵庫、とっても大きかったね。でも全部そのビンで埋まっていたよ」
そうですか…… ドリンクがこれだけ美味しいから、他の食べ物も期待してただけに、ちょっと残念です……
「休憩タイムは終わりね。次は防御の練習よ。ボクシングで1番大事なのは防御よ!」
えっ? さっきは足が1番大事って言ってましたけど?
「常に頭を振ることが大事よ! 頭止まったら、相手のパンチの的になるね!」
「あの、ジョージさん…… 相手がパンチを打ってこない場合―― 例えば噛みついてきたら、どうすればいいですか?」
私の敵は魔物ですから、パンチは打ってきません。
「心配要らないね。ボクシングで噛みつきは反則よ」
「済みませんが、噛みつきが反則でない場合の戦い方が知りたいんです!」
「ボーイ! 裏のボクシングの試合をするつもりね!? 裏の試合に出たらいけないよ!」
「試合じゃないんです」
「試合じゃない? スパーリングでそんなことする選手がいるのね!? 任せなさい! ミィが抗議してあげるよ!」
だめだ…… ジョージさんには、ボクシング以外の戦闘は期待できそうにないです……
・・・・・・
「OKボーイ! なかなか良かったよ!」
防御の練習を10セット終えたところで、再び休憩タイムです。
「ボーイ、次はお待ちかねのパンチの練習ね! まずは基本の【ジャブ】を教えるよ。ボクシングで1番大事なのが『ジャブ』よ!」
ジャブが1番大事? さっきは防御で、その前は足でしたよ?
本当に1番大事な事が何なのか、教えてほしいです。
「どれが1番大事か分からない? ノー! ボクシングに大事でない技術―― 1つもありませんね! 全部1番大事です!」
分かりました…… ジョージさんには、つっこんだら負けだということが……
・・・・・・
そうして、マッチョ爺さんの筋トレとジョージさんのボクシングのトレーニングを受け続け―― とうとう砂時計の砂が残り僅かとなりました。
「元『早々野隆美』、よく儂らのトレーニングに耐えた!」
「ボーイ、よく頑張ったね!」
「よし! それでは今からトレーニングの成果を見せてもらおうか! まずは、そのバーベルを上げてみろ!」
私はベンチプレスマシンに仰向けに寝て、腕を伸ばしてバーベルを握りました。
バーベルの重さは100kg!
普通、8歳の子供が上げることのできる重さじゃありませんが、今の私ならできる筈です!
「うぐぐぐぐ…… どりゃあああぁぁぁ!」
気合を込めた掛声と共に、100kgのバーベルを持ち上げて見せました!
続いてパンチングマシンです。
肩の力を抜いて自然体で立ち――
ドン!
力強く踏み込んだ足から、膝・腰・肩・肘・腕へと力を伝えた渾身の右ストレートが、パンチングマシンを叩きました!
ズバーン!!
マシンの数字は―― 172kg!
やりました! 目標を超えることができましたよ!
「よし、合格だ! これなら魔物相手にも戦えるだろう」
でも私『身体強化』の魔法を覚えてませんけど…… 本当に大丈夫ですか?
「心配するな。身体強化の魔法陣は儂が用意してやる」
すぐにマッチョ爺さんは、A4サイズの紙一杯に魔法陣を描いてくれました。
その紙があれば、元の場所に戻ってすぐに身体強化の魔法を発動できますよ!
「フフフフ…… 慌てるな。コイツにはもっと良い使い方があるのだ」
そう言うと、マッチョ爺さんはいきなり私の上着を剥ぎ取りました!
ま、まさか…… そんな趣味の持ち主だったの!? 私、騙されたの!?
「勘違いするな! この魔法陣は鏡文字で描いてあるのだ。それをお前の背中に貼り付けるとだな――」
私の背中に紙を貼り付けられました。
「ほら! お前の背中と同化したぞ。これでお前は、いつでも無詠唱で身体強化の魔法を発動できるようになったのだ!」
ちょっと待ってください…… それって、まるで刺青じゃないですか!?
それのせいで、温泉に入浴禁止にならないでしょうね!?




