第23話 トレーニングが始まりました
3つの勘違いって、どういうことですか?
「お前の考える『潜在魔力』というのは、生まれた時に『ここまで成長できます』と決まっている魔力値のこと、で間違いないな」
そうですよ。潜在能力といえば、人に最初から備わっている『隠された能力』のことに決まってます!
「それこそが1つ目の勘違いだ! 人間には『潜在的な能力』などというものは存在せん!」
えっ!? 潜在能力が『存在しない』ってどういうことですか!?
「いいか。人の能力というものは、生まれながらにして『ここまで成長します』などとは決まっておらん! 全ての能力は『才能と環境と努力』によって育まれるのだ!
例えばお前の暗算能力―― それが勝手に成長して身に付いたものだと思うか?
違うだろ! 珠算塾という環境が与えられ、お前がそこで努力した結果得たものだろうが!
魔力も同じだ! 魔法を鍛える環境もなく努力もせずに、勝手に魔力が成長するわけがあるまい!」
がーん!!! とんでもなく『正論』です……
「当然のことだが、人間の持つ潜在魔力は『0』ということになる」
「そ、それじゃあ…… 私の魔力はどうなってるんですか……」
「まあ、そこは儂がお前の望んだ条件を最大限好意的に解釈してやったわ。
それで、お前の魔力は『人間の平均魔力の1万倍』に固定しておいてやった」
そうだったんだ! 私の魔力って『人間の平均魔力の1万倍』で固定されてるんですね!
って、おかしくないですか? それなら普通に『魔法無双』できそうですが?
「お前にとって『人間』とは誰のことだ?」
「それは勿論『ムセリット』の人のことですけど……」
「それが2つ目の勘違いだ! お前の希望を聞いた時点では、お前は『人間』と答えただけで、どの世界の人間かまでイメージしていなかった筈だ」
それは…… あの時はまだどの世界に行くかも決まってませんでしたし。
「お前のイメージが曖昧だったから、儂は『地球人』を基準にしたのだ!
だから、地球人78億人の平均魔力値『0.009849』の1万倍の『99(おまけで小数点以下切り上げ)』が、お前の魔力値だ!」
魔力値99? それって、多いのか少ないのかよくわかりません。
「因みにムセリットの人間の平均魔力値は『108』だ。99だと16~17歳の平均値くらいだな」
私の魔力値ってムセリットの平均にも届いてないの!? しかも『固定』ということは……
「もしかして、私の魔力は『99から成長しない』のですか!?」
「その通り! お前は生まれたときから死ぬまで、ずっと魔力値99のままだ!」
そんな…… それじゃあ、『魔法無双』なんて絶対にできないじゃないですか!?
「ひどいです! どうしてムセリットの平均を基準にしてくれなかったんですか!?
1万倍とは言いませんから、今からでもムセリットの平均の10倍に変えてもらえませんか?」
「今更変更などできん。それに魔力値を1080にするには、転生ポイントが全然足らんわ!」
「転生ポイント?」
私のように転生特典が当たった人は、転生ポイントとして100ポイント貰えるのだそうです。私の場合は
『転生先に魔法を使う世界を選択』5ポイント
『前世の記憶の保持』5ポイント
『魔力値99』5ポイント
『あらゆる言葉の理解』15ポイント
『あらゆる文字の理解』25ポイント
で転生ポイントを55ポイント使って転生したそうです…… って、まだ45ポイントも残っていたの!?
因みに合計が100ポイントを超えた場合、超えた分の選択を諦めるか『魂の寿命』を担保にするのだとか。
もし私が『魔力値1080』を選んだ場合、584ポイントが必要(注)なため、転生ポイントが『マイナス484』になり、そのマイナス分の年数の『魂の寿命』が生まれた瞬間に減らされるのだそうです。
人間の魂の寿命は100年に設定されているらしいので、生まれた瞬間に死にますね…… しかも、その後の転生では、能力は引き継げないのに『魂の寿命の借金』だけはしっかり残るのだそうです。
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(注)
魔力固定の能力に必要な転生ポイントは、転生先が『魔法が使われている世界』の場合は、『(魔力値/100)の2乗×5(小数点以下切り上げ)』ポイントが必要になる。
転生先が『魔法が使われていない世界』の場合は、『(魔力値/10)の2乗+5(小数点以下切り上げ)』ポイントが必要になる。
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「そういうことだから、今更魔力の使い方を覚えたところで、お前は大して強くならんということだ」
魔力値99に固定されている私には、どんなに魔法を鍛えても、これ以上魔力値が上がることがない、ということが分かりました。
『魔法無双』の夢が破れてショックですが、今はそんなことでクヨクヨしている隙はありません。
攻撃魔法に頼れないなら直接攻撃で戦えばいいのです。私にはまだ『身体強化』があります!
「身体強化の魔法なら、そんなに魔力は必要ないんじゃないですか?」
「確かに身体強化なら大きな魔力を必要とはせんが―― お前、ちょっとそこのパンチングマシンでパンチ力を測ってみろ」
マッチョ爺さんに促されて、パンチングマシンの前に立った私。
「全力で叩けよ」
よーし! 私は全身全霊を込めてパンチを打ちました!
ぺちっ……
「38kgか…… 仮にお前が身体強化3倍を使ったところで114kgだな。それで魔物が倒せると思うか?」
きっと無理です……
「魔物を倒すには、最低でも500kgの攻撃力は欲しいところだから、お前は身体強化14倍を使わなければならない」
14倍…… かなり鍛えた人でも、身体強化3倍を超えると身体に大きな負担がかかると言われています。
「今のお前の貧弱な筋肉では、身体強化3倍の負荷にすら耐えられはせんだろう」
その通りです……
「座して死を待つか? それとも―― 儂のトレーニングで活路を開くか?
お前はどっちを選ぶのだ!?」
トレーニングも嫌だけど、死ぬのはもっと嫌です。
「トレーニング…… します……」
こうして私は、この部屋でマッチョ爺さんの指導の下、筋トレすることになりました。
でも、たった30日で本当に魔物に勝てるようになるの?
・・・・・・
「まずはお前の身体測定をするから、それに乗れ」
言われるままに測定器に乗った私。
「身長128cm、体重29kg―― 予想通りの貧弱さだな」
数字を見ると、早くも絶望感が半端ないです…… 鍛えるのが無駄に思えてきましたよ……
「心配するな! 筋トレ歴400年を誇るこの儂が指導するのだ。最終日には100kgのバーベルを上げられるようになる予定だ」
100kg!? 絶対にあり得ませんよ……
「初日は小手調べで、30kgのバーを持ち上げられるようになってもらおうか」
「無理です…… 30kgは重すぎます」
簡単に言ってくれますけど、30kgって私の体重よりも重いんですよ。
「心配するな。儂の指導通り行えば、何の問題もない!」
・・・・・・
「お前―― 体力無さすぎだな……」
ううう…… そりゃ、王立第二学院の体力テストでワースト8位ですから……
「始めて30分でそこまで疲れ果てるとは、儂の想定の最低ラインを下回っておったわ」
マッチョ爺さんは、へたり込んでいる私を残して、トレーニングルームを出ていきました…… まさか、もう見捨てられたの!?
と私が絶望していたら、マッチョ爺さんは、小さなビンを持って戻ってきました。
良かった! まだ見捨てられていなかったよ!
「ほら、こいつをやろう」
私は差し出された小ビンを受け取りました。ビンはよく冷えていて、ラベルには【マッチョメーカー28号】と書かれていました。飲み物のようですが、何とも怪しげな名前です。
それでも、喉も乾いていたので1口だけ飲んでみました。
!?
ビックリするぐらい美味しい!
今世は勿論、前世でもこれ程美味しい飲み物を飲んだ記憶がありません。
私は一気に飲み干しました。
「これ、いったい何ですか? 美味しすぎますよ!」
「そうだろ! これは世界最高の料理人に開発させた逸品だからな」
世界最高の料理人! 道理で美味しいわけです。
「しかも只上手いだけではないぞ。どうだ、疲れも吹っ飛んだだろ?」
そういえば、身体が楽になりましたよ!
「マッチョメーカー28号を飲めば、腹も空かんし眠気も感じなくなるのだ。
それに!」
「それに? 何ですか?」
「フフフフ…… それは秘密だ! 後々の楽しみにしておくがいい。
それよりもトレーニングを続行するぞ」
マッチョ爺さんの笑いが気になりますが、疲れも取れたことで私のやる気が上がりました!
私はその数時間後―― とうとう
「フン!」
「よくやった。30kgクリアだ。褒美にマッチョメーカー28号をやろう!」
ああ―― 生き返る! 幸せ!
この時私は、マッチョメーカー28号の恐ろしさを分かっていませんでした……




