第22話 これが走馬灯
物凄い勢いでディアナさんに突進する魔物!
「負けるかあぁぁぁ!」
ディアナさんは、牙の攻撃を辛うじて剣で防ぎました。
だけど…… 今度は右足に切り傷が!?
「ぐっ!?」
ダメだ! これ以上攻撃されたらディアナさんが…… ここは作戦を変えるしかないです。
魔物の注意を私に向けさせるんだ!
詠唱完了まで後2秒――
私は魔物に背中を見せて逃走しました。
旋風は固定の場所に旋風を起こす魔法で、詠唱の最後に発生場所を指定します。
私は振り返ると同時に詠唱を完成させました!
私の逃走に気付いた魔物はディアナさんを無視して、私を追い掛けてきており、私のすぐ後ろまで迫っていました!
グオオオォォォ!
魔物は、私に向かって飛び掛かってきました!
ここだ! いくら素早い動きの魔物でも、空中では方向転換できないよ!
「旋風!」
呪文と同時に激しい旋風が巻き起こる!
私は旋風の発動地点を、私のすぐ目の前に設定したのよ!
魔物は避けることができず、そのまま渦巻く風の中に突っ込みました。
・・・・・・
「はぁはぁはぁ……」
「ふう!」
私とディアナさんは、地面に仰向けに寝転がっていました。
その横には、ディアナさんに斬られて絶命した魔物の屍があります。
旋風に巻かれた魔物は、高々と舞い上がった後、地面に激突。
目も回ってフラフラになっていたところを、ディアナさんが止めを刺しました!
「危なかったね……」
「マセルが走らなかったら、私が狙われていたよ。ありがとうマセル」
「ディアナさんがいなかったら、私なんかあっという間にやられていましたよ。ありがとうディアナさん」
私達が2人して笑い合っていると
ガランガランガラン!!
激しく鳴子が鳴りました。そして
ウオーン! ウオーン!
と、遠吠え!? まさか…… まだ魔物がいたの!? それも2匹……
早く逃げなきゃ! 今度は確実に殺される……
でも、足に怪我を負ったディアナさんは逃げきれそうもないよ……
私は意を決して、鳴子の鳴った方へ進むことにしました!
「マセル! そっちへ行っちゃ駄目だ!」
ディアナさんの声を無視し、私は魔物のいると思われる方向へ進んでいきました。
・・・・・・
魔物の狙いは絶対に『私』だ!
理由は分からないけど、私には何となくその確信がありました。
だから、私がオトリになればディアナさんは襲われない筈です。
私は完全に死を覚悟していました。
自然と涙があふれてきます……
ディアナさん、リックくん、エミリさんと受けた入学試験のこと……
戦闘魔法技能科で知り合ったシンディさん、ボルツくん、ポリィさん……
ハムストンの学び舎でメルナちゃんとクリスくんと一緒に遊んだこと……
妹のマリンを初めて抱っこした日……
楽しかった日々の記憶が、次々と頭の中に浮かんできました。
ああ―― これが走馬灯なのか……
そして最後に、父さんと母さん……
今度の人生でも、また両親に親孝行できなかったよ……
ごめんなさい…… 親不孝な私を許して……
グルルルル…… グゴゴゴゴ……
とうとう2匹の魔物の姿が見えました。
真っ赤に光る凶暴な4つの目が私を睨みつけ、唸り声を上げています。
最期に一矢報いるんだ!
そう思ったとき、何故か転生する前に見た『マッチョ爺さん』を思い出しました。
そういえばマッチョ爺さんが私にくれた特別な能力―― 1度も使ったことがなかったけど、どんな能力だったんだろ?
もしかしたら、この状況を一発逆転できる凄い能力かもしれないわ!
迷っている時間はないです! ダメ元で、今使ってみるしかありません!
確か『サイドなんちゃら』とかいう変なポーズを取るんだった。
私は大急ぎで、あの時マッチョ爺さんに見せられた『変なポーズ』を取り、そして呪文を叫びました!
オープンザマッソー!!
その瞬間―― 目の前が真っ白な光に包まれました。
◇ ◇ ◇
目の前には、ウエイト・トレーニングの器具がズラッと並んでいて、その器具の1つに寝そべった老人が「フン! フン!」言いながら超重そうなバーベルを持ち上げています。
見覚えのある『その光景』に、愕然となる私……
もしかして私……
また死んでしまったの!?
「心配するな、元『早々野隆美』。お前は死んでいないぞ」
いつの間にか私の目の前に、上半身裸でピチピチパンツ姿のゴリマッチョな爺さんが立っていました。
「で、でも、ここって『あの時の部屋』ですよね?」
忘れもしない…… ここは8年前、私が前世でトラックに轢かれて死んだときにやって来た部屋です。
「違うな。ここは、あの時の部屋じゃないぞ。あそこは儂の仕事部屋で、ここは儂の『プライベート・トレーニングルーム』だ」
「えっ? じゃあ、本当に私―― 死んでないんですか!?」
「当たり前だ。儂は『地球人の魂の管理人』だぞ。お前が死んだら『ムセリットの魂の管理人』の所へ行くに決まっておるだろ!」
良かった! じゃあ私―― あの魔物2匹から逃げきれたんだ!
「いいや、逃げきれてはおらんぞ」
「ど、どういうことですか?」
「お前がこの部屋の中にいる間は下界の時は止まっておるが、お前がこの部屋から出ると再び元の場所に戻り下界の時が動き出すのだ」
つまり…… 私が魔物に襲われている状況に変化はない―― そういうことなの?
「そういうことだ」
「じゃあ、私はずっと『この部屋』にいるしかないんですか?」
元の場所に戻れば殺されるだけだし、ここにいるしかないの?
「それも無理だ。お前がこの部屋にいられるのは―― ホレ!」
マッチョ爺さんは、部屋の中央に置かれている『大きな砂時計』を指さしました。
「あの砂が落ち切るまでの間だけだ。因みに体感時間で30日だ」
そ、そんな…… それじゃ私…… 結局死を待つだけじゃないですか!?
「そうだな。お前がここで『ボーッ』と時間を無駄に過ごせば、間違いなく殺されるだけだ。だが!」
マッチョ爺さんは、トレーニング器具を指さして
「アレを使って、儂がお前のその貧弱な筋肉を鍛えてやれば、希望も生まれるやもしれんぞ!」
ま、まさか! 私に身体を鍛えて『お爺さんみたいなマッチョになって、魔物と戦え』というのですか!?
「そういうことだ!」
「嫌です!」
私はすぐさま否定しましたよ。
「確か私は転生するときに『人間の平均の1万倍の潜在魔力』をもらいましたよね? 筋肉を鍛えるよりも、どうせなら魔力の引き出し方を教えてもらえませんか?」
そうよ! お爺さんみたいな『醜いゴリマッチョ』になるなんて絶対に嫌です!
私は『魔法で無双』したいんです! 魔法であの魔物2匹を倒します!
「がっはっはっはっはっ! 何を言い出すかと思えば、そんなくだらんことか!
お前は、大きな勘違いを3つしておる!」
3つの勘違い? それってどういうことです?




