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第21話 私って美味しそう?

 明日はラップルで朝食を取って、昼食の弁当を買ったら、すぐに王都への帰路につきます。もう一泊して、もう一度温泉に浸かりたかったけど、お金もないのでラップルに長居はできないから仕方ないです。


 ということで、私達はテントに入るとすぐに眠りにつきました。


   ・・・・・・


 カラカラ…… カラカラ……


 小さく鳴子の音が聞こえる?

 鳴っているのは、私達の仕掛けたものではなさそう。

 かなり遠そうなので、眠気に負けて起きる気になりません……


 ところが、それから暫くして


 ガランガランガラン!!


 今度は間違いなく私達の仕掛けた鳴子の音です!


「何? 動物?」

「ふわあぁ?」

「眠いわ……」


 皆眠そうだけど目を覚ましました。テントの外に出ると、暗闇の中で松明の灯りが見えます。誰かが走って近付いてきているようです。この人が、鳴子を鳴らしてしまったのかな?


「そんなに慌てて、どうしたんですか?」


 私はその人に声をかけました。


「お前ら! 早く逃げるんだ!」


 近付いてきたのは、ボルツくんよりも少し歳上に見える若い男性でした。


「魔物だ! 魔物が出たんだ!」


「魔物ですって!?」


「そ、そうだ! で、出たんだ! あの恐ろしい、ジャ、ジャ……」


 ジャ?

 まさか…… ジャイアントベア!?


「ジャドーダックスが!」


 また犬ですか!? それも『ジャドー』って…… 今まで英語っぽいネーミングだったのに日本語っぽいですよ。レムス王国の言語体系が謎すぎです。


「ジャドーダックス!? あの恐ろしい姿の魔犬!?」

「い、嫌だよ…… 見たくないよ…… 早く逃げよう!」


 確かにすぐに逃げないといけないけど、『恐ろしい姿』って…… 私の想像した『あの犬の姿』とは違うのかも? どんな姿をしてるのか気になります。


「ジャドーダックスって、そんなに恐ろしい姿をしてるの?」


「ああ! 恐ろしく胴長で短足なんだ!」


 やっぱり私の想像通りの姿のようです。

 尤も姿が可愛らしくても、こないだのマッドチワワ同様、きっと狂暴な魔物なんですよね…… この世界は犬好きには辛いです……


 って、そんなことを考えてる場合じゃなかった! すぐに逃げないと!


 昼間の壁越えの練習が役立ちそうだよ。

 昼間は私だけ上手くいかなかったけど、ちゃんと準備しておいたんだから!

 町の中で見つけた古い木製の台―― 高さ30cm程あったから持ってきておいて正解でした! それを踏み台にすれば、風魔法を使って壁の上に手が届く筈です!


 ジャドーダックスがやって来る前に、ラップルの町に逃げ込めば一安心! と思っていたんだけど…… 私達は逃げられても、野宿している他の人達が逃げられないことに気付いた私。


「僕が昼間みたいに風魔法を使うから、皆は町の中に逃げて!」


「マセルはどうする気なの?」


「僕は他の野宿している人達に避難するように伝えてきます。その間に、皆は町の衛兵に魔物が出たことを伝えてきてください!」


『お人好し』と言われそうだけど、見て見ぬふりはできません。


「そんな!? 危険だよ。マセルも一緒に逃げようよ!」


「大丈夫です! それよりも、皆は一刻も早く衛兵に知らせてください!」


 ガラン ガラン ガラン!


 再び鳴子が鳴ったよ……

 今度こそジャドーダックスかも!? 今の鳴り方からして歩いて引っ掛かったようだけど、それでも時間の余裕は殆ど無いよ!


「リックくんから、急いで!」

「わ、分かった」


 リックくんが壁をよじ上りました。


「次は、エミリさん!」

「う、うん……」


 エミリさんも壁に上ることに成功。そして最後は


「ディアナさん!」

「私はマセルと残るよ」


 えっ!? ディアナさん、どうして?


「大丈夫さ! こんなこともあるかと『コイツ』を用意しておいたから―― ほら!」


 ディアナさんは両手に短めの剣を持っていました。


「で、でも…… 危険です!」

「マセル1人よりはマシだよ!」


 そう言うとディアナさんはリックくんとエミリさんに向かって


「キミ達は早く衛兵を呼んできてくれ! 任せたよ!」


「分かった! すぐに呼んでくるから無茶するなよ!」

「絶対に無事でいてよ!」


 2人は壁の向こうに消えていきました。


 ウオーン!


 犬の遠吠え!? かなり近いです……


「お、おいキミ…… 俺もさっきの魔法で壁の上に運んでくれないか?」


「いいですけど…… その前に魔物の数と、他の野宿している人達がどうなったか分かりますか?」


「そんなこと、分からないよ。俺も『ジャドーダックスが出た』って声を聞いて、慌ててこっちへ逃げてきたんだ」


「マセル…… 残念だけど、もう逃がしてる時間は無いよ」


 ディアナさんの視線の先を見ると…… 暗闇の中に赤く光った目が見えました。

 数は―― 1匹だけのようです。


「う、うわあああぁぁぁ!」


 叫び声を上げて、男性は走り出しました。

 こういうときこそ冷静にならないと、碌なことが起きないですよ。最初に逃げ出した人が犠牲になるのは、物語ではお約束――

 彼の逃走を助けるためには、私が魔物ジャドーダックスの注意を引きつけないと!


 って思ったのに、魔物ジャドーダックスは走り去る男性は最初からガン無視。

 そして―― その視線は明らかに私をロックオンしていて、低い唸り声を上げて威嚇しています……


 えーっと…… 結果的には男性が逃げられて良かったんだけど、私…… 何か魔物の注意を引くようなことしましたか? 


 グルルル……


 ひぃっ!? 小さいのに凄い威圧感……


「マセルは下がって!」


 ディアナさんが2本の剣を構えて、私と魔物ジャドーダックスの間に立ちました。

 ディアナさんは接近戦を挑む構えです。私は、ディアナさんの邪魔をしないように、後方からしっかり援護しないと!


 ディアナさんは魔物ジャドーダックスの動きを警戒しつつ、ジリジリと距離を詰めます。

 それでも魔物ジャドーダックスは、ディアナさんよりも寧ろ後ろにいる私のことを気にしているみたい? 私、何かこの魔物ジャドーダックスに怨まれるようなことをしたの? 異常な敵意を感じるんですが……


 でも、考え様によっては好都合です。私に注意が向けば、その分ディアナさんの攻撃機会が増える筈です!


「ディアナさん。私が魔物を引き付けるから、隙を見て攻撃してください」


「分かってるさ。どうもこの魔物、ずっとマセルのこと見てるからね」


 やっぱり…… ディアナさんもそう思うほど、魔物の注意は私に集中してますよね。


「きっとマセルが美味しそうに見えるんだよ」


 美味しそう!? その評価、全然嬉しくないです。


「と、とりあえず、最初は僕が攻撃してみます」


 まずは小手調べで――

 火球ファイヤーボール2連発!


 ドーン!


 は、速い…… あの短い足で、信じられない華麗なステップで左右に動いて、あっさりと火球ファイヤーボールは2発共躱されました。

 しかも、躱すと同時に私に向かって飛び掛かってきた!?


 10m近く離れていたのに、鋭い牙が一瞬で目の前に迫ってきます!


 ガチン!


 ディアナさんが横から剣で切りつけましたが、その攻撃に気付いた魔物ジャドーダックスは牙で剣を受け止め、再び私達から距離を取りました。


 ふえぇぇぇ……

 ディアナさんがいなかったら、私は小手調べの段階で死んでいたよ……


 魔物ジャドーダックスは、今度はディアナさんに注意を払っています。私の前に立つディアナさんを、えものを守る邪魔者に認定したようです。高速にサイドステップしながら、ディアナさんに襲い掛かろうとしています。


「動きが速いね…… マセル、何か足止めする手段はないかい? あれだけ速いと対処がきつくなるよ」


 魔物ジャドーダックスの動きを止めるには―― 旋風ホワールウインドが有効です!

 でも魔物ジャドーダックスの動きが速すぎて、狙っても当たりそうにないです。それなら、魔物ジャドーダックスの方から魔法の発動場所に入ってきてもらうしかありません!


 私は一か八かの賭けに出ることにしました。


「ディアナさん。私がオトリになるんで、私が合図したら態と私から離れた場所に移動してください」


「そんなことして大丈夫なのかい? 私が離れたら、間違いなく魔物ジャドーダックスはマセルに襲い掛かるよ?」


「だ、大丈夫です!」


 タイミングが一瞬でも遅れたら、私は間違いなく『あの牙』の餌食になる……

 逆に早すぎたら躱されてしまう……

 絶対に失敗できない! 集中しなきゃ!


「ディアナさん。私が今から旋風ホワールウインドの詠唱に入ります。詠唱完了まで10秒です。その間、魔物ジャドーダックスを私に近付けないようにしてください」


「10秒か…… 分かった!」


 魔物ジャドーダックスが、ディアナさんに襲い掛かりました!


   ・・・・・・


 魔物ジャドーダックスは、地面擦れ擦れの低い位置から突進!

 ディアナは、下段から薙ぐように右手の剣を振る! が、空振り―― 魔物ジャドーダックスは急停止し、剣を躱したのだ!

 魔物ジャドーダックスは、躱すと同時にディアナに飛び掛かる!

 ディアナは少しバランスを崩しながらも、左手の剣を突いた!


 ガキン!


 剣と牙の衝突音が響いた。


 僅か3秒弱の攻防……

 魔物ジャドーダックスは後方に飛び退き軽やかに着地。

 ディアナは右肩を押さえながら膝をついた。


   ・・・・・・


「くっ!? 爪にやられたみたいだ……」


 目の前の速すぎる攻防に、私は何が起きたのか全然分からなかったけど、まさか…… あの短い足に攻撃されたの!?


「ちょっと厳しくなったけど―― 後5秒!」


 魔物ジャドーダックスは、再びディアナさんに襲い掛かりました!

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