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第16話 猛獣に襲われました

 ボルツくんがフラグを立てたせいなのだろうか? 急に、森の雰囲気が変わったような気が……


 ガサガサ…… ガサガサ……


「風が出てきたのかな? さっきから、木の揺れる音がするね」


 ボルツくんは、周りの変化に気付いていないの?


「ボルツさん。この森って、魔物が出たりするんですか?」


「えっ? カーラの森は第二学院管理だし、魔物なんかいる筈ないよ。マセルくんって、僕以上に心配性なんだね」


 私は、今のボルツくんとの会話で確信する…… 今のは絶対にフラグです!


 私には索敵能力はないけど、この嫌な気配は流石に分かる…… 絶対に、危険な何かがいるよ……


 バサッ!


 木の陰から何かが飛び出してきた!?


 えーい! もう戦うしかない!

 って、身構えたのに―― 何ですか?

 私の予想では、狼みたいな獣が襲ってくると思っていたのに、出てきたのは…… チーちゃん!?


 勿論、チーちゃんな筈はないけど…… チワワみたいな可愛い小犬が3匹現れました。

 完全に意表を突かれて、私の思考が停止しかけたその時――


 う…… うわあああぁぁぁ!?


 ボルツくんが絶叫したよ? ど、どうしたんですか?


「マ、マッドチワワだ…… マセルくん、すぐに逃げるんだ。食い殺されるぞ!」


 マッドチワワ? 食い殺される?

 目の前の可愛い小犬からは、想像もできないワードに、私の頭がついていきません。


 プルプル震えるように近付いてくる小犬達の姿が、チーちゃんと重なって、思わず抱きしめたくなる私。


 ところが、小犬達が私の5mまで接近した瞬間―― 凄まじく獰猛な牙を剥き出して、飛びかかってきた!?


 オヒョー!?

 私は間抜けな声を上げて尻餅をついてしまいました。

 ヤバい! 思わず目を閉じた私……


「マセルくん! 早く逃げて!」


 その声に目を開けた私の前に、土の壁が立っていました。

 これって、ボルツくんの魔法!?


 ビキビキビキ……


 安堵している間もなく、土の壁にヒビが!

 私は必死に立ち上がって、ボルツくんの方に向かって走りました!


 バゴン!!


 土の壁が破壊されたの!? 見た目からは想像つかないほど、あの小犬達、パワフルすぎるよ!

 もう、可愛いなんて全然思えません! 完全に猛獣です! 見た目とのギャップを考えると、猛獣より質が悪いです!



 私達、何も考えずに逃げているけど、どこに逃げればいいの? いきなり襲われたせいで、迷宮から遠ざかるように走ってしまったけど…… 迷宮に逃げ込んで、ベンプス先生の助けを求めるのが正解だったかも……


 焦っちゃ駄目。こういうときこそ、冷静に周りを分析しなくちゃ!

 私は必死に心を落ち着けて、隣を走るボルツくんを見ました。


 ボルツくんは、幅3m・高さ2mほどの土壁を連続で出しながら走ってるよ…… 正直、かなりスゴイんですが。って、感心してる場合じゃないです。私も攻撃しなくちゃ!


 獰猛な小犬達は、突然現れる土壁を避けよともせず、そのまま突進してきます。獲物に向かって、真っ直ぐ突っ込むしか知らないみたい…… 完全に狂ってるよ!


 バコン!


 また土壁が破壊されました。

 でも、土壁を壊した後、一瞬狂犬達の動きが止まります。そこが攻撃のチャンス!


 ギャイン!!!


 私の放った3つの火球ファイヤーボールが、3匹全てに見事に命中! 狂犬達が後ろに弾け飛びました。


 やった!


 と思ったのも束の間、空中で身体を回転させ、華麗に着地を決める狂犬達……


 効いてないの?


 すぐさま私達を追い掛けてきたよ。

 こうなったら炎の嵐(ファイヤーストーム)しかない!


「ボルツさん。あいつらの周りを土壁で囲めますか?」


「囲めるけど、すぐに壊されるだけだよ?」


「大丈夫です! 逃げ道を封じて、炎の嵐(ファイヤーストーム)で仕留めます!」


「わ、分かった……」


 私が詠唱を開始し、ボルツくんはタイミングを計って土壁を出現させ、上手く3匹を囲ってくれました!


 ファイヤーストーム!


 私は土壁で囲まれた中に炎の嵐(ファイヤーストーム)を起こします!


 ギャオオオーン!!!


 狂犬達の悲鳴が聞こえる。でも、まだ安心しちゃいけない!


 土壁を飛び越えて、3つの影が飛び出してきました!


 なんてタフさなのよ!? でも――

『そう来る』って思ってたよ!


 ギャイン!!!


 空中の3匹に、火球ファイヤーボールを叩き込みました!


 再び、狂犬達を炎の嵐(ファイヤーストーム)の中に突き落としました!

 炎の嵐(ファイヤーストーム)の効果時間は約30秒―― これで決着ついて!


 ビキビキビキ……


 ひいいいぃぃ…… 土壁にヒビが!?

 出てこないで…… 出てこないでよ!?


 私の祈りが通じたのか、炎の嵐(ファイヤーストーム)が止んだ後も、土壁が破壊されることはありませんでした。


 怖かったよ…… あいつらが、もし後ろ側から脱出してたら、私達の人生、ここで終わっていたかも…… 真っ直ぐ突っ込むしか能のない狂犬で助かったよ……


 私もボルツくんも地面にへたり込んで、暫く立つことができませんでした。


   ・・・・・・


「2人共、どこに行ってたの?」


 迷宮の場所まで戻ってきた私達に、シンディさんが心配そうに声を掛けてくれました。


「随分疲れておるようじゃが、何か有ったんかの?」


 私はベンプス先生に『さっきの出来事』を話しました。



「マッドチワワじゃと!? このカーラの森に、そのような狂暴な魔物が出たとは、俄には信じられぬの……」


「でも事実です。あっちに、マッドチワワの死体が残ってます!」


 私が指差した方角を見てから、ベンプス先生は目を閉じました。


「フムフム。確かに、マッドチワワの亡骸が3つあるようじゃ…… となると、この場に長居するのは危険かも知れんの」


「あ、あの…… ベンプス先生…… 僕の昇級試験は……」


 ボルツくんは試験のことが気になっているようだけど、私としてはこの森から早く離れた方が良いと思うの。


「ちょっと、ボルツ! あんた、私の試験の結果を最初に聞くべきでしょ!」


 ポリィさんは、もうちょっと空気を読んでください。今はそんなことを気にしてる場合じゃないし、その嬉しそうな顔を見たら、結果は聞くまでもないです。


「そ、そうだね…… ポリィ、結果はどうだった?」


 ボルツくん、優しいね。ちゃんと言われた通り、聞いてあげるんだ。


「勿論、合格よ! これで私は2回生で、あんたより上級生だから、今からは『ポリィさん』と呼びなさい!」


 流石にこれはひどいよ。ボルツくん、怒ってもいいと思うよ。


「ポリィさん、合格おめでとう」


 ボルツくん…… そんなんじゃ、ポリィさんに舐められるよ。


「あ、ありがとう…… あ、あんたも早く合格しなさいよ!」


 ポリィさんの顔が赤いです。ツンデレですか? って、そんなことよりも今日は試験は止めにして、早く学院に戻りましょうよ。


 ところが、


「索敵でカーラの森一帯を探ってみたんじゃが、もう危険な魔物はおらんようじゃ。ボルツくん、昇級試験はどうする? 日を改めるかの?」


「は、はい! 今から受けます!」


 ボルツくん、大丈夫なの? マッドチワワから逃げるのに、魔力も体力もかなり消耗してると思うけど……


   ・・・・・・


「ホッホッホッ。ボルツくん―― 昇級試験合格じゃ」


 私の心配をよそに、ボルツくんの昇級試験はあっさりと終わりました。


 試験の合格に必要な条件は、『2時間以内に迷宮の魔物20匹を討伐する』だったんだけど、迷宮の中では土魔法―― 有能すぎる!


 1.魔物発見

 2.土壁の魔法(ウォール)で魔物の周りを囲い、逃げ場をなくす

 3.落石魔法フォールロックで天井から岩を落として魔物全滅


1から3を何度か繰り返して、1時間程で見事条件クリア!


「ボルツ! なかなかやるじゃない!」

「ボルツ、合格おめでとう」


 ポリィさんとシンディさんが、ボルツくんを祝福します。


「ボルツさん、合格おめでとうございます! すごかったですね!」


 ボルツくん、疲れていた筈なのに、本当にお見事でした!


「いやぁ…… これもマセルくんのおかげだよ」


 ボルツくん、照れながらそんなことを言ったけど、私は何もしてませんよ?


「マセルくんのおかげで『ウォールで囲ってから攻撃する』という方法を思いつけたんだ」


「そうなんですか?」


「うん。僕が無詠唱で使えるのは土壁ウォールだけだから、逃げるときは役に立つけど、戦闘ではどうすることもできなかったんだ。攻撃魔法の落石フォールロックは、詠唱している間に魔物に逃げられたり、魔物に接近されたりして、今まで僕一人で魔物を倒したことはほとんどなかったんだ」


 そうだったんだ! じゃあ、あのマッドチワワとの戦闘が役に立ったんだね!


「でも、ボルツはこれで油断しちゃダメ。落石フォールロックは、洞窟では使えても外では使えないから、他の攻撃魔法を覚えないと3回生には昇級できないよ」


「そうよ! ボルツは、これでいい気になるんじゃないわよ!」


「そ、そうだね…… これから、もっと頑張るよ……」


 何はともあれ、ポリィさんもボルツくんも無事に昇級試験に合格できて、良かったですね。



 私達が2人の昇級を喜んでいるとき、ベンプス先生は1人浮かない顔をしていたのでした。


「試験はこれでお終いじゃが…… マッドチワワが『カーラの森』に現れたのが気になるのお。悪いことが起きる前兆でなければよいが…… 兎に角、グレシア様に報告しておかねばならんのぉ」

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