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第15話 昇級試験は不吉な予感

 私は、授業開始の30分前には戦闘魔法技能科の教室にいました。

 昨日からワクワクが止まらなくて、なかなか寝付けませんでした。こんなこと、前世の修学旅行の前日以来だよ。


 12時40分になったところで、ベンプス先生が教室に入ってきましたよ。


「ホッホッホッ。マセルくん、よく来てくれたの」


「ベンプス先生、今日もよろしくお願いします!」


「それにしても、シンディくんまでおるとは、どういう風の吹き回しかの?」


「私も、あの2人のことが気になるんで、見学させてもらおうと思っただけです」


「ホッホッホッ。それじゃあ、今から昇級試験の場所へ移動しようかの」


 ベンプス先生はそう言うと、教室の床に大きな紙を敷きました。その紙いっぱいに魔法陣が描かれています。


「これは何の魔法陣なんですか?」


「これは、決まった場所へ転移するための魔法陣じゃよ」


 転移魔法!! そんなの、ホントに有ったんだ! ゲームじゃ当たり前に使われている魔法だけど、実際に体験できるなんてワクテカが止まらないよ!


「では2人共、この魔法陣の上に乗りなさい」


 私とシンディさんが魔法陣の上に乗ると、ベンプス先生は目を閉じて魔法陣に魔力を流し始めました。すぐに魔法陣が輝き、同時に私の視界がグニャグニャと揺れ出します。


 ちょっと気持ち悪い…… まるで乗物酔いしたような気分―― と思ったら、すぐに目の前の景色がはっきりしだしました!


   ・・・・・・


 すごいよ! ホントに一瞬で教室から別の場所―― 周りを森に囲まれた広場のような場所に移動してきましたよ!


 紙に描いた魔法陣で『こんなすごい魔法』が使えるんだ! だったら!


「ベンプス先生! 魔法陣の描かれた紙を用意しておけば、どんな魔法も、いつでも使えるのですか?」


 予め魔法陣を描いた紙を用意しておけば、わざわざ頭の中で描かなくても、どんな魔法でも使える筈ですよね!


「ホッホッホッ。紙に描いた魔法陣は、描いてから20分以内に使わないと、効果が無くなるんじゃよ。使うことが決まっていないと、用意しても無駄になるだけなんじゃよ」


 そっか…… 予めいろんな魔法陣を用意しておけば、『呪符を使って戦う【符術師】みたいでカッコいい』とか思ったんだけど、それが出来るなら皆そうしてるよね……


「でも、魔法効果を付与した巻物に描いておけば、1回キリだけど時間制限はないわよ」


「シンディさん! そんな巻物アイテムがあるんですか!?」


「ホッホッホッ。その代わり、その巻物1枚で、儂の半年分の給金が飛んでいく程、高価なんじゃよ」


 やっぱり、そういうアイテムはバカ高いのか…… 強い魔道士になるには、地道に魔法陣を覚えるしかないのですね。


 私が自分の浅はかさを反省していると


「ベンプス先生。今日の昇級試験、よろしくお願いします!」

「お、お願い、します……」


 初めて聞く声が2つ。


「ポリィくんとボルツくん、お待たせしましたね」


 この2人が、昇級試験を受ける生徒さんですか。

 ポリィさんは、ツインテールの髪形で、目がキリッとした気の強そうな女の子。ボルツくんは、ヒョロっとした長身で、ちょっとオドオドした気弱そうな男の子。2人共、12~13歳くらいかな?


「それでは、2人には順番に迷宮に入ってもらおうかの。どっちが先に入るかね?」


「ハイッ! 私が先に入ります!」


 予想通り、ポリィさんが返事しました。


「では、ポリィくんの試験から始めようかの。ボルツくんは、ポリィくんの試験が終わるまで、ここで待っていてもらえるかの」


「せ、先生…… ぼ、僕1人で、ここで待つんですか?」


 ボルツくんは、まるで『捨てられた子犬』みたいな不安そうな目で、ベンプス先生を見ています。

 その目を見てると、私が前世で飼っていたチワワのチーちゃんを思い出して、ちょっと切なくなってきたよ。チーちゃんは、今12歳になってる筈。元気にしてるかな?

 チーちゃんもだけど、前世の両親と弟のことまで思い出してきました…… 兎に角、ボルツくんが気になった私は、一緒にここに残ることにしました。


「ベンプス先生。僕もここに残って待ってます」


「マセルくんは、試験を見たかったのではないのかね?」


「そうですが、ボルツさんの試験が見られたら十分ですので、大丈夫です」


「そうかね? では、ポリィくんの試験が終わるまで、2人で待っていてもらおうかの」


   ・・・・・・


 私とボルツくんの2人で、広場に残されてから、5分程経過しました。


 さっきから、一言も話さないままボーッと突っ立っている私達…… 何か話しかけないと気まずいよ。


「あの…… ボルツさんは、どうして戦闘魔法技能科に入ったのですか?」


 私が勇気を振り絞って話しかけると、


「キミは、マセルくん、と言ったよね。キミは、ここに入る気なのかい?」


 逆に質問されたよ。ベンプス先生の授業は分かりやすくて面白かったから、入る気ではいるんだけど


「まだハッキリとは決めていません」


「そ、そうか…… 僕はね、本当は『生活研究科』に行きたかったんだ…… それなのにポリィが無理矢理『応用一般魔法科』に誘ったんだよ」


「ポリィさんに誘われた? ボルツさんは、ポリィさんとは知り合いだったんですか?」


「そうさ…… 彼女と僕は幼馴染なんだ。それに、ポリィは応用一般魔法科じゃなく、『魔道書研究科』に行くつもりだったんだ」


「それなのに、どうして2人共『応用一般魔法科』に入ったんです?」


「ポリィは魔道書研究科で、戦闘魔法の魔法陣の研究をしたかったんだ…… でも、今は戦闘魔法に関する研究は、全然させてもらえないことが分かったから、ポリィは自棄やけを起こして、どこに入るかサイコロで決めたんだ」


『サイコロで決めた』って、ポリィさん、かなり無謀な性格してるんですね。


「自分だけで入ればいいのに、僕まで無理矢理入らされたんだよ…… 僕もポリィも、魔法がそんなに得意じゃないのに……」


「断らなかったんですか?」


 ボルツくんは、悲しそうな目で私を見つめながら、首を横に振りました。


「ポリィに逆らったら、どんな目に合わされるか…… そう思ったら、断れなかったんだ…… そして、案の定…… 2人揃って、3度続けて昇級試験に落ちて、転科処分になったんだ」


「そ、そうなんですか……」


 慰めの言葉も浮かびません。要らん質問してごめんなさい。


「済んだことだし、もういいんだ…… だけど、戦闘魔法技能科に入ったことは後悔してないよ。ベンプス先生の授業は分かりやすくて、魔力の使い方が上達してきた実感があるから」


 そう言いながらも、ボルツくんの目はやっぱり不安そうです。


「ここでも不合格だと、もう退学しかないから、怖いんだ……」


 そりゃ、不安だよね。

 でも、「大丈夫」なんて軽々しく言うわけにもいかないから、結局何とも言えない重苦しい空気に包まれたまま、再び長い沈黙が続いたのでした。


   ・・・・・・


 ポリィさんの試験が始まって、そろそろ30分くらいかな?

 正直私は、ここに残ったことを思いっきり後悔しています……


 ボルツくんからは全然話し掛けてこないし、私からは話し掛けづらいけど…… えーい! もう一度話し掛けよう!


「あの…… ボルツさんは、ここがどこなのかご存じですか?」


「ここは王都の北西にある【カーラの森】で、あの迷宮は、昔から戦闘魔法技能科の昇級試験で使われている、初心者用迷宮なんだそうだよ」


「迷宮の中に入ったことはあるんですか?」


「1度だけ…… 中には、魔物がいるんだ。弱い魔物ばかりだけど、1人で戦うとなると不安なんだ…… 僕は土魔法しか使えないから、素早い動きの魔物は苦手なんだ……」


 どうしよう? ここは、不安を解消できるような、気の利いた言葉を掛けるところですよね。


「大丈夫ですよ! 自信を持っていけば、試験なんてヘッチャラですよ!」


「そ、そうだよね。今度こそ昇級試験に合格して、両親に手紙を書くんだ!」


 あっ! その科白―― ヤバい『フラグ』が立ったんじゃ?


 私まで不安に襲われてきたよ……

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