第107話 大発見だよ!
今私は、カーラの森の迷宮の最奥にある『隠し部屋』に来ています。
2代目神官長だったカルラさん(幽霊)から『隠し部屋の管理』の仕事を引き継いだ私は、月に1度ここまで来て掃除しているのです。
いつも隠し通路を通って部屋までいくんだけど、魔道人形のいる部屋を突破するのに、毎回苦労していました。
でも、今回は楽勝! それは『影縛りの術』で魔道人形を拘束した隙に突破することができたから。まさに闇魔法様々です。
そして、隠し部屋の本棚の埃をハタキで払っていると
ポワポワポワ……
1冊の本が、青白い点滅を繰り返していることに気付きました。
正直、嫌な予感しかしませんね。
私は当然無視を決め込んで、出口の扉に向かいました。ところが――
ガシャン!
いきなり扉の前に鉄格子が下りてきたよ!?
『読め…… 読むのだ……』
部屋から出られなくなってパニック寸前のところに、誰もいない筈の部屋で変な声まで聞こえてきました。
驚いて振り返ると、本が空中に浮かんでいます!?
今のは、この本の声? まさか『幽霊』の仕業じゃないよね?
『早く本を読め。グズグズするな』
私は意を決して本を手に取り、恐る恐る表紙を捲りました。
1ページ目にはタイトルらしき文字。
【我が華々しき栄光の記録 グリーマン著】
著者はグリーマン── って、初代神官長ですね。
この人、どれだけ私に迷惑掛けたら気が済むんですか!?
それにしても、このタイトルだけで読む気が失せますが、嫌々ながらも中身を読むことにします。
・・・・・・
私の名はグリーマン。平民出身でありながら、彼の『王立第二学院』の初代神官長にまで上りつめた男だ。
私は巷で【大賢者】や【大予言者】などと呼ばれているわけだが、その私の実績がどれ程凄いものだったのか。
その記録を後世に伝えるために、この書に私の偉業の数々を記していくことにする。
・・・・・・
ここから先は、間違いなく『自慢話』がひたすら書かれているだけだと想像できます。
第三者が書いた伝記ならまだしも、自伝の自慢話なんて、誰も読みたいとは思わないよ……
私はここまでで本を閉じると、本を棚に戻そうとしました。
『最後まで読まんか! 戯け者!』
うわっ!? 怒鳴り声が!?
周りを見渡しても誰もいない…… やっぱり、声の主はこの本のようです。
『最後まで読まんと、この部屋から出さんぞ!』
どうやらこの本は、私の心の中に直接語りかけているようです…… ていうか、そんなに読まれたかったなら、こんな誰も来ない所に保管しないでよ!
仕方なく私は続きを読むことにしました。
2時間近く掛かって、ようやく読み終えた…… 赤の他人の自慢話を読むのは苦痛でしかなかったよ。
何処其処の戦で、グリーマンの戦略のお陰で犠牲を出さずに勝利したとか、災害を予言して先に手を打ったから被害が殆ど出なかったとか、同じような自慢話が延々と記されていました。
確かにそれらはすごい実績なんだろうけど、ほぼ全てがワンパターンな予知による手柄なんで、読んでいてもちっとも面白くありませんでした。
でも、これでようやく帰れる。そう思っていたら
ポワポワポワ……
また別の本が光ってるよ!?
多分これも読め、ってことですか…… タイトルは
【我が凄絶なる少年期の記録 グリーマン著】
・・・・・・
私の名はグリーマン。平民出身でありながら、彼の『王立第二学院』の初代神官長にまで上りつめた男だ。
私は巷で【大賢者】や【大予言者】などと呼ばれているわけだが、私がなぜ神聖文字を読むことができて神代魔法まで使えるのか? それには誰にも語ったことのない重大な秘密があるのだ。
私は、その『秘密』をこの書に記すことにする。
・・・・・・
さっきと同じ書き出しだったから、早くも鬱になりそうだったけど、『秘密』の文字を見て少し興味が湧いてきました。
本には、グリーマンがその特別な能力に目覚めた切欠が詳しく書かれていました。
それはグリーマン5歳の時── ある日彼が裏庭にある古い倉庫のような建物を探検していたら、床の1ヶ所から光が見えた。
気になってその床に近付くと、いきなり魔法陣が浮かんで、彼はどこかへ転移させられたのだった。
気が付くとグリーマンは見知らぬ部屋の中にいた。
そこには多くの棚が並び、棚にはぎっしりと本が置かれていた。
グリーマンが辺りを見回していると、声が聞こえてきた。
『よくここを発見した。我が子孫よ』
グリーマンの前に、突然50歳くらいの男が現れた。
『我はムセル。今から千年以上も昔に亡くなった、お前の先祖── その残留思念だ』
5歳のグリーマンは、男の言葉の意味を理解できなかったが、男から感じる不思議な威圧感に黙って聞いていた。
『ここに来れたということは、お前には特別な才能があるということだ。お前に私の持つ知識を与え、同時にお前の才能を引き出してやるから、これから毎日ここへ来るのだ』
グリーマンは断ろうとしたが
『断ったら── 呪い殺すから』
それからグリーマンは、10年以上も毎日その部屋に通うこととなったのでした。
先祖の残留思念に鍛えられたお陰で、グリーマンは神聖文字や神代魔法の知識を得たそうです……
普通なら信じられない話だけど、本にはもっと驚くべきことが書かれていました。
そのグリーマンの先祖こそが、神聖文字や神代魔法を作った張本人だって!?
それだけでも驚きですが、その先祖はムセリットに存在する、ほぼ全ての迷宮の作成にも関わっていたそうで、迷宮作成の秘法までグリーマンは教わったのだとか。
グリーマンが神聖文字を読めて神代魔法を使えたこと、このカーラの森や学院の地下に迷宮を作れたことの辻褄が合います。
もしかして、これって『大発見』だよ!?
この本には、グリーマンが行った勉強や修行のことも載っていましたが、私には全く理解できませんでした…… でも、これを神官長やベンプス先生に見てもらえば、何か分かるかもしれません。
私はこの本を学院に持ち帰ることに決めました。
今度こそ帰れるよね?
ポワポワポワ……
まさかの3冊目!?
でも、今度も役に立ちそうな情報が書かれているかも…… そう信じて、私は本を手に取りました。
タイトルは
【我が深淵なる考察の記録 グリーマン著】
・・・・・・
私の名はグリーマン。平民出身でありながら、彼の『王立第二学院』の初代神官長にまで上りつめた男だ。
私は巷で【大賢者】や【大予言者】などと呼ばれているわけだが、その私が永年魔族や魔法について研究してきたことを、この書に記すことにする。
・・・・・・
まさかの『大発見パート2』かも!?
魔族や魔法についての研究記録なんて、今一番ほしい情報だよ!
私は興奮を押さえきれず、ページを捲りました。
魔族についての考察には、主に魔族と人族の違いについて書かれていました。
魔族は努力をしない。生まれながらの才能が全てで、年齢による自然成長以上に成長することはない。
修行による成長は人族の特権。己を鍛えることで、いくらでも成長できる可能性を秘めている。
こんなことが書かれていましたが、結論としては、
魔族の能力は人族を大きく上回っているから、1対1の戦闘は避けるべし。ということでした。
妥当な結論ですね。
次に魔法について。
魔力量(MP)は生まれながらの才能に依るところが大きいが、魔力の質は努力によって高めることが可能。
重要なのは集中力のようです。特に無詠唱魔法の練習は、集中力と魔力の質を鍛えるのに効果的なんだとか。
この辺りの内容は、ベンプス先生の授業で習ったこととそれ程違いはなさそうです。
更にページを進めると──
『神代魔法とは』という項目が!?
現在、神代魔法と呼ばれている魔法は、ムセルによって作り出された【闇魔法】のことだそうです。そして、それは魔王を倒すために考案された魔法だった!?
期待して読み進めたけど、その神代魔法でも魔王を倒すのは難しい、という結論のようです。
やっぱり魔王を倒すのは無理なのかな…… そう思いながらページを捲ると
『私の考案する【究極の魔法】について』
という項目が目に飛び込んできました。