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第106話 大天才だわ!

「いくわよ!」


 動き出した6体のゴーレムに向けて、1発の火球ファイヤーボールが放たれた。


 ドーン!


 火球ファイヤーボールは先頭にいたゴーレムに命中!

 ゴーレムが火球ファイヤーボールの威力に押され後ろに倒れると、その転倒に巻き込まれて、他の5体のゴーレムも次々と倒れていった。


 魔法耐性の高いゴーレムを、たった1発の火球ファイヤーボールで押し倒す程の威力―― それは、十分に驚愕する出来事だというのに、魔法を撃った人物は不満気に深い溜息を吐く。


「はぁ…… こんな威力じゃ全然ダメだわ……」


 そう呟いたのは、腰まで伸びた真っ赤な髪の女性―― それは『紅蓮の魔女』エルサだ。


 ここは『封印の迷宮』の最奥にある『封印の間』。


 エルサは、この部屋のゴーレムを火球ファイヤーボールだけで倒そうとしていたのだが、彼女の魔力をもってしても、初級攻撃魔法だけでゴーレムを倒すのは至難の業だった。


 エルサは、地面の上で折り重なってジタバタしているゴーレムを眺めながら、あの日見た『魔王の火球ファイヤーボール』のことを思い出していた。


「アイツの火球ファイヤーボールなら、このゴーレムでも簡単に倒せる筈だわ」


 エルサは、自分の不甲斐なさに苛立ちを覚えるのだった。



   ◆ ◆ ◆



「これは!?」


 第97階層でバール将軍達と別れた後のエルサとマンソルは、第96階層へ向かう通路で人の足跡らしきものを発見する。


 2人は調査隊と行動を共にしていたときは、調査隊の後ろについて通路の中央を歩いていたが、2人だけになったことで慎重に壁際を歩くようにしていた。

 そのお陰で、壁際の地面に残る足跡を発見できたのだった。


「これはマセルの足跡ではないな。子供の歩幅にしては大きすぎる……」


 それは勿論マセルの足跡なのだが、マンソルはその足跡を『マセルのものではない』と判断した。


「そうね…… きっとこれは、第二学院から派遣された捜索者の足跡だわ」


 エルサは、少し落胆した表情を見せた。


「エルサ、ガッカリするのは早いぞ。その捜索者が、マセルを見つけているかもしれないし、この足跡の主と合流する価値はありそうだ」


「そうね! きっとマセルを見つけているわ!」


 2人は、その足跡を追跡することにした。


   ・・・・・・


「また足跡が途切れている……」


 地面の状態によっては足跡が付きにくいこともあるが、その途切れはそういう場所以外でも度々起きていた。

 まるで足跡の主がその場所から消えたかのように、忽然と途切れていたのだ。


 それは、できるだけ早く迷宮を脱出しようとしていたマセルが、魔物をやり過ごすために『影潜みの術』を使った移動や『影縛りの術』を使って天井を駆け抜けたために起きた現象だった。

 そのため、数百mも離れた場所に足跡があったりして、2人は思いの外追跡に苦労していた。



 第88階層──


 ビキビキビキ!


 突然迷宮の壁に大きなヒビが走った。


「とうとう迷宮崩壊が始まったのか?」


「きっとそうね…… 急がないと」


 足跡をたどってから、もう丸1日以上経っている。迷宮崩壊まであまり時間がないことを悟った2人だったが、足跡の主と合流するまでは脱出する気はなかった。



 更に数時間後──


 バラバラバラ……

 時折、天井から砂や石が落ちてくる。迷宮崩壊が本格的に始まろうとしていた。

 2人はタイムリミットが近いことを感じながらも、足跡を追い続ける。



「エルサ、見てみろ!」


「足跡が4つに増えているわ!」


「どうやら、ここで別の捜索者と合流したようだな」


「それだけじゃないわ。ここで彼らは脱出したんだわ!」


 その場所で全員の足跡が途切れており、地面には何かの燃えカスが落ちていた。


「ああ! つまり、マセルは無事だということだ!」


 2人はマセルの無事を確信する。

 それは、『第二学院の捜索者達なら途中で任務を放棄しない筈だ』という信頼によるものだった。


 2人が安堵しているのも束の間──


 ドドン!


 とうとう天井の崩落が始まった。


「時間がない。俺達もここで脱出するぞ!」


 マンソルは急いで荷物から巻物を取り出すと、エルサに渡した。


 それは『迷宮脱出の巻物』だ。なかなか手に入れられない高価なアイテムだが、高位の冒険者なら、万が一を考えて常に1つは用意しているのだ。


 巻物を受け取ったエルサは、急いで巻物を広げて魔力を流す。

 巻物が魔力で満たされると、真っ赤な光を放ちながら燃えだした。


 巻物が不良品だったわけではない。巻物は燃えカスとなったが、代わりに魔法陣が浮かび上がっていた。


 2人が魔法陣に触れると、その中に吸い込まれていった。



 2人の姿が迷宮から消えた数時間後――


 ドドドドドドーン!!!


 ムセリット最大の迷宮は、完全に崩壊した……



 翌日――


 エルサとマンソルの元には、『マセルの救助に成功した』という報せが届けられたのだった。



   ◇ ◇ ◇



 漸く起き上がろうとする6体のゴーレム。


 エルサが再び火球ファイヤーボールを撃とうと待ち構えていると


「ママ。私がゴレムたんに攻撃してもいい?」


 エルサの横で地面に座って退屈そうにしていた青髪の幼女が口を開いた。


「マリンは、攻撃魔法を知らないでしょ?」


「知ってるもん! 私、こないだメルナお姉ちゃんのお家で『まどうしょ』を見せてもらったもん!」


 魔道書を見たといっても、魔法が使えるとは限らないんだけどね…… それに、3歳になったばかりのマリンは文字が読めないし、多分魔法は出せないわ。

 エルサはそう思いながらも、自信満々のマリンを見て、一度魔法を経験させてみることにした。


「わかったわ。マリン、思い切り撃ってみなさい!」


「うん! 私、がんばる!」


 マリンは目を瞑って集中する。


 そのまま10秒以上が経過――


 ドシン! ドシン! ドシン!


 ゴーレムは、もうマリンの10m手前まで接近している。


 マリン、早く呪文を唱えないと間に合わないわよ……

 エルサは、一向に呪文を唱え出さないマリンにヤキモキする。


「マリン、早く呪文を……」


 その瞬間――


 ゴーッ!


 突然地面から炎が発生し、6体のゴーレムを囲った!?


 まさか!? これって、中級攻撃魔法の【炎の檻(フレイムケージ)】!?


 3歳の子供が中級攻撃魔法を使っただけでも驚愕だというのに、しかもそれは『無詠唱魔法』だ。


 エルサは、炎の檻(フレイムケージ)の中で動けなくなったゴーレムを見て、呆然と固まってしまった。


   ・・・・・・


「マリン! どうやって無詠唱魔法を覚えたの!?」


 無詠唱魔法を使うには、簡易魔法陣を覚えないといけない。

 初級魔法ならまだしも、中級魔法の簡易魔法陣は複雑で、頭の中に描くにはかなりの練習が必要だ。


「うーんとね、『まどうしょ』にのってた絵を覚えたの!」


 魔道書に載っていた絵!? それって、簡易どころか『完全な魔法陣』じゃない!? 私でも『完全な魔法陣』を描いて無詠唱魔法を使ったことなんて、一度もないわよ!?


 マリンは【超記憶能力】―― 一度認識したものを忘れない、という特殊能力の持ち主だ。彼女はその記憶力のお陰で、どんな複雑な魔法陣でも、素早く正確に頭の中に描くことができる。

 しかし、魔法陣に魔力を流すことに慣れていなかったために、さっきは魔法発動までに手間取ったのだった。


 それでも、マリンの魔法の才能は驚異的なものだといえる。

 初心者なら、紙に描いた下級魔法の魔法陣に魔力を流すことも難しい。それが中級魔法の完全な魔法陣ともなると、通常なら数ヶ月は練習が必要なのだ。


「マリン! あなたは魔法の天才―― いいえ、魔法の『大天才』よ!」


 エルサは興奮していた。

 この子を鍛えれば、魔王に対抗できるかもしれない!



 この日から、エルサとマリンが『封印の間』を訪れる頻度が、格段に上がったのだった。

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