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第105話 脱出

 これは、マセルが『王の間』から脱出した後の出来事――



   ◆ ◆ ◆



 フハハハハハ!!


 肉片1つ残さず砕け散った転生者の最期―― その様子に満足した魔王の高笑いが、『王の間』中に響き渡っていた。


 冒険者の無残な死に様……

 その光景は、他の者達にはあまりにも衝撃的だった。


 何という魔法の威力か……

 バール将軍・エルサ・マンソルの3人は、背筋が凍るのを感じていた。


 流石は魔王様だ!

 魔族であるズラーマンは、有無を言わせず人族を抹殺した魔王の冷酷さに、震えるほどの歓喜を覚えたのだった。


 魔王は笑うのを止めると、ゆっくりと振り返った。


 次は自分達の番なのか!?

 人族3人の表情が凍り付く。


 魔王様は、残りの人族も皆殺しにするに違いない!

 対照的に、ズラーマンはワクワクしながら魔王の次の行動を見守っていた。


 ところが、魔王の口から出た言葉は、ズラーマンの予想とは全く違ったものだった。


「キサマらは、あの男の仲間ではないようだな」


 人族は魔族と違って仲間意識が強い。仲間の死を目にした人族は『強い怒り』を覚え、たとえ自分の手に負えない相手であっても向かってくることを、魔王は知っていた。

 だが、目の前の人族から伝わってきたのは、『恐怖』と『絶望』と『悔しさ』の感情だった。仲間意識の強い人族であっても、出会って数時間の『名も知れない冒険者の死』に対して、『怒り』や『哀しみ』を感じることがなかったのは当然であった。


 魔王は言葉を続けた。


「キサマらに、生きるチャンスをやる」



 生きるチャンスをやる!?

 魔王様は、コイツらを始末なさらないおつもりなのですか!?

 ズラーマンは、魔王の考えが理解できず少しイライラしてきていた。


 魔王様! 早くコイツらも始末してくださいな!

 そう進言しようと考えたズラーマンだったが、何故か言葉が出せなかった。


 それは魔王の放った『魔気』のせいだ。

 魔気による強烈な威圧により、皆が金縛りに合ったように身動き1つ取れなくなったのだ。


 魔王は誰も動けないことを確認すると、不敵な笑みを浮かべながら、胸の前で両手を合わせ、掌の中に魔力を溜め始めた。


 空気が震える程の魔力の凝縮。



 その様子にズラーマンは全てを悟った。


 そうか! これは、1度希望を与えておきながらすぐに絶望を与える、という魔王様の高度な演出だったのか!

 その凝縮された魔力が放たれれば、この部屋にいる者など立ちどころに消滅してしまうだろう…… って、このままでは私も消滅してしまうではないか!?


 魔王様、お待ちを!?

 そう叫ぼうとしたズラーマンだったが、魔王の放つ威圧を前に声が出せない。


 ついに、魔王は魔力の塊を地面に向かって撃ち放った!


 全員の顔が絶望に歪む……


 大爆発が起きる!?


 かと思われたが、地面に直径50cm程の穴が開いただけで、その後数秒経過しても特に変わった様子はない。


 全員何も起きないことに安堵したが、同時に今の魔王の行動が何の意味もないものだとも思えなかった。


「フフフフ…… 安心するのは早いぞ。今の一撃で、迷宮と『魔流脈』との接続を絶ったのだ」


 魔王の言葉に、全員の感情が『疑問?』だった。

『魔流脈』という言葉を知っている者が、現在のムセリットにいないのだから無理もない。


「魔流脈を知らんのか…… 迷宮は魔流脈から流れてくる魔力によって維持されているのだ。つまり、それが絶たれると迷宮を維持することができなくなり崩壊するというわけだ」


 迷宮が崩壊する!?

 それは、迷宮の制作方法を知らない者にとっては、突拍子もない話にしか思えないが、誰も魔王の言葉を疑うことはできなかった。


「だが心配するな。崩壊にはまだ数日の猶予があるだろう。俺は一足先に脱出するが、キサマらも助かりたくば早くここから脱出することだ」


 魔王の前に魔法陣が浮かび上がると、魔王はその魔法陣に吸い込まれ姿を消したのだった。


   ・・・・・・


 魔王様…… 何故私を一緒に連れて行ってくださらなかったのですか?


 ズラーマンは、まさか魔王に置き去りにされるとは思っていなかったため、ショックのあまり呆然と座り込んでいた。


「ズラーマン。本当に奴が魔王だったのか?」


 声を掛けてきたのはバール将軍だ。

 魔王が消えたことで威圧から解放され、漸く声を出せるようになったのだ。


「間違いありません。魔王です」


「ここには『魔王復活の鍵がある』とは聞いておったが、『本物の魔王がいる』などとは聞いておらんぞ! キサマは知っていたのか!?」


「滅相もございません。私もこの場所に本物の魔王がいるなど、夢にも思っておりませんでした」


 これは真実だ。だからこそ、これまで迷宮に封印された魔王の身体を、魔族達は必死に集めていたのだ。


「本当に奴が『ジード王子のお役に立つ情報』とやらを持っているのだろうな?」


「勿論でございます。迷宮を崩壊する方法まで知っているのです。ジード様の望まれる情報も知っている、と思って間違いございません」


「そうだ! この迷宮が崩壊するのであった! こんな所でグズグズしてはおれん。ズラーマン、急いでここから脱出するぞ!」


「わかりました、バール将軍」


 ズラーマンは1人でこの迷宮から脱出することは不可能だと悟っていた。


 ならば今は協力して脱出するのが得策だ。


「ガイター! 起きるのだ!」


 ズラーマンの声と同時に、氷の塊が吹き上がる―― と、その中から『虎顔の魔族』が現れた。ガイターは、氷の下敷きになっても殆ど無傷の状態だった。


「魔族!?」


 エルサとマンソルが同時に攻撃態勢に入ろうとしたが、バール将軍が止めた。


「慌てるな! アレは我らの命令通りに動く只の人形だ。脱出にはアレの力が必要だ」


 その言葉通り、ガイターのパワーは第100階層からの脱出に大いに役立った。

 ガイターは立ち塞がる壁を叩き割り、最速で第99階層まで戻ってこれたのだった。


 第99階層ではバール将軍の部下達8名が倒れていたが、『王の間』に溜まっていた魔王の妖気が薄れたお陰で、全員何とか復活することができた。



「97階層に行けば転移の石碑がある筈です。急ぎましょう」


 武器を乗せた荷車をガイターに引かせ、一行は第97階層の石碑のある部屋を目指した。


 途中に遭遇した魔獣は、バール将軍達の兵器だけでなくエルサの魔法も加わり、無駄なく倒していった。


   ・・・・・・


 石碑を読むズラーマン。


「あの魔法陣には、どんな魔法を撃っても第8階層まで戻れるようです」


「おお! 第8階層まで戻れれば、脱出には半日もあれば十分だ!」


 バール将軍達は歓喜の声を上げた。


「では私が魔法を撃つので、調査隊の皆さんは石碑に触れていてください」


 エルサは魔法を撃つ体勢を取った。だが、エルサもマンソルも石碑から離れた場所にいた。


「お前達は、石碑に触れないのか?」


 バール将軍が2人に声を掛けた。


「俺達は、まだ子供を見つけていませんので、皆さんとはここでお別れです」


「そうか…… 2人共、無茶はするなよ」


 初めは2人を始末するつもりだったバール将軍だが、これまでの命懸けの行動を通して、戦友のような感情が湧いてきていた。


「ご武運を祈っている」


 バール将軍と部下達は、2人に対して敬礼を取ったまま転移していった。


「さあ、急いでマセルを捜索するぞ!」


「ええ、急ぎましょう!」


 残ったエルサとマンソルは、バール将軍からもらった強力な電灯を片手に、迷宮の中に消えていったのだった……

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