第100話 ショーが始まるの!?
「僕は、本当に『封印の迷宮』では何も盗んでいません!」
こんな所で冤罪を掛けられたくはないので、私は強く否定しました。
「あなた、封印の迷宮『では』って言ったわね? つまり、他では盗んだことがある―― ということかしら?」
し、しまった! ココでお宝を盗むつもりだから、思わず口が滑ったよ……
「あなた、本当は冒険者じゃなくて『迷宮荒し』なんでしょ?」
冒険者と『迷宮荒し』の違いがよくわからないけど、ここは全力で否定しないと!
「違います! 僕は『迷宮荒し』じゃありません! 本当に1度も盗みなんてしたことないです! 信じてください!」
そうです。まだ盗んだことはないから、今言ったことは事実なんです…… 未来のことは知りませんが。
「そう…… まあいいわ……」
信じてもらえた?
「全然信用できないけど、今はそんな話をしてる場合じゃないわね。でも、ここで変な行動を取るようなら、覚悟しなさいよ」
仮面の女性に、思い切り釘を刺されました。
王の間でお宝を物色しようとしたら、後ろから魔法を撃ち込まれそうだよ。
でも、私── 諦めませんから!
私の肩には『マリンの運命』が掛かっているんだ! その程度の脅しに、屈するわけにはいかないよ!
それにしても、あの時の私達の行動は『極秘』だったのに、この人は、どうして『私が封印の迷宮にいたこと』を知ったんだろう? もしかすると、『後ろめたい気持ちを感知する魔法』があって、その使い手なのかもしれないです。
どうやって、この人の目を盗んでお宝をゲットしたらいいんだろう?
って、私が悩んでると
ゴゴゴゴゴ……
隊長さんが、私達のやり取りを無視して、扉のスイッチを押しました。この人も、わりとマイペースなようです。
ゴゴン……
扉が完全に開きました。でも――
「むっ!? これは氷か?」
氷の壁が入り口を塞いでいます。
流石は王の間── 簡単には入らせてくれません。
「俺に任せろ」
仮面の男性が、入り口の前に立って棒を構えます。
「ハッ!」
バリン!
仮面の男性の気合いを込めた一撃は、見事に氷の壁を打ち砕きました!
「なっ!?」
それなのに―― 氷の壁が、一瞬で元通りになってしまったよ!?
「これは、魔力による仕掛けのようだな…… これじゃあ、中に入れないぞ」
「私に任せて。魔法には魔法よ」
仮面の女性が自信ありげに前に出ましたが、この人は物事を深く考えないタイプな気がする…… 任せて大丈夫?
「こんな氷くらい、吹っ飛ばしてやるわ!」
仮面の女性は、いきなり火球を撃ちました!
火球は、簡単に氷の壁を突き破りました。この人の魔法は、凄い威力です。
でも…… 結果は同じでしたね。
何事もなかったかのように、氷の壁は復活しています。
「どこかに仕掛けを解く鍵がある筈ですよ。それを探しましょう」
って、私は提案したけど
「あなたは黙ってなさい! 私が『やる』といったら『やる』のよ!」
そ、そうですか……
「鬱陶しい氷ね! これでも食らいなさい!」
ひえっ!? 今度は火球の連弾ですか!?
両手から引っ切り無しに放たれる火球に、前世で見たバトルアクション系アニメを思い出します。
この人── 軽く40~50発くらい撃ちましたよ。
トンでもない技術と魔力だよ。
それでも、結果は同じですけどね…… 氷の壁は、壊されては再生を繰り返し、結局今も健在です。
「もう諦めて、仕掛けを解く鍵を探しましょうよ」
「もう怒ったわ…… 上級魔法で、壁ごと消し飛ばすわよ!」
えっ!? それはダメですよ!
「よせ、早まるな!?」
私よりも先に、仮面の男性が叫んでいました。
上級魔法なんて使ったら、部屋の中がどうなるか!?
私も必死に止めようとしたけど、遅かった……
仮面の女性の突き出された右手から、【ビッ●バンア●ック】が発射されました。
入り口は壁ごと大きくブッ飛ばされ、目の前は煙が朦々と立ち込めています。
あんな攻撃されたら、絶対に部屋の中のお宝が無事では済まないです…… 折角ここまで来たのに、何も取れずに終るなんて!?
私は絶望して、地面に両膝を付いて項垂れました。
「何だ、アレは!?」
「何が起きてるんだ!?」
「アレは魔法陣!?」
皆の驚きの声を聞いて、私は頭を上げました。
「綺麗……」
真っ暗な部屋の中央に、大きな氷の柱が立っていて、その周りをいろんな色の光が、キラキラと輝きながら回っていました。
それはまるで、夜の町に浮かぶイルミネーションみたいに幻想的な光景。
仮面の女性の攻撃魔法で部屋の中が心配だったけど、見た感じ被害は出ていない様子。
これはチャンスだよ!
皆の目は、キラキラ輝く氷の柱に釘付けで、私に注意を向ける人はいません!
今なら、誰にも気付かれないで、部屋を調べられるよ!
闇魔法【影探知】
私を中心にいろんな方向に影を伸ばして、影の触れた物の大きさや形を知ることが可能です。
私の魔力では、探知範囲は半径50m以内で、発動時間は15秒間── しかも、かなりの集中が必要で、動きながらは使えないから、迷宮探索には向いてないけど、この部屋の中を調べるだけなら十分。
あれ? この部屋には宝物が1つもない?
宝は1つも見つからなかったけど、氷の柱の後ろに『人がいること』はわかりました。
先客が2人── きっと、この人達が収納魔道具か何かを使って、この部屋のお宝を全部奪い取ったんだよ!
そういえば、隊長さん達は、先に入った2人を追い掛けてきた、って言ってた。
もしかして、あの2人は『迷宮荒し』!?
だったら、まだワンチャンあります!
2人を捕まえれば、いくらか報酬がもらえるかもしれないよ!
氷の柱の後ろに人がいることを、隊長さん達に伝えよう、と思ったその時
「バール将軍、遅かったですな」
意外にも、隠れていた人物が姿を現しました。
「ズラーマン、これはいったい!」
「バール将軍── あなたは本当に幸運です。これから起きる最高のショーを、目の前で見ることが出きるのですから!」
ショー? もしかして、このキラキラはショーのための演出?
ということは、この人は【ショーマン】だったの!?
こんな人の来そうにない場所でショーを開くなんて、絶対に頭が変ですよ!?
って、この人の頭── 思い切り変!
髪型が不自然過ぎて、一目でヅラってわかりますよ。
あっ!? 私、この紫色のヅラに見覚えがある……
そうだよ! 温泉町【ラップル】で会った親切なおじさん── 紫のヅラの人!
「ショーだと!? キサマ、何を企んでいる? これから何が起きるのだ!?」
「フフフ、それは見てのお楽しみ。あなたは歴史の目撃者となるのです!」
何か凄いショーが始まるみたい。
すると、突然、目の前の氷の柱が!?
ビリビリビリ!
真ん中にヒビが走り
バリン!!
砕け散った!?
なんて大胆な演出!
私は、『紫のヅラの人』のショーに、期待でいっぱいになっていました。