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夢探し

作者: 無脳

パシャパシャ(カメラのフラッシュ音)

「××賞受賞おめでとうございます!」

パチパチパチパチ

こんなに大きな会場の中にもかかわらずその拍手は会場全体に反響してより大きくなった。

この拍手が自分ひとりに対して送られていると思うと少し萎縮した。

私がこうして××賞を受賞して讃えられているのは二十の時にあの人と出会っていなければ起こり得なかったことだ。


私は十代の頃これといって目標もなく、馬鹿ばかりしながら生きてきた。なので、高校時代将来について深く考えることもなく取り敢えず大学進学を希望して受験した。

大学は自然が好きという理由で農学系の大学に入学した。

大学に入学してからは自然について深く学ぼうと意気込んでいたが、周りの同級生は高校の時から専門の農学系高校に通っていた人や田舎で高校まで自然と綿密に触れ合ってきた人など、都会で普通の公立に通って入学した私とはあまりにも次元が違った。

案の定、私はすぐに勉学に励む道から逸れた。二回生の時には試験での不正行為がばれて一ヶ月の停学処分を受けたこともあった。

その頃はひたすらに楽しいことにしか興味がいかなかった。大学へ行かずに友達と遊び、やりたい事はひたすらにやった。「今」を楽しみ、大学の他の誰よりも「今」という時間を充実に過ごしていると過信していた。


そんな私はある日テーマパークでのアルバイト募集を見つける。

今まで、飲食やホテルのアルバイトをしていたが三ヶ月も続かなかった。

私は興味本位でアルバイトの面接を受けることにした。面接はとてもユニークなもので、緊張したが、なんとか採用してもらえることができた。インターネットで採用してもらえるのは十人に一人くらいだとか書かれていたので、その情報が本当か嘘かはわからないが採用してもらえたことは自分に何か特別な魅力があるのだと思い素直に嬉しかった。

そうして私はテーマパークでのアルバイトを始めた。

同僚は社交的な人が多かった。

私は昔から引っ込み思案な方だったので打ち解けるには時間がかかった。

仕事内容はテーマパークの人気キャラクターとゲスト(お客さん)の写真を撮り思い出を作るというものだった。ゲストを盛り上げて思い出を作るためとても個性が出る仕事であり、私は他の人に比べて個性が劣っていると感じた。

そんな中で一際目立つ人がいた。彼女はSさん。年齢は30歳(聞くまでは20歳くらいだと思っていた)だった。とにかく無邪気で全力だった。Sさん以外の人が全力でやっていなかったわけではなかったが、Sさんと一緒に働く日は彼女の全力に動かされるように自分も自分なりに全力を自然とだして働いていた。ただ、当時の私は彼女のことが本当に理解できなかった。冬場でも汗をかきながら全力で一人一人のゲストに無垢な笑顔で対応しそれに影響される自分にも訳がわからなかった。私たちのアルバイト時給は能力給ではなく多くシフトに入ることにより時給が上がる制度だった。私はどうしても彼女本人にその理由を聞きたかったがそのような時間もなくアルバイトを始めて一年がたった。

そんなある日、いつも通りアルバイトに行くとSさんが今日でアルバイトを辞めるということが分かった。私はずっと気になっていたことを彼女に聞いてみた。


「Sさんの原動力って何ですか?」


「急にどうしたんですか??」


彼女はかなり驚いた表情だった。

普段業務の事以外話さない私がこんな事を聞くのだから無理もない。

でも、私は今聞いておかないと一生後悔するような気がした。


「いや、ずっと気になってて……」


すると彼女は真剣な顔つきになり


「私も最初からこんな全力人間だった訳じゃないんですよ。昔は引っ込み思案だったし、目標を無くした時期もあった。色々経験してたどり着いたんです。誰でも最初から自分で納得いくような結果にはならないものです。」


天真爛漫ないつもの彼女からは考えられない発言だった。


そういうと彼女はいつもの無垢な笑顔で

「私にとって唯一無二の仕事です!」

と言った。


それ以来私の考え方が変わった。


過去の後悔は数え切れない程ある。習い事のサッカー、勉強など、どれもやるかやらないかの二つの選択肢があって私はいつも後者だった。ただ、前者になるには人生誘惑だらけだ。それに持続があって初めて成功に繋がる。とても簡単なことではない。

だけれど、選択肢は二つでもきっかけは無限にあるという事を学んだ。

時間は有限だけれどそのきっかけを探すには人生は充分に時間がある。過去や未来より今を大事にして、自分のペースで自分が全力でできることを本気で探す。

もし何か全力でしたくても上手くいかないときはきっかけを探して。

きっと見つかるから。あなたに合ったきっかけが。


さて、そろそろインタビューが始まる。私は手を胸に当て心の中で自分を鼓舞した。






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