第七話 心の闇と煌く光 ニ
「痛っ……いたたたたた!!」
冷え切った夜の片隅で僕の情けない悲鳴が響き渡る。
「ちょっとぐらい我慢して、怪我の程度を見てるから」
「そんなむちゃな……って、ちょっと待って!なんで脱がせるの!?」
「服が邪魔で見づらいのよ」
真剣な顔つきでぺたぺたと僕の胸部やら腹部を上から順に触る鈴香。
いや、ほんと……痛みを忘れるぐらい恥ずかしいし、なんか……目覚めちゃいそうなんでほんと勘弁してください鈴香さん。
「上手く腕で防いだみたいね。左腕以外に骨折はないみたい」
ようやく解放してくれたと思った矢先、今度は僕の左腕を両手で優しく握った。
服越しに温度が伝わってくる。
肩の力を抜き、思わず意識を預けたくなる暖かさだ。
できることならこのまま眠りについてしまいたい。
少し休もうと僕は目を閉じた……。
「痛いの痛いの飛んでいけー。痛いの痛いの飛んでいけー」
!!?
「なに変な顔してるの、ほらアンタも一緒に言って」
「意味……ある?」
「あるわよ。私は小さい時から万事これで大丈夫って教えられてきたし、実際そうしてきたもの」
「恐ろしい教育方針!」
「それに病は気からって言うでしょ。いいから言って」
骨折は精神論じゃどうにもならないと思うんですが。
「えっと……痛いの痛いの飛んでいけ、痛いの痛いの飛んでいけ」
二人のおまじないを呟く声がしばしの間、辺りへと響いた。
時に重なり、時に連なり耳に響くそれは確かに身体中に広がった痛みを和らげてくれているように感じた。
「ひとまずは、こんなとこかな。立てる?ずっとここに留まってもいられないし」
立ち上がる鈴香に、少し寂しく思いながらも差し出された手を取って立たせてもらう。
「肩貸すわ。辛くない速度でいい、ゆっくりでいいから帰りましょ」
そういえば、ここに来てから鈴香は僕に優しい。
そんなふうに考え事をする余裕ができるほど落ち着いてきた時だった。
先程とは比べ物にならないほどの寒気がした。
刹那、僕の身体が宙を舞う。
鈴香が一本背負いの要領で僕を投げたのだ。
地面にぶつかる間際、後方で爆発音がした。
背中の痛みに構わず空を見上げていた身体を無理やり反転させると音がした方向であり、さっきまで僕らがいた場所を見た。
霧のように漂う土煙が晴れ、次第に状況が露わになる。
人影が見えた。
真っ黒な後ろ姿だ。
影は一人、であれば当然鈴香だ。
視覚情報を担当する脳の神経がそう言っている。
けれど、それ以外のありとあらゆる感覚が眼前の人影の危険性を伝えていた。
それとなくその足元に視線を通した僕は気づいた時には叫んでいた。
力なく横たわる彼女に向かって。
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