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他が為が我が為(休載中)  作者: 朝日那日向
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第三話 見栄と本性

 痛みが残る体の節々を摩りながら、前を行く女の子を追う。


 ブーツを履いているというのに足取りはまるで少し浮いているように軽い。


 襟元や腹部など、意義があるか分からないところにベルトの付いた真っ黒な上下の服が身体の曲線を強調するように沿っていて、つい晒してしまった視線は無意識に歩調に合わせてふわりふわりと踊る金髪に吸い寄せられる。


 僕は今『一緒に行くところがあるから』とだけ告げられ、引っこ抜かれて闘って食べられるお供のごとく、素直に無警戒に彼女に付いて行っている。


「あの……ちょっといいかな?」


「なに、自己中心的性欲(へんたい)


「えっと、僕の名前は佐久間翼なんだけど、君は?まだ聞いてなかったなと思って……」


「他人の着替え覗いた後は、個人情報聞き出そうっての?ヤラシイやつ」


「えっと……」


 身もふたもない。


 全て不可抗力だ。


 むしろ、今まさに君のことをガン見してしまうのを我慢している分、褒めて欲しいぐらいさ!という気持ちはもちろん心にしまう。


 そんな調子で暖簾(のれん)に腕押しすることしばらく。


神和鈴香(かんなぎすずか)。す…鈴香でいいわ。仕方がないから!」


 低学年の小学生でさえすぐに終わらせてしまう名前だけの自己紹介を十五分ほどかけ、苗字呼びでも一向に僕は構わないにも関わらず、何故か仕方なく名前呼びの許可を出してもらえたところでようやくひと段落ついた。


 そんな頃には風景はガラリと変わり、無数のビルが二人を包んでいた。


 視界を埋め尽くすほどの派手な電光装飾と巨大な広告看板が独特の街並みを形成している。


 まだ夕方だというのに通りは多くの人々で賑わっていた。


 秋葉原。


 言わずと知れた大商業都市である。


「えっと、す……鈴香は秋葉原好きなの?」


「はぁ!?なんで急にそんなこと聞くのよ」


「見間違いかもしれないんだけど、大通りに入ってから楽しそうだなって……」


「べっ……別に好きってほどじゃないわよ!こんな見た目でも注目されづらくて楽ってくらいよ」


「な……なるほど……」


 焦っているような様子が気にはなったが、言われて納得する。


 すれ違う人たちは学生から大人まで年齢も幅広い上に、メイドさん、海外からの観光客、なにかのキャラクターのコスプレをした人など様々だ。


 日本人離れした容姿の鈴香にとっては、新宿などよりよっぽど街に溶け込みやすいのだろう。


「それに……こんなにみんながみんな幸せそうにしている場所、私は他に知らない……」


「ん?何か言った?」


 聞き返した翼の言葉は届かなかった。


 その時には鈴香はカップルと思しき外国人二人組と会話をしていた。


 次は写真を撮るようだ。


 ……!?


 出会って間もない間柄でこんなことを思うのは失礼ではあるけれど、僕はてっきり鈴香は愛想笑いで撮影など断ると思っていた。


 そんな内気というか他人に対して閉鎖的な子なんじゃないかとと予想していたのだ。


 だからこそ、右手でピースしてにっこりと笑う彼女は、息を飲むほどに可憐で、自然と鼓動が高鳴った。


 笑顔で手を振りカップルを見送っていた鈴香は僕と目があった瞬間ものすごい勢いで表情を消してしまったけれど、さっきの彼女が演技だったとはとても思えなかった。


 かといって僕に当たりの強い彼女も同じく本来の姿に思えてしまうのだが。


 大通りを横断し、二筋ほど進むと風情ある日本家屋がちらほらと姿を見せ始めた。


 どっしりとした瓦屋根、年季の入った木製の柱が新品などよりはるかに力強く支えている。


 次第に数が増えていく。


 どれも残っているというよりは、まるで何かを守る意思が働いているような、そんな佇まいだ。


「あのさ、鈴香」


「なに?名前呼びたかっただけとか言ったら通報するから」


「そんなことはなくて、その……ありがとう色々


 と」


「何がよ?」


 前を見つめたまま返事していた鈴香は身体をビクリと震わせ、緊張と警戒が入り混じる面持ちで振り返った。


 心なしか少し頬が紅潮しているように見える。


「色々って具体的には何よ」


「えっと、倒れてる僕をわざわざ運んでくれたり、眠りやすいようにクッション敷き詰めてくれていたりして」


「そっ……そんなの仕事だから当然よ!あんな橋の上で寝てられて……風邪引かれても困るし、うちの廊下で寝られて……風邪引かれても困るし……ちょっと!なに笑ってんのよ!」


「ごめん、つい……もし、与えられた事柄だった


 としても人柄ってどこかに出るものだと思うんだ。僕の身体を気遣ってくれたのは鈴香の意思だから、やっぱり優しいんだなって……思っちゃって」


「やっと笑ったと思ったらそれ、私をバカにしてんのね!あったまきた!アンタなんてえっと……その……あれよ……ばか!」


 言うが早いか駆け出した鈴香はけれど、目と鼻の先ですぐ先で停止した。


 追いついてみると、そこには石段があった。


 一段ごとの幅は遠目から見て想像していたよりも狭く、故になかなか急だ。


 上になにがあるかはここからでは把握できない。


 鈴香はビシッと頂上を指差すと、


「ここが目的地の神和明神よ、馬鹿は身体でも動かせばいいわ。ほら、上まで全力で駆け上がりなさい!」


 そう言ってほんのわずかに微笑んだ。












ここまで読んで下さりありがとうございます!

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