まちねこ(地域猫)
台風の後に
記憶の森と千年樹
黄金にたなびく野の原
今日はこぼれ落ちた紅葉を集め
鳴いている子の寝床を作ります
夕焼けの色 朝日の色 顔を出したお月様の色 こころの色
一枚一枚を咥え 山にしたら てっぺんを平らにするの
これでふかふかのお布団の出来上がり
今日はいつもより来たものが多いから
濡れ細り 土にまみれたものが多いから
温めるものが必要ね
耳を舐めて
ヒゲを舐めて
落ち着かせようとしたのだけれど
キジ柄の子がはみ出して
まっすぐまっすぐ走っていった
汚れた身体で走っていった
だけどあなたの街にはたどり着けない
どこにも
声を枯らして叫んでも あなたの知っているニンゲンは来ない
誰も
懐かしい四つ角も
ショッピングセンターも
通学路もバス停も駅舎もない
夕方に漂って来る匂いもざわめきもすべてない 足音も
自覚はないでしょうね、急だったから
狂ったような雨の音
飛んだ看板
裂けた生木
でも泥が取れるくらい走ったら 濡れた身体が乾いたら
立ち止まり風の中を見てごらん
あなたを心配する声が
あなたを気づかう声が
声が空気に染み入って 包まれていることに気づくでしょう
あなたに内緒で食べ物をくれた本屋さん夫婦も
手を振ってくれた女学生達も
撫でてくれたタクシー運転手さんも
みんな避難していて無事らしいわ
良かったね
あなたはとても幸せだった
とてもとても幸せだった
走って走って走った後
その幸せを抱いて眠ってね
だから私はこぼれ落ちた紅葉を集め 涙の数だけ寝床を作るの
読んでいただきありがとうございます。