中編
後編は17時に投稿しますよっと。
「腹間瀬田君!
大変なの! 愛野さんが!
愛野シズクさんが変な人達に!」
シズクが攫われた。
そんな一報が俺と清四郎の元へともたらされたのは、2人でちょっとした買い出しに出ていた時だった。
息を切らしながらも、清四郎へと助けを求めているのは、学校じゃシズクと共に生徒会を運営する女生徒達。
今日のシズクは、生徒会活動があるって事で、俺達と別行動をとったところを狙われたらしい。
しかし、麗しの生徒会役員さん達よ。
この場には俺もいる訳だよ。
俺の存在そのものを無視して清四郎にだけ話するのは勘弁してくれんかな。
幾ら清四郎がイケメンでもさ、一応、俺もシズクとは幼馴染である訳で、ここまで徹底的にスルーされると腹いせにちょっとオッパイ揉んでやろうかって気分に―――――
「やだ。この人こわーい」
「目を合わせちゃ駄目よ!
妊娠させられちゃうから!」
いや、目が合っただけで妊娠はしないだろ!
一体どんな妖怪だよ!
そんな話を子供が聞いたら泣くぞ。
それ以前に俺が泣くぞ。
それならまだコウノトリさんが運んでくるって方がロマンあって良いわ!
お前等、俺を一体どういう目で見てやがるんだ。
はいそこ!
ちゃっかり清四郎に隠れる振りしてしがみ付くんじゃない!
腹いせにオッパイどころか、本当に孕ませて腹ぼてで、腹いっぱいに膨らませるぞ、この野郎。
おっと、頭に血が昇りすぎたか。
それにしても、あいつが大人しく攫われるようなタマか?
いや、性格はあれでも、生物学上は女であることは間違いないから、タマはないけど。
冗談はさておき、シズクは護身術道場の娘だ。
当然ながらその実力はそんじょそこらの連中に後れを取るとも思えんのだが、女生徒達曰く、彼女達を庇ったという事らしい。
「ゲス共が……」
女生徒達から経緯を聞き、清四郎が吐き捨てる。
同感だ。
詳しく聞けば、シズクを攫ったのは、やはり乱咲ヨガルの一派であるらしい。
ただし、直接手を下したのは、乱咲ヨガルではなく、一人の男との事だ。
この男こそが、乱咲ヨガルが期した万全の備えという事なんだろう。
そして女生徒達は、件の男から、俺達にというか、清四郎に対して伝言をされているらしい。
その伝言とは。
シズクを返して欲しくば、郊外の閉店したショッピングモール跡地まで来い。
清四郎と目が合う。
ちょっと色々と頭のネジがぶっ飛んだ女ではあるが、それでも大事な幼馴染には違いない。
許せるか?
いや、許せねーよな。
身内がここまでされて黙っている奴は男じゃないだろう。
頷き合う俺達。
そうだ。
やる事は決まっている。
そして清四郎はスマホを手に取り電話を掛ける。
「あ、もしもし警察ですか?」
そう、警察に通報だ。
って、うおい!
何してくれちゃってんのコイツ?
慌てて清四郎から、スマホを取り上げる俺。
この流れって、普通助けに行くところなんじゃねーの?
何で警察に電話してサクッと解決しようとしてんだよ!
いや、世間一般的には非常に正しい行動ではあるけども!
「そうは言うがタケル。
これはれっきとした犯罪だぞ?
こういうことは警察に任せるのが一番だと思う」
「そうよそうよ。
清四郎君の言う通りだわ!
警察に任せるべきよ!」
「不細工は黙って清四郎君のいう事を聞いてれば良いのよ!」
うるせーよ、このブス共が!
それならそもそも俺達に伝え来るな!
さっさと警察に駆け込んどけっての!
あと、さっきまで腹間瀬田君とか苗字で呼んでた癖に、ちゃっかり清四郎君って呼び方に変えて距離感を縮めようとするんじゃねーよ!
清四郎も変態の癖に、変なところで常識を弁えてんじゃねーよ!
あ、ピンときたぞ。
さてはお前ビビりやがったな?
下ネタ短編企画の運営さん警告作品が3作にまで増えてビビりやがったんだろ?
ふざけんなよ。
そんな終わり方されたら、読む方も不完全燃焼だろうが!
それ以上に書く方も不完全燃焼だっての。
決着は裏美道で着けるんだよ!
出し惜しみはしねぇ!
全力だ!
大丈夫だっての。
お馬鹿で下品なシーンは山ほど出て来るが、ムラッと出来るシーンは一切出てこねーからな!
おら! さっさとついて来いや!
そして、俺達はシズクが囚われているというへ閉店したショッピングモール跡地とやって来た。
既に閉店して数年経ったショッピングモールは次の活躍の場も与えられる事もなく、誰かが死んだとか、そういう事実もないってのに、今ではすっかり地元の心霊スポットとして定着している。
その所為で昼間でも人が寄り付く場所じゃない。
今回のような事件の舞台としては、正に打ってつけと言っても良い場所だ。
勿論、建物自体は閉鎖されているので、連中は駐車場の何処かにいる筈なんだが。
っと、居た。
モールの正面入り口前に陣取ってる連中。
例のお嬢様の取り巻きだ。
更に、少しだけ距離を置いた場所に一人佇むロングコートの男。
コイツがシズクを攫った実行犯か。
この男、遠目に見ても分かる程にデカイ。
その身に纏う雰囲気も只者じゃない。
「あれは槻間久里か?」
どうやら清四郎は男の正体に心当たりがあるらしい。
顔見知りなのか?
「知っていると言っても、一般的に出回っている程度の知識だけだがな。
裏美道ランキング元4位【乱射乱撃】槻間久里。
己さえ良ければそれで良し、という余りにも身勝手な振る舞いに、遂にはランキングを剥奪され、裏美道界を追放された男だ」
何それ。
基本的にフリーダムなこの業界で追放とか、マジでやばい奴じゃねーか。
参ったな。
こりゃ、冗談抜きに警察に任せてた方が良かったかもな。
何だか頭が痛くなってきたわ。
そして中央には、二人の美少女の姿。
一人は攫われた愛野シズク。
そしてもう一人は、この騒動の黒幕。
乱咲ヨガルだ。
コイツらが何をしているのかと言えば、くんずほぐれつしてるわ。
美少女達が真昼間から、屋外でくんずほぐれつとか、百合百合しい事この上ないぞ。
よく見りゃ、地面にゃ結構大きな染みが出来てるし、こりゃあれだな。
愛野シズクの愛のしずくが大放出されちゃってるっぽいな。
取り巻きの連中共も、もはや完全に前かがみだし。
控えめに言ってもエロい。
控えなかったら、滅茶苦茶エロい。
シズクに至っては、エンドレスでビクンビクンだわ。
今すぐ飛び出して助けてやりたいところだが、どんな罠があるか分かったもんじゃない。
ここは一つ慎重に見に回るのが上策だろう。
決して、エロいのをじっくりたっぷりと堪能したいって訳じゃないからな?
本当に本当だからな!
スマホで動画撮影してるのも、奴らの弱点を探る為であって、あとで自分のオカズにしようだなんて事は、これっぽっちも考えてないんだからな!
「ちょっと待ったあああああ!
このゲス共が!
シズクを返して貰うぞ!」
元気いっぱいに飛び出していく清四郎。
俺の慎重さは、清四郎の空気の読まなさの前にあっさりと無に帰した訳だ。
まぁ、うん。
知ってた。
知ってたよ。
こいつはこういう男だって。
仕方ない。
俺も出て行くとしますかね。
「来ましたわね。
腹間瀬田清四郎と城井野タケル。
でも少しだけ遅かったようですわね。
お仲間の愛野シズクさんは、私達の裏美道の前に既にこの有様ですわよ」
お嬢様らしさの中にも、妖艶さを感じさせる艶めかしい笑みを浮かべる乱咲ヨガル。
「わ、私はまだ負け……てな……い」
「ふふふふ。負け犬の遠吠え程心地よい物はありませんわね。
【負け犬】と改名しては如何かしら?」
その身を蝕む快楽と、そして悔しさに表情を歪めるシズク。
ああ。
そうだな。
シズクはまだ負けちゃいない。
それにお前らのそれは裏美道じゃない。
「私達の裏美道が裏美道ではないですって?
負け惜しみにしても聞き捨てなりませんわよ」
何度でも言ってやるさ。
お前らのそれは、裏美道じゃない。
裏美道ってのは道なんだよ。
修羅の道を往こうとも。
裏の道を往こうとも。
俺達が歩むはあくまでも人の道。
お前らのそれには人としての美学がない。
人質をとってねじ伏せるなんてのは裏美道じゃない。
お前らのそれは――――――
「外道と言うのだ!」
俺の言葉を引き継ぐように言い放つ清四郎。
って、うおおおおおおおおい!
美味しいとこだけ持っていくんじゃねーよ!
俺にだってちょっとは主人公っぽい事させてくれても良いだろうが。
はいそこのシズク!
潤んだ目で清四郎を見つめない!
俺って本当に割に合わないポジションだよな。
「そんなの綺麗ごとでしかありませわ!
どんな御大層なお題目を並べたところで、栄光は勝者にしか与えられなくってよ。
何事も勝ってこそですわ。
勝たなければ、子供の戯言でしかありませんわ!」
激高し俺達の言葉を否定する乱咲ヨガル。
言葉使いこそお嬢様っぽいが、既にお嬢様然とした雰囲気はない。
まぁ、この反応は当然といえば当然だな。
裏美道ってのは生き様だ。
それを否定されるという事は自分自身を否定されるって事だからな。
「我も乱咲の論に同意だな。
正義が勝つのではない。
勝った者こそが、正義なのだ」
そこに槻間久里が乱咲ヨガルの言葉に同調する。
事ここに至っては、今更の論議なんて不要だろう。
己が言い分を通したければ、実力行使あるのみだ。
【ゴールデンフィンガー】乱咲ヨガルと【乱射乱撃】槻間久里との裏美道バトルの幕が遂に切って落とされる。