前編
中編は11時に投稿しますよっと。
俺の名は城井野タケル。
何処にでもいる普通の男子高校生だ。
俺には原間瀬田清四郎と、愛野シズクという裏美道を歩む幼馴染がいる。
清四郎の奴は森羅万象、さまざまな性的な喜びを見出す変態だし、シズクは清四郎と電マ至上主義な変態だ。
裏美道?
何それ美味しいの? って奴に簡単に説明するとだな。
飽くなき性への探究心を持つ者たちが歩む修羅の道ってやつだ。
カッコ良く言ってみたけど、要はエロに関して極端にポジティブ&アグレッシブ。
そんな愛すべきバカヤロウ共が、歩む人の道の一つぐらいに思ってくれればOKだ。
そんな俺達の裏美道ライフをほんの少しだけ語ってみよう。
今日もやっと学校が終わったな。
さっさと家に帰ってゲームでもやりたい気分だぜ。
「タケル。愚痴る気持ちは分かるが、学業はとても大切なものだ。
いや、学業だけじゃない。
この世に無駄な知識などは何一つとしてないんだ」
「流石、清四郎ね。
本当にその通りだわ。
それに比べてタケルは馬鹿ね。
そろそろ死ねば良いのに」
学校帰り、毎日のように垂れ流す俺の愚痴を、これまた何時ものように窘める清四郎。
その清四郎の言葉をウットリとした様子で褒めちぎりながらも、俺の心を抉って来るシズク。
シズクってば本当に俺に対して遠慮がない。
いや、清四郎にべた惚れなシズクから見れば、俺を邪魔だって思う気持ちは分からんでもないけどな。
一応、俺も幼馴染なんだから、もうちょっと優しく接してくれても良いんじゃねーの?
でもまぁ、清四郎の言い分は分かるよ。
コイツってば、学年でトップクラスの学力を維持してやがるしな。
超弩級の変態の癖に。
いや、超弩級の変態だからこそ、様々なプレイを思考錯誤する為にあらゆる知識を貪欲なまでに吸収してるって言った方が正しいのかもな。
掃除機にジャクリーンだなんて名前を付けて愛してみたり、お手製のフィギュアにキャサリンと命名して量産し始めたりと、俺にはとても真似出来んわ。
その上、滅茶苦茶モテるってんだから性質が悪い。
俺が清四郎と同じ事をしてたとしたら、モテるどころか罵詈雑言の雨あられだろう。
それが、イケメン、インテリ、高身長、と三拍子揃ったら、多少の欠点はむしろ人間味を増すスパイスとなるってんだから、世の中は理不尽なもんだよな。
「お待ちなさい」
不意の呼びかけに視線を巡らせれば、そこに居たのは、複数の男たちを下僕のように従えた一人の女だ。
女と言っても、俺達よりも精々一つ二つ年上というだけで、世間的にはまだ、少女と呼んでも差し障りのない年齢だろう。
ゆるふわでアッシュの入ったロングヘア。
控えめで清楚な佇まいは正に良い所のお嬢様って感じだな。
だが、独特の雰囲気がありやがる。
コイツら…… いや、コイツは、まさか。
「何か用か?」
清四郎が問いかける。
勿論、清四郎もコイツらのただならぬ気配に気づいている。
その証拠に、警戒を怠らずに、半歩程踏み出し、体の正中線を奴等からずらしている。
更にシズクは護身術道場の娘だ。
コイツが不意を突かれるという事はほぼあり得ないだろう。
「貴方が裏美道ランキング7位。
【千変万化】腹間瀬田清四郎さんね?」
その少女は、妖艶に微笑みながら問い返す。
コイツらも裏美道使いって事か。
ってか、裏美道ランキングって何だよ。
俺、そんなランキングなんて一度も聞いた事ないんだけど。
裏美道って、エロに関して極端にポジティブ&アグレッシブ。
そんな愛すべきバカヤロウ共が歩む道って設定だったよな?
何時の間にそんな中二バトルっぽい設定が追加されてんの?
ってか、清四郎の上にまだ6人もいるの?
清四郎だけでも相当にヤバいってのに、これ以上があと6人もいるとか。
日本の未来は大丈夫なのか。
いや、駄目だろ。
日本終了のお知らせ。
「そういうお前達は一体何者だ?」
「私? 私は、ヨガル、乱咲ヨガル」
「ほう。貴様があの【千手観音】か」
俺の心の声もなんのその。
極自然に会話を続ける清四郎とお嬢様。
いや、どの千手観音だよ。
初耳だよ。
なにこれ。
このお嬢様も清四郎も一体何を言ってんの?
「乱咲ヨガル。
裏美道ランキング11位。
想像を絶する手技による快楽は自他等しく天国へと誘うらしいわ。
付いた異名が【ゴールデンフィンガー】」
シズクの解説に、にぃっと笑みを浮かべる乱咲ヨガル。
シズクもこの流れに乗っちゃうのかよ!
ってか、【千手観音】じゃないのかよ!
清四郎のやつ、ドヤ顔で間違えてんじゃねーよ!
んでもって、何だか俺だけ置いてけぼり感が半端ないんだけど!?
でも、色々納得出来ない部分はあるが、今はこの乱咲ヨガルの動向の方が重要か。
「あら、わざわざ言うまでもないでしょう?」
乱咲ヨガルはそう言うと、蠱惑的な笑みを清四郎へと投げかける。
「俺が持つ7位の座か」
清四郎の言葉に、更に乱咲ヨガルの笑みは深まる。
しかし、この乱咲ヨガルって女。
一見すると清楚な令嬢って感じだが、本質は間違いなく捕食者だ。
その上、確実に強い。
この場で始まるのか?
ランキングを賭けた裏美道バトルが。
正直、ランキングって一体何の事なのかよく分からんのだけどな。
「ええ。ついでに貴方も私のペットに加えてあげるわ」
乱咲ヨガルの笑みは崩れない。
相変わらずこの女もノリノリだな。
「私の清四郎をペットにするですって?
ふざけていると殺すわよ?」
乱咲ヨガルの清四郎ペット化計画に、我慢出来ぬとばかりに割って入るシズク。
いや、お前の清四郎じゃないだろ。
シズクが清四郎を愛してるのは知ってるが、多分、清四郎はそうでもないぞ。
現に週7くらいのペースで振られてるじゃねーか。
日割にしたら1日1度は振られてる計算になるんだぞ?
第一掃除機やフィギュアに負けてる時点で―――――
って、痛ぇ!
俺の足を思いっきり踵でゲシゲシするなっての。
俺の心を読んで攻撃してくるとかエスパーかお前は。
「ふん。諦めたら試合終了なのよ。
逆に言えば、諦めなければ試合は決して終わらないという事よ。
だから私は諦めない。
ただ、それだけの事よ」
俺だけに聞こえるように呟くシズク。
何その超理論。
それだけの事じゃねーだろ。
それって確かバスケの話だよな?
バスケなら時間が来たら試合は終わるだろ。
諦めなければ試合は終わらないとか、お前だけ時間無制限のプロレスラーかよ。
っと、今はそんな事を考えている余裕もないか。
「殺す? 私を?
貴女に出来るのかしら?
裏美道ランキング15位。
【デンマスター】愛野シズクさん?」
挑発するように嗤う乱咲ヨガル。
いや、するようにじゃない。
挑発してるんだ。
自分よりも下位ランカーであるシズクを見下しながら。
シズクの表情が消える。
次の瞬間。
シズクは腕を一閃。
しかし、素手では乱咲ヨガルには届かない距離だ。
それにも関わらず、乱咲ヨガルはバックステップで距離をとる。
何故なら、シズクの手には電マが握られていたからだ。
電マのコードを鞭のように振るっていやがった。
シズクは一流の電マ使いだ。
それも超の付く一流といっても過言じゃない。
その活用範囲は、電マ本来の使用法である性目的にとどまらず、バトルにすら及ぶ。
例え、電源が無かったとしてもご覧の通りだ。
電マの本来の使い方は性的使用じゃないよってツッコミはノーサンキュー!
だが、ここで注目すべきはシズクじゃない。
その速度は音速にも届こうかという電マ鞭の一閃。
それを余裕を持って避けて見せた乱咲ヨガルの方だろう。
「ふふふ。電源の入っていない電マなんて、ただのガラクタに過ぎませんわ。
そんなもの恐るるに足らず、ですわ」
勝ち誇ったように言い放ち、色んな意味でイヤラシイ笑みを浮かべる乱咲ヨガル。
特にエロイ事をしている訳でもないのに、妖艶で滅茶苦茶エロイ。
こちとら思春期真っ盛りの男子高校生な訳で、色々妄想が捗らざるを得ない。
御馳走様です。
「ふん。電源なんて無くても何の問題もないわ。
ありとあらゆる状況で、100%、いえ、120%電マを使い熟すからこそ。
【デンマスター】なのよ」
応じるように言い放つと今度は電マ本体をブンブンと振り回し始めるシズク。
その佇まいは、かの剣豪宮本武蔵と戦ったと言われる鎖鎌の達人、宍戸梅軒の如し。
そんな使い方をしたら電マが壊れるんじゃないかって?
その点にも抜かりはない。
何せシズクの奴はジャングル系の大手通販サイトで、1本1980円の電マを、24本セットで本来47520円のところ、42800円というお得セットを購入済みだからな。
例え1つ2つ壊れたところでストックは潤沢だ。
更によく一緒に購入されているという何だか薄い感じのゴム製品まで購入しているという隙の無さ。
シズクに一切の死角はない。
それにしても、完全に能力バトルの様相を呈して来たな。
どうしよう俺。
俺は一応、至って普通な一般ピーポーの男子高校生でしかないつもりなんだけど。
だが、ここで遂にあの男が動きやがった。
「ちょっと待て、ご指名は俺なんだろう?」
あの男とは勿論、清四郎に他ならない。
正に一食即発な美少女二人の間に割って入りやがった。
そうだった。この野郎が、この状況で大人しくしている訳がなかった。
やはりこの挑戦は受けて立つ気でいるらしいな。
!?
いや、違う!
清四郎のあのズボンの膨らみは。
受けて立つ気じゃない。
既に受けて勃ってやがるんだ!
恐るべし清四郎!
シングルランカーの肩書は伊達じゃないな!
乱咲ヨガルも既に臨戦態勢に入っている清四郎の様子に気が付いたらしい。
その笑みこそ崩さないものの、油断なく清四郎、そしてシズクの挙動に細心の注意を払っていやがる。
この女の自信と実力も紛れもなく本物。
「あら怖いわね。
それで私に勝てるつもりなのかしら?
そちらはたったの三人。
しかもそのうちの一人は頭数に数えるのも可哀そうな位の無名の童貞君。
それに比べてこちらは12人。
この者達もランキングこそ持ってないものの、私が直に鍛え上げた精鋭たちよ?」
おい!
ちょっと待て!
今、聞き捨てならん事を言いやがったな。
どどどどど童貞じゃねぇし!?
けけけ経験も豊富だっての!
「はっ。その程度、物の数ではないな。
存外【ゴールデンフィンガー】も大した事なさそうだな。
確かに童貞臭い男だがな。
城井野タケルの潜在能力を計る事も出来んとはな」
童貞臭くもないっての!
ふざけんなよ。
お前等、纏めてぶっ殺すぞ!
この野郎!
ってか、勝手に話を進めるんじゃねーよ!
「私を侮辱するとは良い度胸ですわね。
こんな冴えない――――――!?
城井野!?
まさか――――――」
「そうだ。ようやく理解したか?
裏美道界の絶対的頂点【性帝】城井野出汁太郎が実弟にして、【千変万化】腹間瀬田清四郎の終生のライバル。
それが城井野タケルという男だ」
おいおい、今度は何だか急に持ち上げられ始めたぞ。
これはこれでちょっと、いや、相当嫌なんだが。
それはそうとランキング1位って兄貴の出汁太郎の事だったのか。
それにしても【性帝】って何て嫌な二つ名なんだ。
そんな異名が付いた日にゃ、俺なら学校の屋上から紐なしバンジーで果てる自信がある。
あ、関係ないけど紐なしバンジーと膜無しバージンって何となく語感が似てるよな。
どっちも詐欺っぽい感じがとても絶妙だと思うんだ。
すまん。何となく思いつただけで特に意味はない。
スルーしてくれ。
でもまぁ、確かにアイツなら納得だ。
白いの出したろう?とかアイツは名前からしてあれだしな。
相手が出汁太郎じゃ、俺も清四郎も完全に子供扱いだ。
正直、こんな変態共と同類扱いされるのは嫌なんだけどなぁ。
でもまぁ――――
親友にここまで言われて動かねーってのは男じゃねーよな。
味わってみるか?
【性帝】直伝の右手が恋人を。
俺も一歩前へと踏み出す。
右手をプラプラと揺らしながらだ。
勿論、ハッタリで、精々がちょっと小器用なだけの普通の右手なんだけどな。
兄貴の出汁太郎曰く、手は全ての裏美道の基本にして神髄って事らしいから、全部がハッタリって訳でもないんだけどな。
気圧されたかのように一歩後ずさる乱咲ヨガル。
「くっ。【千変万化】に【デンマスター】、更に【性帝】の弟まで。
不確定要素が大きいわね。
感謝しなさい。ここは一旦退いてあげる」
そう吐き捨てる乱咲ヨガル。
そして颯爽と身を翻し去っていく。
え?
去っちゃうの?
いや、仕切り直したいっていう気持ちは分からんでもないよ。
でもさ。その気にさせといて、この仕打ちはないんじゃないか?
流れに乗ってみればこのざまだよ。
俺のプラプラ揺らし続けてる右手は一体どうすりゃ良いんだよ。
止め際を見失ってずっとプラプラさせっぱなしなんだぞ!
どうすんだ、この右手。
「ふ。当座は凌げたようだな。
だが、これで諦めたとも思えん。
次が手強そうだな」
「ふん。何度来ても同じ事よ。
私の電マで撲殺するだけよ」
そんな感じで〆に入り始める清四郎とシズク。
お前等、俺の右手プラプラはスルーかよ。
見えてるよな?
思いっきり見えてる筈だよな?
何だよこれ、新手の苛めかよ。
あと、当たり前のように撲殺とか言ってるけど、電マって本当は鈍器じゃないからな?
こういう奴に限って、壊れた! 不良品だ! って騒ぎまくる気がするのは俺だけかね。
しかし、清四郎のいう事も間違いじゃない。
乱咲ヨガル。
あの女が、いや、己の欲求に限りなく正直な裏美道使いが、この程度で諦める筈がない。
近いうちに必ずまた奴は姿を現すだろうな。
そしてその予想は当然のように的中する事となる。
シズクが攫われるという最悪の事態によって。
久しぶりに書いたので、ノクタ版と多少雰囲気が違ってるっぽいのは許してくだされ。