未来は何色か
「だけど、この日記は変だ」
「何故です?」
「《同じ日記が二つある》なんて、どう考えても変なんだよ」
「同じものが二つあるんですか?」
そうなんだ、と言いつつ俺は自分の鞄を漁る。
ガサゴソとやっているうちに、それは出てきた。
赤色の革表紙の、こちらはまだ新しく、買ったばかりの本特有の印刷の香りの残る日記である。
「思い返して見れば、この二つ。
書いてある内容が、全く同じなんだ。
ただ、《アスガルド革命》以降の記述を除いて」
《アスガルド革命》の部分は桜海が筆を執ったというが、その後は全く何もしていないという。
すなわち。
「誰かが、写本した・・・?」
否、それは違うな。
「写本じゃない。どちらも俺の付けた日記だ」
え?と桜海は困惑の表情を見せる。
そうなるとは予測はしていた。
しかしながら、その顔でさえも一級品の彫刻よりも美しく、また世界中の如何なる花より可愛い。
思わず見蕩れてしまう。
「・・・えっとな、・・・こっちの日記は今、俺が現時点での記憶を記していた日記。
これは仮に《趣味としての日記》としておこう」
そう言って、俺は赤色の日記と手に取る。
桜海はそれに、頷くという行為で応える。頷くだけでここまで人をときめかせるだなんて、やはり魔女としか思えない。そんな彼女に俺は、残念ながらドキドキしてしまっている。
「で、こっちが問題だ。こっちは、『俺』が書いた、っていう点では変わらないけれど、その『俺』は今、桜海の目の前にいる俺じゃあない」
さらに表情が困惑に染まる。しかし可愛い。
本当はこの人は邪龍じゃなくて、神サマが俺に遣わしてくれた天使なんじゃなかろうか。
「例えば、これを書いた『俺』は未来の『俺』かも知れない、とか?」
ようやく解ったのか、桜海は顔を輝かせた。
桜海さん、貴方本当は天使なんでしょう。
それこそ天使の最上位ともいわれる熾天使とかでしょう絶対。
「それは有り得ますね。それに記されているのは私が書いた《革命》よりも後の事なんですよね?」
「ああ」
「なら、それを書いたのが『未来のハルト』という事も辻褄が合いますし、それが妥当ですね」
委員長オーラも健在ですね。
と思いつつ、それとは別に考えている事もあった。
実のところ、《声》が聴こえているのだ。
今までよりもハッキリと、甘い声で。
『ハルト君♪・・・実験は順調に進んだんだ。
君に《知る資格》があることも認められたし、あとは君がその手で私を求めさえしてくれれば、それで万事、円満成就というわけなんだが?』
百パーセント成功する方法の預言を残していくのは有り難い事ではあるが、もう頼ろうとは思わない。思えない。
『さあ、もっと成功を欲していいんだよ?
君にはその資格があるんだからさ。
さあ、私から全て剥ぎ取るように!
私を、《全能の知識》を求めておくれよッ!!』




