空白
雨が降っている。
あたかも、その人が逝ったのを哀しむように。
・・・あるいは、大切な人を失った二人を憐れむように。
「ハルト君・・・」
和沙もまた哀しいのだが、今は目覚めたハルトの事が心配で仕方がなかった。
和沙も璃瑠の事が好きだった。
だが。
だが璃瑠は、あの時。
「ハルトの腕の中で、ずっと眠れるから・・・」
あの時、彼女はハルトを選んだ。
それならば自分は、この片恋情を心の奥底へ押しやっていよう、と和沙は決めていた。
それなのに。
いざ彼女が手の届かない場所へと旅立ったら、和沙の中で、押しやっていたそれが暴れだした。
俺だって、璃瑠さんの事が好きだったんだ。
ハルト君・・・、君も哀しいだろうけれども、俺だって同じように、いやそれ以上に哀しいんだよ。
「・・・なぁ、和沙」
唐突にハルトは独り言の如く、しかし確かに和沙に呼び掛けた。
「なんだい?」
「・・・俺さ、《ヨトゥンヘイム》に行く」
いきなりの告白に和沙は頭が真っ白になり、直後にそれは怒気の深紅に表情を変えた。
「ハルト君・・・、君は何故責任を感じていない?
君を誘拐した犯罪者はもう死んだんだ、アスガルドで《革命》が起こり、桜海さんだってその中で逃げながら生きている。絵茉さんもアスガルドの外交難を解決しようとアルヴヘイムでもがいている。璃瑠さんだって・・・君を目覚めさせようと体を張ったんだぞ?
それなのに・・・君は、君ってヤツは・・・!」
ハルトは思った。
そんな。
俺がいなかった間にそんな事が・・・。
《アスガルド》で革命?
外交難、誘拐犯の死、俺の責任・・・?
聞いてもいない話が次々とハルトの頭を潰しにかかってくる。
「どういう事だ?!俺に詳しく聞かせろ!!」
和沙は驚いていた。
記憶が飛んでいる、のか・・・?
―――――――そうだ。記憶と意識の改ざん。
ハルトは、これまでの事を覚えていない。
それどころか、それが起こった事を見聞きするどころか、ある意味で彼はこの世界から隔絶された
別次元に意識を置かれていたのだ。
あるいは彼はこの数週間分、消えていた・・・!
「・・・解った。全部話そう。何が起こったか、それで何が変わったのか」




