冬が来る
いつの間にか夏が終わり。
忙しいままに秋をまたいで。
気が付けば、冬が来る。
「これが・・・」
ロキはそんな、感嘆の声を漏らしてそれを見ていた。
それというのは、例の《巨人》である。
「コイツは、自らを《霜内夜 紡》と名乗っておりました」
ほう、とロキは思い、そしてこう命じた。
「そのような名は、巨人に持たせてはならぬ。こやつの名とて例外でない。この者の名を、直ちに変更するのだ」
「ですが、その権限もウートガルザ卿にあります故、ご自身の意思で、お好きなように」
「解った」
そうか、とロキは頭を捻る。
というのも、彼には何かに名前を付けるなどということには、経験が全くの皆無だったのだ。
彼の人生上、最長の思考時間を費やし、そうしてようやく、どうにかひねり出した名前は。
「その者の名を、《ヨトゥン》と変更する」
その名前に、反論を示す者は誰一人としていなかった。
「早速だがヨトゥン。お前に仕事を与えよう」
「何なりとお申し付け下さい」
ヨトゥンはがらがら声で、そう応えた。
思ったより従順だな、と少し興味が削がれる。
「今我々は、《ジークフリード》という反乱勢力の鎮圧に奮闘している。
そこで、お前にはその戦場の第一線に立って貰いたい」
「御意」
え、そんなすんなりと受け付けていい話ではないと思うのだが。
そう思った瞬間にはもう後の祭りである。
「よし、皆の者!!」
ゼノフスが叫ぶ。
「我々の安寧を取り戻す為に、剣を取れッ!!」
「オオオオッッ!!!!」
こうして後の戦場の第一線に、人族の者たちが本来触れ合うことのない者たちが立ち塞がり、剣を交えることとなった。
晩秋、山麓の赤が眼に鮮やかな月のことである。
「そうか・・・」
雨浦の市街地、とあるカフェテリアにて。
フードを被った一人の男が、見るからに甘ったるい、生クリームをふんだんに載せたカフェモカをすすり、そうつぶやいた。
「何度でも同じ道を辿るのだね、運命は・・・」




