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2 異世界に召喚されてみる

 徒花浩人(あだばなひろと)、15歳。女性との交際経験……なし。

 中肉中背、美形というわけではなく不細工というわけでもない目立たない容姿。

 特にスポーツなどはしておらず、特技もなし。

 成績は中の下くらいで、若干オタク趣味。

 クラスメイトとは問題なく話せるが、親友と胸を張って言えるような相手はいない――そんな何処にでもいる少年である。




 その日、浩人は何時ものように目を覚まし、何時ものように眠気を堪え授業を受け、何時ものようにクラスメイトと馬鹿話をし、何時ものように一人で帰宅しようとし――気がつけば見知らぬ場所に佇んでいた。



「……は?」


 浩人の正面、少し距離のある位置には豪奢な椅子に座った年配の男性。

 現代日本では見かけないような古い服――しかし周りの人々に比べると華美で上質な服を着ている。

 周りには年配の男性以外にも多くの人々がいて、浩人を見てざわついている。

 そして浩人たちがいる場所は、テレビや漫画でしか見たことのない中世風の城のような建物。

 ――ここまで確認し浩人は確信する。


(異世界召喚キタァアアアアアアアアッ!)


 オタク趣味を有するは当然の事ながらネット小説も読んでいる。

 この状況はその中でも異世界召喚というジャンルに違いない。

 魔王などに脅かされる人々が異世界から勇者を召喚する――そこからさらにいろいろと派生するが、基本的には主人公はチート能力を持ちドンドン成り上がっていくのだ。

 浩人はそんな夢のような状況が自分に訪れたと思い歓喜した。


(王道の勇者系かなー、それとも一旦無能扱いされた後のチート系かなー?)


 そんな妄想を重ねる浩人に一人の男性が近寄って来る。

 浩人よりも頭二つ分は背が高く、よく鍛え上げられた肉体を持つ男性だ。


(うおっ!? でけえ!)


 内心で恐がりながらも、必死で虚勢を張る。

 異世界の人々との初接触、侮られるわけにはいかない。

 そんな決意を固めた浩人だが――


「§#υ¶§Σ……?」

「……は?」


 ――現実(言語の壁)が立ちはだかった。


「¶Σ#ΔΘ……?」

「あ、あいどんと、すぴーく、い、いんぐりっしゅ?」


 思わずつたない英語で答えてしまう。


(何で言葉が通じねーんだよ!? 異世界補正とかあるだろフツー!)


 もちろん内心では焦りまくりである。

 そんな浩人に巨漢の男性は掌をさし出す。

 見ると指輪が乗っており、浩人が受け取ると親指に嵌めるようジェスチャーで示してくる。


「ΔΞ@¥の指輪だが……言葉は分かるかな?」

「うお!? わ、分かる、分かります!」


 指輪を付けた途端に巨漢の言葉が分かるようになり、浩人は慌てて頷く。


(こんな便利なのがあるなら初めから渡せよ!)


 心の中で文句を言うが、恐いので口には出さない。

 そんな浩人に一番初めに目に入った年配の男性が声をかける。


「ふむ、落ち着いたかな? 少年」

「あっ、はい」

「それではすまないが……名前を教えてもらえるかな?」

「あ、徒花、徒花浩人です!」

「うむ、アダバナヒロトでいいのかな?」

「え、えっと、浩人でお願いします」

「ではヒロトと呼ぶことにしよう」


 耳慣れない名前に戸惑ったようだが、なんとか落ち着いたようだ。

 そんな男性を相手に、ヒロトは慣れない敬語を意識していた。

 異世界召喚もので召喚相手に喧嘩腰で突っかかる主人公をよく見かけるが、アレは馬鹿だと思うのだ。

 頼る当てもない状況で権力者に盾突くとか無謀すぎる。

 侮られないよう、それでいて下手に出ないように接するのが最善である――そう自画自賛する。


「さて……、この世界の名はクロスカディア。ここはリオリーズ王国の首都リオスの王城。そして私はレオル・ルグ・リオス三世だ。……ここまでで聞き覚えのある言葉はあるかね?」

「……いえ、ありません」

「……ではヒロトは異世界の住人という事でいいかね?」

「……はい。そうだと思います」


 ヒロトの発言に周囲のざわつきが大きくなる。


(まっ、異世界人だからな~。有象無象が驚くのも当然だな!)


 心の中でにやつきつつ本題に入ることにする。


「それで……俺はどうしてこの世界にいるのでしょうか?」

「うむ……それなんだが……」


 途端に歯切れの悪い様子を見せる男性。


(どーせ魔王とかいるんだろ? そんでもって自分たちじゃどうにもならないから異世界に助けを求めた。勿体振らず早く話せよなー)


 そんな不遜なことを考えるヒロトだが、現実とは往々にして予想を裏切るものである。


「……実を言えば召喚実験の失敗でな。お主には申し訳ないことをしてしまった」

「……は?」


 言われた内容が理解できず――というか受け入れられず、間の抜けた声を上げてしまうヒロトを置いて話は進んでいく。


「我が国では最近、異世界よりなにか(・ ・ ・)を召喚する実験を進めておってな。無機物では概ね成功したので、今回から有機物の召喚実験に入ったのだ」

「は、はあ……」

「召喚の対象はエネルギー質量が少なく、知能も低いものに限定しておったのだが……まさか人間が召喚されるとは。……本当にすまないことをした」

「は~……」


 もはや呆けた声しか返せないヒロトだが内心は大混乱である。


(え、えっとつまり……俺は勇者でもなんでもなくて、しかも頭が悪いから召喚された? ……いやいや、ねーだろそれは)


 なにしろ異世界人と言えば基本的に頭が悪いのだ。

 文化・文明レベルで地球に劣り、NAISEIやGIJYUTUチートを行う主人公をSUGEEとヨイショするのが仕事なのだ。

 そんな異世界人よりよりも知能が低い? ……ないない。

 きっと召喚にバグでもあったのだろうと結論する。


「だが安心してほしい。送還のための研究は行わせるし、衣食住の保障はさせてもらうつもりだ」

「……いや、そこまでお世話になるわけにもいきませんよ。自分のことは自分でなんとかします」

「しかし……」


 冗談ではないとヒロトは思う。

 きっとこの男は自分を騙して利用するつもりなのだろう。

 異世界の権力者と言えば、傲慢で悪党と相場は決まっているのだ。

 今まで数多くの召喚系ネット小説を読んできた俺は騙されない――そんなふうに考えるヒロトは、せっかくなので少しでも情報を収集することにした。


「それじゃあ、いくつか聞きたいことがあるんですが、いいですか?」

「おおっ、もちろんだ。答えられることならば、なんでも答えさせてもらうぞ」


 よしよしと笑みをかみ殺しながら、質問を考える。


「……じゃあ、この世界には魔王とかいますか?」

「……? もちろんおるが……それがどうかしたのか?」

(うしっ! 魔王を退治して英雄コースができるぜ!)


 思わずガッツポーズしそうになるのを抑えつつ質問を続ける。


「それじゃあ、ステータスとかありますか?」

「……ヒロトは随分と博識だな。オイ、あれをヒロトに」


 ひょっとしたらと思ったのだが、やはりあるらしい。

 王が指示すると、再び巨漢がヒロトに手を差し出してくる。

 ただし、今回掌に乗っているのは指輪ではなく銀色のプレートのような何かだ。

 大きさはスマホくらいで、右上角の部分に赤い宝石のようなものが取り付けられている。


「それは閲覧板(ビジダー)だ。右上の魔石に触れながら念じれば、ステータスが表示されるはずだ」


 言われるがまま、赤い宝石――魔石に触れステータスの閲覧を望む。

 すると――



《ヒロト・アダバナ LV1》


 HP:100/100

 MP:10/10

 膂力:8

 耐久:8

 器用:7

 知力:5

 敏捷:7

 精神:7

  運:15



 表示された文字は異世界のもので読み取ることはできなかったが、与えられた指輪の効果なのか意味は理解することができた。

 とりあえずレベル1ならこんなものだろうと納得する。

 知力が低いのが気になるが、これはきっと召喚のバグの影響だろう。

 そう思いつつ最後の質問をすることにした。


「それと……冒険者ギルドはありますかね?」

「う~む、異世界にも冒険者ギルドは存在するのか? 確かに我が国にも冒険者ギルドはある。王城より直進した場所にある大きめの茶色い建物がそうだ」


 ここまで聞ければもう用はない。

 魔王・レベル・冒険者ギルド! 俺TUEEE異世界最強チートハーレムの条件は全て揃っている!

 なのでさっさとこの場を後にすることにする。


「わかりました! それじゃあ俺はもう行きますね!」

「むっ、本当に保護は必要ないのか?」

「大丈夫です。俺は一人で生きていけますから!」


 別にヒロトにはサバイバルや格闘技の経験はない。

 そもそも一人暮らしの経験さえない。

 しかし根拠のない自信だけは人一倍だった。

 ……この辺りは異世界召喚系主人公に相応しいと言えなくもない。

 

 ――こうしてヒロトは冒険者ギルドに向かうのだった。



 ◇ ◇ ◇



(まずは冒険者になってガンガンレベル上げだよな~。でもってギルド長とかに一目置かれて、可愛い女冒険者を仲間にして――)


 ギルドへと向かう道中、そんな妄想に耽るヒロト。

 そのせいで注意が疎かになっていたのだろう。

 ――気がついたときにはヒロトは弾き飛ばされていた。


「……ぐげっ! ……ゲホッ! ゴホッ……ッ!」

「わっ、ごめん兄ちゃん。大丈夫か?」


 数メートル近く飛ばされ、地面に(うずくま)りながら咳き込むヒロトに心配気な声がかけられる。

 ヒロトにぶつかったのは、10歳にも満たない幼い少年だった。


「……ゴホッ。だ、大丈夫だから気にするな」

「そっかー。本当にゴメンなー」


 謝りながら去っていく少年を見送りながら、幼い少年にぶつかったことで起きた結果(・ ・)に少し疑問を覚える。

 ……がすぐに気を取り直し、冒険者ギルドに向かうことにする。

 たぶん気を抜いていたせいだろう、と深く考えない。


 ――本当はこの時点で気がつくことができたのだ。

 その為の手がかりはあったのだから。

 しかし「知力5」は伊達ではない。

 ヒロトの脳は、都合の悪いことに気がつかないことが大得意だったのだ。






 ヒロトはまだ知らない。

 冒険者ギルドで待ち受ける過酷な現実(レベル差)を――。

 受付の少女を見て、


(おお、可愛い! 俺のハーレム第一号か!?)


 などと思わず抱いたお気楽な思考があっさりと覆されることを――。

 ヒロトはまだ……なにも知らない――。

一言「異世界召喚だからって、神様が関わってたり、勇者召喚だったりするとは限らない」

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