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11 大臣と話してみる

「――メタルかっ!?」

「……どちらかと言えば軟体だな」


 目が覚めたと同時に突っ込むヒロトに、イレーネの冷静な声が返される。

 見渡せば昨日と同じ光景――どうやらスライムに敗れ気絶した自分は、彼女の自宅まで運ばれたらしい。


「しかし、まさか最弱のモンスターに一撃でやられるとは思わなかったな」

《貧弱すぎるぜ、Boy》

「いやいやいや、おかしいだろ!? どこが最弱のモンスターなんだよ!?」


 呆れた声をこぼすイレーネとロバートに慌てて反論する。

 ヒロトとしては、とてもではないが納得できない。

 スライムと言えば、『ひのきぼう』でも倒せるはずの雑魚のはずだ。

 いくらなんでもあのスピードはあり得ない。


「……そういえば昔はスライムも鈍足だったそうだが、子供が追い掛け回すうちに素早くなっていったらしいな」

「……またかよ」


 ここでも立ちはだかるおかしな異世界常識にヒロトは肩を落とす。

 まぁ、スピードが上がったと言っても、この世界の住人にとっては大した問題ではないのだろう。

 ついでに言えば、仮にヒロトが望むような異世界召喚だったとしても、モンスターが雑魚だと言えるかは甚だ疑問だ。


 なぜならば、技術の発達やデスクワーク中心の生活によって、現代人は健康面はともかく身体能力においては脆弱化しているというのが通説だ。

 もしも異世界がヒロトが想像していたような中世文化であり、モンスターという外敵もいるような状態だったならば、現地人の運動能力は日本人よりもずっと高いだろう。

 そんな異世界人がてこずるようなモンスターに、果たしてただの高校生が太刀打ちできるだろうか?


「……他になんか手はないのか?」

「……難しいな。一番弱いモンスターに手も足も出ないとなると、後は地道に害虫とかを殺していくしかないが……君はもう成長期を過ぎているからかなり時間がかかるだろう」

「そんな……」


 無情な返答に言葉を失うヒロト。現実はどこまでも非情である。

 ……そんな彼の耳に唐突に音が響く。


「ん? 客か、珍しいな……げっ」


 どうやらインターホンみたいなものの音だったらしい。

 外を確認したらしいイレーネが端正な顔を顰め、不快気な声を上げる。


「……面倒な奴が来た。私は奥に引っ込むから応対を頼むぞ」

「はっ? いやちょっと!」

「適当に相手をしてくれればいい。……私の事を話せば追い出すからそのつもりでな」

「んなっ!?」


 そんなことを言われてしまえば、もはやどうにもならない。

 もしもイレーネから追い出されれば、野垂れ死に確定である。

 ……ヒロトは諦めて訪ねてきた相手と会うことにしたのだった。



 ◇ ◇ ◇



「君は確か……ヒロトだったか。何故ここにいるのかね?」

「俺のこと知ってるんですか?」


 出迎えたヒロトの前に現れたのは中年の男性だった。

 真面目そうだが草臥れた様子で、苦労人の雰囲気を醸し出している。

 ヒロトはこういった人物に見覚えがあった。

 サラリーマンであるヒロトの父がこんな感じだったのだ。

 もっとも、着ている服は目の前の男性の方が数段上質だが。


「私も君が召喚されたときに、謁見の間にいたのだよ。それで……どうして君がここにいるのだね?」

「ええっと、今はイレーネさんに世話になっていて……」

「むぅ、それで局長はどこにいるのかね?」

「……局長?」

「イレーネ魔導技術開発局局長だ」


 どうやらイレーネは結構偉い人だったらしい。

 しかし、どこだと言われても答えるわけにはいかない。

 ここで口を割ればヒロトの未来は浮浪者一直線なのだ。


「あのー、失礼ですけど……あなたは?」

「ん? ああ、名乗っていなかったな。私の名はバージル・フルブライド。財務大臣を務めている。よろしく頼むよ」


 ……外見からは想像もできなかったが、かなり偉い人だった。


「な、なんで大臣がイレーネさんに?」

「ふむ……。詳しくは話せないが、彼女は気まぐれかついい加減で、どうにも好奇心を優先するところがあってね。予算を管理する財務大臣としては釘を刺しておきたいところなのだよ」

「それだけのことでわざわざ大臣が来るんですか?」

「……部下では適当にあしらわれるだけでね。彼女もかなりの高官だしな」

《相変わらず苦労人っぽいぜ》


 イレーネにはどうやら狂科学者マッドサイエンティスト気質があるようだ。

 

「なるほど、そうですか。……イレーネさんは今出かけてるんですが」


 気の毒だとは思うが、大人しくイレーネの元へ案内するわけにはいかない。


「そうか。では待たせてもらうとしよう」

「えっ!? いや、かなり遅くなると思いますよっ」

「……いったいどこへ行っているのかね?」

「ああっと……そうっ、研究資料を探しに行くって言ってました!」


 追及してくる大臣になんとか言葉を返すヒロト。

 ここで踏ん張らねば明日をも知れぬ身なので必死である。


「……またか。彼女にも困ったものだ」


 どうやら適当に言った言葉はイレーネらしい行動だったらしい。

 安堵するヒロトだが、大臣が続けて放った言葉に動揺する。


「こうなっては局長から解雇するしかないか……」

「ええっ!? そ、そこまでしなくてもいいいんじゃないですか!?」

「しかしあまり生産性のない研究に予算は工面のだよ」


 非常に不味い。現在のヒロトの立場は実質的にイレーネの紐である。

 ここで彼女に無職になられるのは具合が悪い。


「いや、ちゃんと生産性のある研究ですよ!」

「ほう、では一体彼女はなんの研究をしているのかね?」


 全力で頭を回転させる。目の前の相手を納得させる研究を――。

 しかし、たいして頭もよくなく魔法に関しても無知なヒロトである。

 そう都合よく思いつくはずもない。

 焦りからパニックになり勝てるヒロトの目に光明(・ ・)がきらめく。


「……け……」

「……け?」

「毛生え薬です!」

「……なにっ!?」


 ヒロトの言葉を聞いた大臣が――()()()()()()()大臣が思わず身を乗り出す。


「んんっ! 失礼したね……それでその話は本当なのかね?」

「も、もちろんです!」

「うむ、そうかね。……となると解雇の話はひとまず保留としようか。いや、国民にも役立ちそうな研究だからね」

「そうですね、ア、ハ……ハハ……」




 なにやらはしゃいだ様子でイレーネの家を後にする大臣を見送り、ヒロトは力なく座り込んだ。

 ――危なかったがなんとか凌ぎきった。しかしこれで終わりではない。

 これから先の苦労を思い浮かべて頭を痛める。

 

 先程の話を嘘にしないためにイレーネを説得せねばならない。

 異世界に来てまでなにをやっているんだ――ヒロトはため息をつかずにはいられなかった。

一言「大臣だからって悪人だとは限らない」

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