1 冒険者ギルドに行ってみる
その建物内部は広く開放的で、清潔感を保たれていた。
壁際には用途のよくわからない大きな箱型の物体が置いてある。
いくつか椅子とテーブルが並べられていて、何人かの男女が談笑したり、軽食を取りつつ座っている。
また、奥にあるカウンターの内では職員がのんびりと働いているようだ。
「……申し訳ありませんが、ギルドへの登録は許可できません」
「……は? ど、どういうことだよ!?」
そんな建物内に声が響いた。
声を上げたのは黒髪黒目の十代半ば頃の少年。
中肉中背で、人の目を引くような特徴はない凡庸な容姿をしている。
その少年の相手をするのは、少年よりやや上の年頃の少女。
栗色の髪をショートカットに切りそろえた、整った容姿だがどこかぼんやりした様子の少女で、ギルド職員の制服に身を包んでいる。
「……どうと申されましても……単に既定のレベルに達していないからですが」
「規定レベル……つまり一定以上のレベルでないと冒険者になれないってことか?」
「……はい、そうです」
なるほど、と少年は納得する。
冒険者と言えば凶悪なモンスターや、悪辣な犯罪者を相手取ることもあるのだ。
一定以上の実力がなくては駄目だと言うのは理解できる。
ならばレベルを上げてからもう一度来ようと思い質問することにする。
「それじゃあ、いったい何レベルからなら冒険者になれるんだ?」
「……規定では……50レベルからになります」
「……ごっ、ごじゅう……れべる……?」
職員の少女から返された規定レベルに少年は言葉を失う。
(50ってなんだよ!? 50って! 下手なRPGゲームならラスボスを倒せるレベルじゃねーか!?)
そんな風に叫びたいのを必死に抑える。
このギルドに来るまでの事を思い返し、ふと思いついたことがある。
そうであってほしくないと、祈るような気持ちで質問を重ねる。
「……あの、……お姉さんのレベルはいくつなんですか?」
「……私のレベルは……32……ですね」
「さんじゅう……に……?」
悲壮な顔でギルド職員の少女に詰め寄る少年は、無情な返答に言葉を失う。
「……またのお越しを……お待ちして……おります」
夢遊病者のようにフラフラとギルドから出ていく少年――徒花浩人の背にきわめてビジネス的な声が送られた。
◇ ◇ ◇
「なんなんだよ……この世界は……?」
ギルドから出て公園へと辿り着いた浩人は、ベンチに腰掛け頭を抱えていた。
違うのだ、こうではないのだ――浩人が想像していた異世界召喚は。
異世界人としてがんがんレベルを上げて、凶暴なモンスターや非道な悪人を蹴散らし、魔王や邪神を倒し世界を救い、そんな自分に惚れた可愛い女の子たちとイチャラブし、最終的にはハーレムを築く――それが浩人が想像していた異世界召喚なのだ。
だが現実はレベル不足で冒険者にはなれず、職員の女の子よりも弱いという体たらくだ。
とはいえ……ギルドにたどり着く前からなんとなく嫌な予感はしていたのだ。
浩人はその予感から必死に目を背けていたというだけの話である。
「なんでこんな事になっちまったんだ……?」
牛のように呻きながら、浩人はこの世界に召喚された時のことを思い出していた――。
一言「異世界人のレベルが低いとは限らない」