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小夜物語 short tales of long nights   第38話   「おしろい花の谷の娘」girl of the Four-o'clock valley

作者: 舜風人

むかーしのことじゃった。


ある山深い村に「たえ」という、、そりゃあ美しい娘がおったそうな、

たえは、ばあ様と二人暮らしで山裾の小屋に住んでいたそうな。

たえの家のまわりには赤や白のおしろいばながいっぱい咲いておっていつもいいにおいをはなっておったのじゃ、


そんな、たえが18の時、なんと、ばあ様がぽっくりなくなってしもうたのじゃよ、

たえは全く独りぼっちになってしもうたわけじゃ。

山深い村とはいえ若者もおってな、村の若者はたえの美しさに誰も


「俺の嫁にばしたいものよ」と心の中では思っておった。

だがたえはそんな若者たちの求婚もすべて見向きもせず

相変わらず一人で機を織ってくらしておったのじゃ。

そんな若者の中に「新蔵」という猟師の若者がおってな、

「どうか俺の嫁になってくれろ」と口説くのでしたが一向に振り向いてもくれませんかった。

たえは哀しそうに「わたくしは結婚できない娘なのです」というばかり、、、。


新蔵はどうしても嫁に欲しくってとうとうあることを思いついた。

それは一人暮らしの「たえ」を無理やり寝ているすきに蒲団ごとさらってきてしまおうというものでした、

とはいえ、、ばあ様が死んでからこの「たえ」がたった一人でどうやって

くっているのか?それは誰も知らなかった。


ただ、、村長がたまーに訪問しても、囲炉裏には鍋が煮立っているし

米俵も土間にあるし、、着物も身綺麗なものがあるし

困った風は一向に感じられんかったのじゃ。


でも?どこからそんな生活品を調達してくるのか?

まあ不思議なことじゃった。

だいいちあの機織りの糸だってどこから誰が持ってくるのか?

謎ばかりじゃった。



さてそんなある夜、

新蔵は、とうとうあの計画を決行しようと、村はずれの「たえ」の家に向かっていた。

草を掻き分け家に近づいてみると、夜中を過ぎているというのに

「たえ」の家には明かりがともっていて寝てない様子。

おしろいばなのいい香りが漂っておった。

そっとおしろいばなを踏み分けて、、

新蔵はたえが寝るまで待つことに、、、。

だがいつまでたっても灯りは消えず、、

とうとう明けの鶏が鳴く始末、、

と?

家の格子戸がごとごとと開いてたえが出てきた。


その姿は朝焼けの中で見れば、どこかへ出かける衣服を着ていて

すたすたと山の奥に向かって歩いていくのです。

その足の速い事、早い事、

新蔵も必死で跡をつけて行くと、どんどん山道を進みやがて見たこともないような山奥まで、、

この山にこんなところあったかな?という見慣れない広い草地に出ました。

遠くを見ると大きな岩の小山が草地の中にあって、、そこへたえが吸い込まれるように消えて行ったのです。


あわてておいついた新蔵が見ると、高さ10メートルは有ろうかという岩山です。

登ってみると、多恵の姿はどこにもありません。

しかしよーく見まわすと岩山の窪地に1メートルくらいの穴があいてるではありませんか。


新蔵はそこへ体をもぐりこませます。

あっという間もなく滑り落ちて、、見ればそこは大きな空間でした。

桃色の光がどこかから射してきていて、、甘い香りもしてきます。

光の方へ這っていくと、そこはぽっかり穴が開いていて

覗きこむと、その先は見たこともないような、広い広いお花畑で一面に

あかや白のおしろいばなが乱れ咲いているのでした。


甘ーい香りも漂ってきて、、

そのお花畑の中には、、美しい娘たちが、、10人、、いや

20人も、、花をつみ、花輪を作り、、楽しそうに踊り戯れているのでした。

新蔵は穴を出てそのお花畑に足を踏み入れました。

桃色のそらには明るい光がどこから射してきて

見わたす限りそこはおしろいばなのお花畑でした。

甘い香りも馥郁と漂い、、、。そのまた彼方にはまるで竜宮城のような宮殿もあるのです。


こんなところがこの村の、山の中にあるはずがない、

ここはどこか別世界だ、新蔵はそう思いました。


群れ踊っている娘たちを見晴かすと、その中に見慣れた娘が、、そうです、たえでした、

新蔵は思わず大きな声で「たえー」と叫んでいました。

それに気づいた多恵は近づいてきて


「いったいなんでこんなところまできたの?ここは人間の来るところじゃないのよ」といってしかるのでした、。しかし見慣れない若者がいることに気がついたほかの娘たちがちかづいてきて

「おやまあ、人間がいる」といって睨みつけるのだった。


次の瞬間、、おしろいばなの花畑の彼方の竜宮城から

突然強風が吹いてきて、、おしろいばなはみるみるふきとばされ、

ちぎれて、、みるみる枯れていくのでした、

そうしてあんなにたくさんいた娘たちの姿は掻き消えて、、

今は枯野と化した草原には襤褸着をまとった「たえ」が青白い顔をして立ちすくんでいるばかり、、

たえは近づいてきてこういうのです。


「私たちの父は風の神で、、母は花の神で、、その娘なのです。ここは人間は来られない

おしろいばなの楽園です、そこで私たちは、はなを守り、、永遠に咲かせ続けるのです。でも

こうして人間が来てしまったからもう楽園は失われて2度と花は咲かないでしょう。

そして人間界におしろいばなの使者として使わされていたこの私も

いまやこの楽園から追放されるしかないでしょう。」といって泣くのだった。


次の瞬間、

突然巨大な鬼面が空中に現れて、多恵と新蔵を睨みつけて

「お前たちは罪を犯した。だから、罰を受けねばならない。」というがはやいか


空中には雷鳴がひらめき一瞬真っ白な光が充満し新蔵は目がくらみ気を失っていたのでした、







それから、、、、、

どれほど時間がたったでしょう。


新蔵が目を覚ますと、、そこはあの見慣れた自分の村の、、たえの家でした、


「たえ?ここはどこ?」と聞くと、


「何言ってるの、昨日、私が朝、外に出てみると、あんたがおしろいばなの上で寝てたのよ。

いくら揺すっても起きなくて、、気を失ったみたいで、、ずっと24時間眠り続けたのよ。

死んじゃったのかと思ったわ。よかった気がついてくれて、、」というのだった。


新蔵には、、いったい、どうなってるのか?サッパリわからなかった。


というか、、、


あれは夢だったのだろうか?

そこへたえが水を持ってきてくれて

飲むように勧めて、、


「そんなに私のこと、思ってくれてるなら、、

嫁さんになってあげてもいいよ」

と、、うれしい返事をしてくれるのだった、、、。


新蔵はうれしくて、、、

むっくり起き上がってふと、縁側から外を見ると、、


庭先には、、今を盛りと

赤や白の


おしろいばなが


甘い香りを漂わせて、、


一面に咲き乱れているのでした。






終り










































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