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王の友  作者: ARIKA
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初戦

ガイド卿は各地の砦と町を経由しながら、アーサーの領地の近くまで軍を進めていた、途中警備のために王都から連れてきた兵を各地に配備しながらの進軍だった。

しかし、各地で加わる兵もいて真新しい顔が多かったが、結果として4000まで兵が膨れ上がり王都を出た時より数の上では多くなっている。

ガイド卿は平地に陣を構え、数十人単位の斥候隊を出し情報収集を開始した。

ガイド卿は複数の指揮官を本陣に集めると、斥候隊が戻るまで現在わかっている状況を確認し意見を出させていた。

「アーサー卿は降伏するとは思えません。今まで通ってきた町々でもアーサー卿を英雄視するものが多く、我々に降ればその名声も地に落ちる。」

「下級貴族だといえ高いプライドがあるはずだ、そんなもの戦場では役に立たない事を教えてやりましょう。」

「確かにその通りだと思うが、奴のもとにはそれ相応の数がそろうのでは。」

「報告によると、ベイドン丘の戦いでは100にも満たない兵士か連れてこなかったと。それを考えると2倍3倍に膨れ上がっれいる可能性はありますが、よくて1000名ほどかと。」

兵士たちは自由にそれぞれの意見を言うと、顔色を窺うように一点を見る。

その視線が集まる先には、この戦いの司令官に任命されたガイド卿が腕を組んだまま座っていた。

この場に集まった指揮官クラスの者たちの大半は、古くから軍事に関わっていたものが多くガイド卿とは経験がまるで違う。

それなのになぜ彼が司令官を任されたかというと、それは唯一アーサー卿と面識があり共に戦場を経験したことがあるためである。

共に経験したといっても、アーサー卿は華々しく初陣を飾りガイド卿は逃げ帰っただけであるが。

「奴は。」

皆の視線に耐えかねて口を開いた瞬間、間の悪いことに斥候隊が戻ってきた。

兵士たちは苦笑いを浮かべ、ガイド卿は怒りを押し殺しながら軽く顎を突き出して報告を促す。

「報告します。アーサー卿と思われる軍勢はここから2キロほど進んだところに陣を構えていました、数は約400前後多くても500ほどかと。」

兵士は報告を終えると、ガイド卿の視線から逃げるように一礼をしてテントを出て行った。

すると一番右奥に座っていた40前後の兵士が徐に口を開く。

「多くて500か我らの8分の1ですな、普通なら楽な戦いだが相手はベイドン丘の戦いでも約10倍の敵を打ち負かしたというし。」

「確かに今の現状は酷似しているが、寄せ集めの部族ではなく正式な軍隊を相手にした事がないはずだ。」

その向かいに座っていた兵士が右手を顎に当てて、考えるような仕草をしていた。

「ガイド卿はどう思われますか、先の戦いでアーサー卿とは御一緒だったと聞き及んでいますが。」

入り口付近に座っていた、この中でも一回り大きい巨漢な兵士が重い声でガイド卿の方を見ながら話していた。

今日何度目かわからない不快な名にガイド卿は額の傷がズキズキと疼くように痛み出し、内心怒りで狂いそうになるがそれを隠しながら少し暗い声で。

「奴が頼れるのは先の戦いで行った中央突破のみだと思う。成功したという自負もあるし、なにより兵達が付いてこないだろ。そうは思いませんかニール卿」

「確かにあまり戦争の経験がなければ、成功したことにしがみ付きたくなるか。」

ニール卿と呼ばれた、巨漢な兵士は頷きながら返していた。

その時1つの手が上がり、皆の視線がニール卿から手の持ち主に集まった。

視線の先にいたのは、この中で最年長のクレータム卿だった、クレータム卿は先日処刑された将軍の副官として数多の戦場を駆け抜けた歴戦の兵士だった。

見た目は50歳前後で頬はやや痩けていた、しかしその言葉の1つ1つが重厚感があり、この中でも一目を置かれていた。

「中央突破でくるなら、策はありますぞ。ニール卿自慢の兵士に協力してもらえれば。」

クレータム卿はニール卿の方を見るとにやりと笑う。

次の日ガイド卿とアーサー卿の軍勢は平原で対峙することになっていた。

斥候隊の情報通りアーサーの軍膳は500ほどで、その報告を本陣で聴いたガイド卿は心が震えていた。

やっと奴を殺れると、アーサー卿は約500そのほとんどが歩兵で騎馬が10騎ほどしかなく、ほとんどが歩兵だった。

対してガイド卿は、第一陣歩兵2000、2陣重歩兵500、3陣弓兵1000、4陣本隊の騎馬500。

数字の上では圧倒的に討伐軍の方が上で、負ける要素が思いつかずアーサーの首を切り落とすことしか考えていなかった。

予想道理先にアーサーの軍勢が動く出す、最初は歩きでゆっくりと近付き徐々にスピード上げ。

ガイド卿たちから見れば無謀以外考えられない、皆手に盾は持ってはいるが木製の直径30センチ前後で顔を覆い隠すことしかできず。

弓隊の攻撃のみで倒せるのではないかと錯覚させるほどひどい状態で、策を用いる必要はないように思えた。

アーサーの軍勢は弓の射程距離に入る瞬間、一騎の騎馬兵が陣形を引き連れるように先頭に出てくるとそのまま走り出す。

白い馬にまたがり全身を覆う白金製の鎧を身に着け、兵士たちの先頭に立ち引っ張ろうとするその姿はまるで騎士そのもので。

その背中を追うように他の兵士たちも、顔の前あたりに盾を突き出しながら無我夢中で走り出す。

それを見て第1陣の指揮官が手を上げて合図を下す、その瞬間第1陣が左右に分かれ後ろの重歩兵の第2陣と場所を入れ替えた。

これが先ほどの会議で出た策だった、クレータム卿いわく。

「まず最初に突破しやすい歩兵を1陣目に構えて、こちらが油断してると思わせて、中央突破できると思わせます。そして相手が引き返せない距離そうですね、こちらの弓兵の射程に入ったら、第1陣を左右に分けて、ニール卿の軍勢と入れ替えます。、この時1陣の指揮は。」

クレータム卿は左右を見渡す仕草をすると、先ほど意見を言っていた40前後の兵士のチェンジャ卿を見ながら。

「チェンジャ卿と向かいの、リペイド卿がよろしいかと。二人とは、戦場で何度か共に戦ったことがありますがその時の動きを考えると適任かと。」

ガイド卿の方を見ながら言うと、ガイド卿は静かに頷き2人もすぐに頷いた。

それを見て安心したのか、クレータム卿は再び微笑んだ。

「第2陣は重歩兵で相手の突撃も防げます。相手は味方に押し潰されるか、槍の餌食になります。その後退却する敵兵の背中に矢を打ち込むも、下げた第1陣で追撃するのもよいでしょう。」

その言葉で皆が頷き、近くの者と意見の交換をしていた。

「しかし。」

クレータム卿が一喝すると、皆が話すのを止め声の主の方を見た。

「問題もあります、1陣と2陣を入れ替えることによって陣形が崩れやすく。味方が動いている間は弓兵も射ることが出来ず、相手の接近を容易にさせることに繋がります。もしもの事態には対応力が少なく被害が多くなることもあるので、肝に銘じてください。」

最後に付け加えるように言うと、静かに口を閉じた。

ガイド卿はもう決めていた、この作戦なら確実にアーサーを殺れると。

チェンジャ卿が1000の兵を連れて右側にリペイド卿も1000の兵と左側に動く、そしてニール卿自慢の重歩兵が前に出てアーサー卿の軍勢とぶつかった。

重歩兵は全身を黒い鎧で覆い、身の丈ほどの盾を待っていた。

重歩兵は盾を地面に刺すように持つと、両手でしかっりと押せえ地面に根を生やすようにかまえ衝撃に備える。

するとすぐに衝撃が走り体中の骨が軋む様だったが、作戦通り先頭を走っていた騎馬兵は鉄の塊にぶつかり吹き飛ばされていた。

しかし白金の騎士は前方に投げ出されるよいうに飛ばされている、それは馬がぶつかった衝撃を利用するために、重心を前方に傾けて前のめりになるようにしてぶつかり、その反動で重歩兵の1列目を飛び越えたためである。

着地はお世辞にもうまいとはいえず、背中から落ち2度3度回転してから止まった。

兵士は起き上がると透かさず先ほど飛び越えた兵士に背後から近づき、腰の剣を抜いて兜と鎧の隙間に剣を刺し込んだ。

首を貫かれた兵士は声を出すこともできず、苦悶な表情を浮かべ小刻みに痙攣を繰り返す。

白金の騎士は相手の背中に片足を押し付けると蹴る様にして剣を引き抜き、剣を頭上高く掲げると唸り声を上げた。

「うぉぉぉぉ。」

それは戦場に響き討伐軍の手が止まり声の主に視線が詰まり、時が止まったように静まり返り静寂に包まれる。

叫び声を合図にアーサー卿の歩兵が次々と重歩兵の1列目に、体当たりをするように全身でぶつかっていく。

1列目の兵士たちは後ろから聞こえてくる叫び声に意識を取られ、一瞬だが力を抜き強張らせていた筋肉を緩ます。

普段なら耐えれるはずだったが、力が抜けている状態では地面に根を這うこともできず、前方からの衝撃に耐えることができず。

自らの盾の重さに押しつぶされ、1列目は重歩兵は役目を果たせず次々に討たれていく。

白金の騎士は唸り声を上げるとすぐに後ろを振り返り、2列目の重歩兵に盾の上から蹴りを入れた。

予想外な事に目の前に敵がいて、戦場で蹴りを入れてきて何より1列目が崩れかかっている。

様々な予想外なことに思考が止まっていた兵士は状況を理解する前に、その蹴りで仰向けに倒れてしまった。

倒れこんだ兵士の上に盾が覆いかぶさっり身動きが取れなくなると、白金の騎士は盾の上から兵士を踏みつけて杭を打ち込むように動きをとれなくさせ。

右手に持った剣で兜の上から2度3度叩くと、白金の兵士は生死を確認せず。

倒した兵士が右手に持っていた槍を拾い、さらに奥にいた馬に乗っている巨漢に向かって槍を投げた。

槍は吸い込まれるように、巨漢の兵士が乗っている馬の額に刺さり嘶きを上げ倒れこむ。

白金の騎士は刺さるのも確認もせず、そのまま再び雄たけびを上げ。

崩れかけていた1列目の兵の後ろから近づき、左手で相手の肩を掴み右脇の鎧の隙間から剣を刺しいれ。

えぐるように引き抜くと、その兵士をそのまま押して倒しその上を駆けて行った。

ガイド卿は本陣で馬上から戦場を見渡している、作戦通り進んでいるはずなのに前線が騒がしい事に不思議そうな顔をしていた。

隣にいた副官に話しかけようと振り向いた瞬間、まるで獣の叫び声の様な唸り声が聞こえてくる。

「うぉぉぉ。」

一瞬寒気がして身震いをすると、両手で耳をふさぐようにしてうずくまり、恐る恐る声の主を探す様に目を細めて体を乗り出していた。

「おい、何があった。」

ガイド卿は先ほど言いかけた事を副官に聞くと副官は。

「確認してきます。」

おびえた声で短く返事をすると、一礼して馬の腹を蹴って走り出した。

少しすると再び唸り声が聞こえてきた、先ほどと同じ声だった。

すると副官が息を切らせながら戻ってきて、ガイド卿の前に来ると馬から降り片膝を付きながら。

「報告します。第1陣のニール卿は戦死、前線は混乱していて収拾がつきません。」

ガイド卿は奥歯を噛みしめながら、目を見開きゆっくりと口を開く。

「詳細を報告しろ、なぜニール卿が死んだんだ。」

「情報は錯綜していてはっきりとは言えませんが、第1陣と2陣の入れ替えは成功しましたが、1陣目の重歩兵が敵の侵入を防ぐことが出来ず。ニール卿の馬に流れ矢の様なもの刺さり、頭から落馬して亡くなったもようです。」

副官がそこまで言うと、ガイド卿は兜を脱ぐと力一杯地面に投げつけていた。

副官はいきなりの事で、思わず顔を上げて言葉を切ってしまうが、少し野間の後副官は我に返って再び頭を下げると。

「失礼しました。報告を続けます、敵部隊の中に白金の鎧を着た騎馬兵がいたと報告がありました。もしかしたら、アーサーめではないかと思われます。」

言い終えてから、気づいてしまったが。

これは言わない方がいい事だった、アーサーが前線にいると知れば司令官がどの様な行動に移るかは、非を見るより明らかだった。

「アーサーだと、やはり奴が突撃の指示を出していたのか。」

ガイド卿は副官を上から睨みつけるように見ると、笑いながら額に手を当てていた。

その傷口からは血が流れ出しガイド卿はそれでも笑うのを止めていなかった、周りに居る者はガイド卿の独特の雰囲気に恐怖すら感じていた。

ガイド卿は笑うのを止めると俯く様に顔を伏せながら口を動かす、しかし呟くように言ったせいか周りの者には聞こえていなかった。

「突撃だ。」

だんだんと大きな声で、淡々と何度も呟いていた。

その言葉を聞いた瞬間、クレータム卿は立ちふさがる様に前に出てきた。

「司令官冷静になって下さい、明らかに罠だと思われます。今は陣形の再編成と、敵部隊の動向探るために斥候をだしてから進まれるのが上策です。奴らは逃げることはできません、町さえ押さえてしまえば、いいのですから。」

クレータム卿の進言は的を得ており、他の指揮官も次々とガイド卿を諌めようとしていた。

ガイド卿は顔を上げると、皆の顔を見てから。

「突撃は言い過ぎた、しかし敵はそろそろ後退する。それに乗じて追撃を行えば指揮官の首を取ることが出来る。」

先ほどとは違って、感情が籠っている声だった。

「クレータム卿、貴殿は第1陣の指揮を引き継いで本陣の後ろに付け。2陣の歩兵で相手部隊を追撃し、その後方に本隊を置き後ろを守るように重歩兵。クレータム卿は重歩兵を率いて後方などの伏兵に当たれ。追撃戦に弓隊は向いていない、弓隊はこの場で待機して周りの警戒。本体からの指示を待て。」

ガイド卿はクレータム卿を見ながら、命令を告げた。

クレータム卿は息を静かに吐くと、肩を少し落とし。

「了解。」

短く返事をしていた、本当なら進言を聞く場面だったが、ガイド卿はアーサーに対しての嫉妬や恨みが、その背中をほんの少し押していた。

自分の中では冷静でも、頭の中のほんの一か所だけが冷静ではなかった。

ガイド卿は歩兵部隊を先行させると、その後ろを騎馬隊を率いて進んで行った。

アーサーと思われる部隊は背中を見せたまま走って後退していった、中には転倒してガイド卿の兵に殺される者さえいた。

ガイド卿にとっては、先ほどの戦闘に居た白金の兵士の事しか頭にはなかった。

「進め。」

腰の剣を抜き先端を前方に突き出しながら叫んでいた、馬は速く前方の歩兵を追い越しそうになっていた。

それを見て、護衛の騎馬兵がガイド卿の前を遮るように前に出て振り向きながら。

「司令官前に出すぎです、司令官が亡くなれば全軍が崩壊します。」

ガイド卿は奥歯を噛みしめながら、馬の速度を落としていった。

それから少し追撃すると、左右に30センチほどの草が茂っている地帯が見えてきた。

敵部隊は速度を落とさずその茂みの間を走って行った、リペイド卿は伏兵を警戒して部隊に速度を落とす様に指示を出した。

しかし、チェンジャ卿の部隊は速度を落とさずそのまま進んで行った。

リペイド卿はすぐに、近くにいた複数の兵に対して強く大きい声で。

「すぐにチェンジャ卿の下に行き、伏兵の可能性があるため速度を落として、偵察を出すべきだと伝えろ。すぐに行け、これは一刻を争う事だ。」

命令された兵はすぐに走り出す、しかし進行中の味方に伝令を行うのはどれほど難しいかを熟知していたリペイド卿は、相手に不快な思いをさせると分かっていても複数の兵士を伝令として出した。

チェンジャ卿は馬上から、部隊の指揮をしていた。

「行軍速度を上げろ、伏兵が出る前にここを抜けきるぞ。」

彼も伏兵を警戒していた、しかし彼にしてみれば見た感じ茂みのある場所はそう長くはなく、その気になればすぐに突破できそうだった。

作戦のため指揮系統を分けたのは正解だった、だが予期せぬ出来事に対しての対応力は低くクレータム卿が危惧していた事が現実のものとなった。

2人の指揮官の相異によって、部隊の陣形は細長くなり前衛が突出してしまった。

前衛のチェンジャ卿が茂みを抜けた頃、ガイド卿の部隊は茂みのある場所に入っていた。

ガイド卿は前衛部隊が奥に進んでも、伏兵が出てこなかったっ事にほっとしながら、馬の腹を蹴って少しだけ馬の速度を上げた。

すると、追撃していた敵部隊が急に止まって屈んでいるようだった。

チェンジャ卿は敵の奇妙な動きに対して、一度止まる様に指示を出すために、口を開こうとしたその時、前方の部隊がこちらの方を向きその手には弓矢が握られていた、それが弓矢と判断できた時にはもう矢の雨が降ってきている。

ガイド卿は目の端で捉えていた護衛の騎馬兵が急にいなくなった。

周りを見渡すが護衛の兵は一人もいなくその時影が差したように周りが暗くなっていた。

最初は雲でもかかったかと思い、空を見上げると空一面に何かが降ってきていた。

ガイド卿がそれを認識する前に、彼の意識はそこで途絶える。

後方にいたクレータム卿は左右の茂みから、弓が飛んできている光景を目にしていた。

一瞬足を止めて思考が停止していたが、すぐに思考を切り替える。

敵の伏兵は、前衛は、司令官は、敵の規模は、最悪の事態を予想しながら、色々な考えが頭の中を巡っていた。

その間およそ10秒ほどでクレータム卿は決断を下す、これは数多の戦場を経験していたこそすぐに行動に移せていた。

「重歩兵はすぐに後退しろ、このままだと味方の後退を遮ってしまう。後方には撤退命令を出せ、これ以上被害を出すわけにはいかない。」

クレータム卿は敵の正確な数がわからい事に対して、危機を覚え全部隊を後退させながら追撃備えた。

この時、左右の茂みに突入して敵部隊を叩く、もしくは部隊を迂回して前衛の援護など、色々な選択肢があったが。

クレータム卿はあえて前衛を見捨てて被害を減らす方を選んだ、弓隊と重歩兵撤退してくる部隊を合わせれば少なくとも2500以上にはなる。

それなら、敵部隊の追撃を防ぐことが可能で復讐戦も可能な範囲と判断していた。

もしも、この判断が間違っていた時は死を覚悟し判断を下した。

白金の騎士は右手を上げると、周りの兵は矢を放つのを止め改めて周りを確認すると味方の兵は皆傷だらけで肩で息をしている。

それと同じ頃、左右の茂みからの矢も止んでいた。

「追撃はするな、敵味方区別せず傷の治療と生存者の確保を急げ、まだ息がある者もいるはずだ。」

白金の騎士は激を飛ばすと兵士たちは先ほどまで矢を射っていた場所に歩き出し、同じ指示が左右の茂みからも出てきた。

白金の騎士は味方に何も告げずにそのまま、右側の茂みに入っていく。

少しばかり進むとそこには銀の鎧を着た兵士と、黒い鎧を着た兵士が立っていた、2人とも腰には剣を挿している。

白金の兵士が兜を脱ぐとその下からは黄金の瞳と髪の毛はしているが、アーサー本人ではなく友と呼ばれていた彼だった。

続いて銀の兵士が兜を脱ぐとその下から、黄金の瞳と髪の毛のをしたもう1人の青年があらわになりアーサー本人だ。

黒い鎧の兵士が兜を脱ぐと、その下から長い髪があふれ出し風になびく。

彼は跪くと頭を深く下げ、地面を見ながら。

「主よ、勝手ながら追撃の命令をせず。敵味方の治療を行ったことを深くお詫び申し上げます。」

彼は俯きながらアーサーに対しての非礼を詫びを述べた彼の鎧はアーサーが先の戦いで着ていたものであり、その鎧には真新しい傷が幾つもあり特に背中には叩きつけられた時の衝撃で大きく凹み口元には血が渇いた跡があり戦いの最中唇を切っていた、アーサーは跪く彼に近付くとその肩に手を置いて。

「お前は悪くない、最良の判断だった。この戦いで昨日まで笑い合っていた者や、友、家族や兄弟と戦った者さえもいたかもしてない。そんな戦いだった、だからこそ無駄に殺すことはない。この戦いはまだ始まったばかりだ、将軍の側に付かないと決めた時からわかっていたつもりだった。しかし、実際目の辺りにするとひどいな。ベディヴィア貴方にとっては、初めての戦場だったな。」

黒い鎧を着こんでいたベディヴィアに対して顔だけを向け、振り向いたアーサーの目には微かに涙が浮かんでいた。

「はい。私は初めて戦場に立ちました、この血と泥の混ざった匂いは一生慣れることはないと思います。」

その横顔は正直美しいと思った、しかしその顔には汗と疲労の色は隠せてはいなかった。

彼は2人のやり取りを聞きながら、今回の戦いの事を思い出していた。

彼とアーサーはベディヴィアの会談を終えるとすぐに、兵の募集と傭兵をかき集める指示を出した。

しかし、ベディヴィアは思い掛け無い事を口に出した。

「アーサー卿、実は私めの周りに居る兵達は私の部下ではありません。」

ベディヴィアは膝を付いた姿勢のまま、顔だけを上げると。

「この者たちは、近くのカーディフ砦とシェフィールドの町と、その周辺の警備を行っていた者たちです。この者たちはアーサー卿の下で戦いたいと集まってきた者たちです。我が領地も合わせると、約1000ほどの兵を集めることが可能です。」

アーサーは驚いだ顔をしたが、すぐに真剣な顔つきに変わった。

「今ある資金と募集で、どの程度集めることが出来る。」

アーサーは護衛の彼に対して、ベディヴィア達の方を見ながら聞いてきた。

「400、いや陛下からもっらた報酬も合わせれば500が限度です。」

彼は最初に少し悩んでから、途中言い直しながらアーサーに返す。

「合わせれば1500、相手の数はいまだ未知だが、多くても5000はいかないか。」

アーサーは顎に手を当てながら、何度も唸っていた、周りの者達は不安で気が気ではなかった。

「勝算はある、すぐに兵を集めるだけ集めろ。」

アーサーが激を飛ばすと、ベディヴィアの周りの兵達はまるで示し合わせていたように。

「了解。」

と短く返事をして走り出した、彼らの返事は大きく力強い声でまるでアーサーを信じて疑ってはいないようだった。

それから数日後、領地である町に戻った時ある知らせがアーサーの下に届いた。

「王都からの討伐軍来る。司令官はガイド卿兵は約4000、指揮官の中にはクレータム卿とニール卿が確認されたり。」

この内容に一番驚いたのはアーサーだった、ガイド卿は先の戦いで共に戦場に立った戦友といっても過言ではない間柄だった。

ニール卿はこの国で一番の重歩兵を率いていて、近隣にもその名を轟かしていた。

クレータム卿は目立った活躍はなかったが、将軍の副官として数多くの戦場を生き抜いた人物であり、敵に回すと一番厄介な人物だ。

アーサーはすぐにベディヴィアを呼んで会議を始めた、他の指揮官たちは兵士を集めたり、部隊の連携などの現場の準備が忙しく。

護衛の彼とアーサーそしてベディヴィアしか、集まることが出来てはいなかった。

会議はアーサーの家の一室で行われていた、2人は椅子に座って護衛の彼だけがアーサーの横に立っている。

部屋の真ん中にはテーブルがありその上には大量の本や資料が乱雑に置いてあった、その資料の多くは戦いに関するもので兵の動かし方から心理戦のやり方まで数多の資料が置かれていた。

その中から、アーサーは一枚の紙を出すとベディヴィアの前に置く。

彼女はその紙を手に取ると内容を目で追い、その顔は見る見るうちに困惑に変わっていく。

「司令官がガイド卿で、クレータム卿とニール卿が来られると聞いた時これしかないと思った。」

アーサーは真剣で鋭い目でベディヴィアの方を見ていた、その視線はぶれることがなく一点を見つめている。

「確かに成功すればかなりの戦果は期待できます。しかし、偶然や運の要素が多すぎます。」

ため息をつきながら手に持っていた紙をテーブルの上に置き、椅子の背もたれに体を預けて天井を見上げた。

「ベディヴィア貴殿の言いたい事は分る、ここまでくれば心理戦の領域だ。でも、圧倒的な不利を覆すには奇襲や奇策しかない。貴女なら理解してくれる、そのために呼んだのだから。」

アーサーの提案した作戦は最初に部隊を3つに分けて、1部隊が敵と戦ってわざと負けて、追撃してくる敵に対して左右に伏せていた部隊で矢の雨を降らし。

最初の負けた部隊が、途中に隠していた弓矢で敵前衛部隊に攻撃を仕掛ける。

この作戦の利点は、左右からの矢の雨で敵部隊は混乱に陥って突出していた部隊も後方の部隊が脅かされていると分かると兵の士気は落ち中には混乱する者も出てくる、その時前方からも矢が飛んできたら、もう収集はつかず混乱は伝染する。

そのまま全軍が混乱に陥れば撤退か後退しか選択肢はなく、大軍を打ち破ることも可能だった。

しかし、この作戦には問題も多く、ただでさえ少ない兵をさらに少なくして、しかもその部隊で一度敵と戦い味方の被害を抑えつつ撤退、誘導を繰り返していかなければいけない、離れすぎても近すぎても駄目だ。

もし成功しても、敵があからさまに伏兵がいそうな所を通ってくれるのか。

そして、左右のタイミングが少しでも狂えば奇襲の意味はなさない、他にも幾つもの問題を抱えていた。

確かにここまでくれば、戦いではなく心理戦といっても仕方なかった。

アーサーは半分呆れた顔をしたベディヴィアに対して、さらに驚くことを言い出した。

「部隊の指揮を、自分と護衛の彼そして。ベディヴィア、貴女に任せたいと思う。」

アーサーは横の彼を見た後に、一度言葉を切って彼女の名を告げた。

ベディヴィアにとっては、先ほどの作戦よりさらに驚いて、目を見開いたまま体を硬直させていた。


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