反乱するものと決別するもの
先の戦いの傷が癒えた頃、王都では現国王の戴冠30周年の記念式典の準備が行われるために。王都のあちこちには飾り付けがされ。
王都の中も他国の人々が目立ち隣国の使者や、自分の領地に籠っていた貴族などもこの日のために、王都に来ていた。
今日何度目かわからないほど、門が開き数台の馬車が駆け込んできた。
国中がお祭り騒ぎになり、王都の中は警備の兵士や巡回の兵が数人の兵が数人の集団で、鎧が擦れる音を出しながら街中を警戒し。
宿場も満室で泊まれないものは、友人の家にや金を払い民家に泊めさせてもらっていた。
国王はその様子を、城にある自室のベランダから眺めていた。
その顔には笑みがこぼれており、時折目を細めて遠くを見ようをしていた。
本当なら、先の戦いで王子には華々しい初陣を飾らせて、そのまま王位を譲るつもりだった。
しかし、その計算は大きく狂ってしまい、王子は砦まで撤退し、傍から見たらは負けたようにしかみえなかった。
しかし、その場に残った者が敵の総司令官を討ち、勝ってしまったのである。
王子の顔は丸つぶれだった、その者はなんという名だったか。
正直思い出せなかった、しかしその者は英雄と言われているだろう。
国王にしたら面白くなかった、だからこそ戦後の報酬などは文官に届けさせて、王都には呼ぶことをしなかった。
国民にたいしては先ほどの戦いの傷が芳しくなく、長旅は無理で領地で休養していると伝えた。
国民たちは、落胆と疑いの目でこちらの方を見ていたが、記念日が近付くにつれて忙しさで、そのことを忘れていった。
国王はそんな事を考えながら、日々の職務を行っていた。
しかし、この後に起こることを知っていたらどんな事を行っていたのか。
その日王都にある屋敷の一室で、複数の人々が密会をしていた。
暗い部屋で顔はわからなかった、しかし10人前後の人間がテーブルを囲むように椅子に座っていた。
そのテーブルの真ん中には1っ本の蝋燭が、火を揺らしていた。
その中で一番奥に座っている人影があり、その影は顎に長い髭を蓄えていた。
その影は、右手で自分の髭を撫でるしぐさを続けていた、部屋の扉が開き1つの影が入ってきた。
「遅くなりました。」
少し明るい声だったが、なぜか重さを感じる声だった。
「全員そろったな。」
髭を撫でていた影が重い口を開く、そしてそのまま全体を見渡して。
「この度は集まってもらってすまなかった、しかしこれほどの同士が集まってくれるとは正直うれしく思う。」
周りの影が、縦に揺れていた。
「今回の事はこの国始まって以来の事だろう、正直我々は歴史に悪名を残す行為かもしれない。」
真っ直ぐと、前を見ながら力強い声で。
「しかし、今回の事をなさなければ、国は腐敗し民は嘆き、国は疲弊し他国の侵略を受け、たくさんの人々が不幸になる。ならば、我々が立ち上がらなければいけない、諸君よくこの意思の下集まってくれた感謝する。」
奥の影頭を下げた、テーブルに額を付けながら、頭を下げ続けた。
1つの影が立ち上がり、また強い声で。
「頭を上げてください、我々は偉大な方を失ってしまった。そして再び貴方を失えばこの国はあの者たちの、物になってしまいます。」
その影に続いて、他の影も立ち上がると口々に。
「そうです、もう二度と同じ過ちを繰り返してはいけません。」
「我々の意思は1つです、号令さえあれば。」
「この国を救えるのは貴方だけです、この国の救世主で救国の使者であります。」
中には自分の目の前まで拳を掲げて、熱弁している者さえもいた。
奥の影はゆっくりと頭を戻し、暗がりで良く見えなかったが額を付けていたテーブルは濡れていた。
そして、その頬には涙が流れていた、暗がりでわかるはずがないのに泣いていると、周りの者はそう感じていた。
少し、涙声で軽く鼻を啜りながら。
「改めて感謝を同士諸君、私の心は決まった。皆の命を私に預けてくれ決して悪いようにはしない。そして、必ずその命を返す、共に未来を進もう。」
その言葉を聞くと、皆涙を流し始めた、中には泣き崩れる者さえもいた。
そんな中、最後に入ってきた影だけは泣いてはいなかった、しかし俯いて泣いている仕草をしていた。
「私は貴方と同じ時代に生まれた事を、幸福に思います。この命貴方にお預けします。」
「私も。」
「私もこの命で良ければ、使ってください。」
影たちは、奥に座っている影に近付くと片膝を地面に付けると、深々と頭を下げた。
口髭の影は立ち上がると、一人一人の手を取っては頭を下げていった。
その顔は涙で歪んで、嗚咽していたまさに異常な光景だった。
外では沢山の人々が笑顔を浮かべて、歩き回り。
商人は商いに力を入れて、利益を上げようとしていた。
そんな中この屋敷の一室のみが別の空間のようだった、しかしこの者たちは自分が正しいと信じていた。
そう、自分たちは正義だと、ただ1人だけ周りとの温度差に戸惑っていた。
蝋燭の火が一瞬大きく揺れて、その顔を少しだけ映した、その横顔はガイド卿だった。
しかし、以前と違って左目の上あたりの額に、大きく真新しい切り傷ありまるで処刑された将軍と同じような傷だった。
顎鬚の影がもう一度周りを見る仕草をして、大きく深呼吸をした。
「決行日は国王の、戴冠の記念日だ。」
重く静かな声だった、その声は部屋中に響いた。
泣いていた者はもういなかった、ただ頷くのみだった。
王都は快晴で、青空が広がり雲一つなかった。
城に続く中央の道があった、その道の両端には人が埋め尽くしていた。
道に面した建物の、窓やベランダには人が溢れかえっていた。
人の人種も多彩だった、その道の警備のために民衆と道の間には警備の兵士が立っている。
太陽が真上を指す頃、一台の馬車が走り出し、馬車は屋根がなく周りからもよく見えた。
その後ろの席に3人の人が座っていた、真ん中に国王その両脇に宰相と王子が座っていた。
その馬車を警護するように、前後には馬に乗った兵士が護衛についていた。
兵士の鎧は、傷一つなく鏡のように磨き上げられていた。
民衆は歓声を上げて、馬車に手を振り窓からは花束が投げられ。
花びらはまるで、雪の用に舞っい地面に落ちた花びらはまさに雪が積もったようで、花の絨毯のようだった。
馬車はゆっくりと、城に続く道を進んで行った、国王たちは笑みを絶やさなかった。
しかし、表情と裏腹に3人とも別々の事を考えていた。
王子は民に卑怯者や臆病者と陰口を言われているのではないかとおびえ、それを隠すために虚勢を吐くしかないことに、怒りが沸き起こり。
自分が国王になったら、みじめな姿をさらさせたものに罰を与えてやると、逆恨みを起こしていた。
国王は王子が自分の椅子を狙っていることに気付き、王子の将来に不安を覚えながらも怒ることができない自分の不甲斐無さに頭を悩ませながらも。
息子にために何かできないかと悩み、災いの種になりかねないベイドン丘の英雄を殺すべきかもしれない。
我が一族安泰のために、自分に成り代わり王になろうとして反乱を起こしたという事にして、処刑でもするか。
国王は国益より息子のことを優先しようとしていた、普通なら絶対に行ってはいけない事だが王都に帰ってきた息子の姿が頭から離れなかった。
あれほど落ち込み弱々しい姿は見たことがなく、胸が押しつぶされる気持ちだった。
こんな思いをするくらいなら、自分が息子の障害になりうるすべてを排除すべきだと。
王子と国王は自分たちの地位が盤石であると信じ、先々のことばかり考えていた、だが宰相だけは別のことを悩んでいた。
それは少し前に部下に指示した報告が全く上がってこず、あちこちに密偵を送り込んでも明確な答えは1つも帰ってこなかった。
自分がこの地位に着いてから、数十年こんな事は一度もなく、その不安が心の隅にあった。
最近は式のために、忙しくそれ以上の調査もできず、仕事に追われる日々だった。
正直考える時間がなく、今まで延ばし延ばしになっていた、式が終われば本腰を入れて調べよう、そう考えながら馬車に揺られていた。
馬車は、石でできた道を進んで行った、整備されて花弁で埋め尽くされていても、
小さな段差で、馬車は少し揺れていた。
街中を数十分かけながら城に着くと城の入り口には多くの兵士が待っており、3人は馬車から降りると門をくぐった。
中に入ると道の両端に槍を持った兵士が立っていて、そしてその兵士たちが槍を斜め上に突き出しアーチを作った。
その動作は一糸乱れなく訓練されたもので、そのアーチの槍をくぐるように国王を先頭に王子宰相と続き歩き出す。
アーチは謁見の間まで続いていて、そこで式を行いその後各国の使者とパーティーを行う予定だった。
謁見の間の扉の前に着くと、扉の両脇には兵士が立っており兵士はゆっくりと扉を開く。
扉は音を出しながら、ゆっくりと開いていく。
その先には、希望ではなく絶望が待っていた、国王は中に足を踏み入れて数歩歩くと足を止め。
その後に王子と宰相が中に入ると、扉が音を立てて閉まっていった。
しかし、開けた時とは違って一気に閉じ、そのせいかドンと大きい音をたてていた。
王子と宰相は後ろを振り向き、少し首をかしげ不機嫌を表していた。
国王はある一点を見つめたまま、まったく動かず2人も国王の視線の方に顔を向ける。
それは王座の方向だった、そこには王座に座った顎鬚の元将軍が座っていた。
王子は口を半開きにして、固まったが我を取り戻し将軍の方に歩きながら。
「貴様何をしてる、さっさと退かないか。貴様のような奴が居ていい場所ではない、私の目の前から消えろ。」
感情を剥き出しにして、怒鳴りながら詰め寄ろうとした。
その前を遮るように、1人の兵士が立ちふさがった、王子は兵士を押し退ける用に手を突き出した。
「貴様も退け、誰の邪魔をして。」
王子が離し終る前に、兵士は腰の剣を抜き王子の喉元に突き出す。
あまりの事に、後ろに尻餅を着くように倒れみ、その体は震えて言葉の最後は恐怖で裏返っていた。
その光景を見ると、宰相はすぐに後ろの扉に対して大きな声を出した。
「衛兵この者たちを、拘束しろ。」
すると、扉は勢いよく開けられると衛兵が10人前後入ってきた、皆手には槍を持っていて。
国王たちと将軍の間に立ちふさがって将軍の方に槍を突き出す、姿を見て宰相は勝ち誇った声で少し胸を張って。
「元将軍どんな理由があるかは知らないが遊びは終わりだ今回の事は、悪ふざけでは済まない。大事な式典を台無しにしてくれた、一族皆死刑は覚悟しろ。」
元を強く強調しながら、将軍に指をさし宰相は国王の方を見た、国王は固まったままで微動だにしていなかった。
国王は額に汗を流し、目の端は下がって入ってきた時より少し俯いている印象があった。
そこで宰相は周りを見渡し部屋の両脇には文官が立っており、自分の派閥の者も多くその後ろには警備の兵士たちが立っていた。
一瞬頭が回らなかったが、しかし少しずつ異常な光景を理解していった。
すると、自分の勘違いや状況がわかるにつれ、宰相の額にも汗が浮かび表情も絶望に変わっていった。
王子は立ち上がると勝ち誇った顔をしながら、将軍と立ちふさがった兵士を交互に指を指すと。
「死刑だ、死刑だ。」
笑いながら、まるで壊れたように死刑だを連呼していた、しかしその顔は引きつった笑みだった。
元将軍は足を組むと、静かに右腕を上げた。
すると王子たちの間にいた兵士が王子の方に向きを変え、王子たちの方に槍先を突き出した。
「気でも、狂ったのか、私は、王子だ、この国の。」
片言でうまく聞き取れない声の大きさで、呟き続いていた。
その様子を見ていた、国王は静かに肩を落としその後ろ姿は以前の覇気はまったくなく、年相応の老人に見えてきた。
「どうするつもりだ、何が望みだ。」
国王は俯いたまま、弱々しい声で話し出した、その声は静かな部屋に響く。
ただ沈黙が部屋の中を包んだ、元将軍は静かな声で淡々と。
「今日この日をもって、国王にはその座から降りてもらいます、もちろん王子も今の位置の剥奪。」
「私に変わって、貴様が国王にでもなるつもりか。」
「否、私は王座などほしくはない。」
国王は顔を上げると、不思議そうに顔を歪め王子は尻餅を着いたまま何かを呟いたままだった。
宰相は今の状況を打開するために頭の中で自分が生き残る方法を巡らす、しかし考えは浮かんでは消え浮かんでは消えの繰り返しだった。
情報が少なすぎで今は時間稼ぎをして状況の変化を待ち、そこから動くべきか。
将軍は宰相の考えを見透かすように、左手の人差し指で王座を叩いて何かの合図を出した。
すると後ろの扉が開き1人の男が両脇を、兵士につかまれた状態で入ってきた。
その文官の顔を見ると、宰相の顔色は変わり見る見るうちに青ざめていくそれは周りにもわかるほどだった。
その男は前に国境の部隊を探らすために放った文官だった、その文官は頬がこけ服装もボロボロで城を出る時の面影はない。
文官は元将軍と衛兵の間に両膝を付くように、押さえつけながら座らせられ宰相は思わず1歩2歩歩み寄り体を乗り出すようにして。
「貴様今まで何をしていた。」
宰相には珍しく、文官に対して指を指しながら怒鳴りつけていた。
将軍は顎を突き出すようなしぐさをし、文官に口を開く許可を与えたようだ。
「遅れながら報告いたします。私は国境付近に到着すると最初に味方の部隊に接触しました、しかしそこでかすかな違和感を感じました。」
弱々しい声で、声は時折かすれ顔は地面を見て口は開いたままだった。
「部隊の数が資料に比べて少なかったのです、そして敵側の数も報告と違いました。そしてなにより、前線で対峙しているはずなのに、緊張感がなく争った形跡が全くなかったのです。」
文官は弱々しく、ゆっくりと顔を上げて宰相の方を見上げた。
「私は最後に、相手の陣地に潜入しようとしました。そこで見たのは、確かに他国の旗と鎧を着てました。しかし、相手の指揮官らしい男を確認した途端絶句しました。」
文官は再び顔を伏せて、口ごもり言葉を濁すと宰相が焦った顔をしながら右手を横に振るい。
「いいから話せ。」
「相手の指揮官は国境の警備のために、ザンド砦の司令官のデシラ卿でした。」
宰相はすぐに王座の方を見て、元将軍を睨みつけた。
王座から、国王の方を見て重い口を開いた。
「私は貴様たち文官達に国をいいようにされて、滅びるのを見たくなかった。先の戦いで王子の資質も見ることが出来た。」
王子の方に視線を向けた、しかし王子はただ震えるだけで元将軍はすぐに興味を失い視線を少し上に上げ天井を見た。
「この国は、王子が王位を継げば必ず悪政を行う。そして宰相達文官が国を牛耳り国王は傀儡に成り下がる。それか、他国に蹂躙されて国の名前が変わってしまう、だからこそ我らが立ち上がった。」
視線を再び国王の方に向けるが、国王はただ下を見て俯くばかりだった。
「だから、貴様が国を奪っていいとは言えない。貴様こそ国を滅ぼしてるんだぞ。」
宰相は王座を睨み続けてる、いや宰相にはそれしかできていなかった。
「一応伝えておくが王都にいる警備の兵士はすべて我々の部下で、門も貴様らの屋敷までももう掌握してある、逃げ場は1つもない。」
元将軍は淡々と現状を話していた、言い切ると1度目を閉じ。
彼は処刑された将軍との会話を思い出していた、この間密談をしていたあの部屋で彼は口髭の将軍と会っていた。
テーブルを挟んで、向かい合わせで椅子に座り。
「今回の戦いは、私の信頼できる部下に他国の兵士に偽装さて、国境警備の兵と対峙させる。」
顎鬚の将軍は髭を撫でながら、ゆっくりとしっかりと話していた。
「部下の報告によるとサクソン人系の部族が、秘密裏に他の部族と接触しているらしい、このままいけば大規模な反乱になる可能性がある。多分王子が初陣を飾ることになると思う、この戦いで王子の器をはかる機会だと思う。」
口髭の将軍は胸の前で腕を組みながら、大きく息を吐いた。
「私も賛成だ、もしもの時はわかってるだろうな。」
テーブルにあったグラスに、お互いに酒を注ぎ合った。
「あぁもちろんだ、お前とは一兵卒からの付き合いだ、我が友よ。」
「我が友よ。」
「もしもの時は、どちらかが死んでも計画を実行する事。」
お互いにグラスを軽くぶつけて、一気に流し込んだ。
お互いに、これが友と飲む最後の酒だと分かっていた、だからこそ一気にその酒を流し込んだ。
2人とも貴族の出ではなく平民だった、それでも戦場に立ち武勲を上げることで今の地位まで上り詰めた、その道決して平坦ではなかった。
この2人は異例中の異例の出世をしていた、だからこそ貴族の出が多い文官には嫌われていた。
反対に兵達の人望は厚く、中には崇拝する者さえもいた、将軍達の体に刻まれた傷の一つ一つが物語っていた。
王座に座りながら、元将軍は彼との歩んできた道を、い出していた。
そして、最初で最後の決断を下し覚悟決めた重い声で。
「王族と文官の処刑を決行する、この号令後速やかに行い。そして国内に発布、我に従うもの集め抵抗する者には討伐軍を出陣させる。」
立ち上がり、右手を横に振りながら言い切った。
その瞬間、周りに居た文官や王子などが命乞いや怒号嘆きが部屋の中を包んだ。
後世の歴史家に言わせると、戴冠30周年に起きた文官と王族の大量虐殺が実行され、この日が国の転換期であると。
そして、1人の男が王と呼ばれるようになると。
「ガイド卿。」
元将軍がそう叫ぶと、先ほどまで国王との間に立っていた兵士が兜を脱ぎ、膝を折って顔を伏せた。
「貴殿は3000の兵を率いて、アーサー卿のもとに行け。こちらの陣営に加わるようなら王都まで連れてこい。しかし、こちら側に来なければその場で殺しても構わない。」
「了解です。しかし、なぜアーサー卿なのですか。」
ガイド卿は、伏せた顔を上げながら不満そうな顔をしていた。
「アーサー卿は今この国の英雄として、民に慕われている、それに。」
言葉の終わりを濁しながら、元将軍は王座からガイド卿の方に歩き出した。
「貴殿は、先々代前の国王を知っているか。」
元将軍はガイド卿の左肩に右手を置いて、体を少し沈めた。
「もちろんです、知らない人はいないかと。この国史上最高の国王と言われ。建国の王、英雄王など様々な異名を持った方です。」
ガイド卿の耳元に顔を近づけながら、囁くように。
「アークトゥルス王またの名はアーサー王、民にすればアークトゥルス王の再来だと言われている。王は数多の戦場に立ったが、一度も負けることなく、当時弱小国だったこの国をここまで押し上げた王。その偉業は今でも語られている、その王の名がアーサー王とも呼ばれていた。」
ガイド卿の顔が変わっていった、眉間にはしわが寄って、歯を食いしばりながら言葉を絞り出した。
「その偉大なる王の再来と呼ばれている者が、簡単に我々の側に着くと思いますか。」
「だからこそ、判断は貴殿に任せる。貴殿が判断すればいい、たとえどんな結果が待っていてもな。」
肩に置いた手で肩を2度3度叩いてそのまま歩き出し、ガイド卿の方を振り向かないままで。
「我々は王都周辺と主要都市を同時占拠した。これで国の6割は抑えた、主な貴族も先ほど処刑の命令を下した。これによって己の保身を考える者もこちら側に着く、残り1割が抵抗を続けるだろう。そして、その者達が祀り上げるとしたら、アーサーだ。」
ガイド卿は立ち上がると、一礼しそのまま部屋を出て行った。
廊下を速足で歩き出し彼は城の外を目指す、彼は先の戦いであったアーサー卿の事を思い出していた。
初陣のくせに、その顔には恐怖はなく何か別の事を考えているように見えていた。
しかし、もう彼には関係なかった彼の中にはアーサー卿を殺せる。
ただそれだけだった、これはガイド卿の逆恨みだ妬みだ、嫉妬だ八つ当たりでそれは自分でも理解していた。
しかし、アーサー卿がいなかったら自分はこの場にはいなかった。
彼が故郷に帰った時待っていたのは、領民の冷たい視線と両親の冷たい言葉だった。
そして、この左の額に出来た傷だけだった、ガイド卿は傷跡に手で押さえ傷が疼く様に痛かった。
街中は謙遜と教父で満ちていた、自分たちがどうなるか不安でいっぱいだった、街中では兵士が至る所に居て目を光らせていた。
ガイド卿は門番に、門を開かせて王都の外に出ると外には騎兵と歩兵が整列していて、1人の兵士が近付いてくると。
1頭の馬の手綱を引いていて、それを受け取るとその背に乗り。
「行くぞ。」
大きい声で一言叫ぶと、馬の腹を蹴り走り出した。
ガイド卿はアーサー卿討伐に出動し、最初から陣営に引き込む気などなく殺すことだけを考えていた。
王都での事件が地方まで広がったころ、隣の領主からアーサーに手紙が届いた。
その内容は会って話がしたい。
ただそれだけだで悪戯だと思うほどで、場所の指定はあったが日時と時間は書いてはいなかった。
アーサーはその手紙をもう一度読み直し、入っていた封筒の中を見たが何もなかった。
アーサーは不思議そうな顔をしながら、隣にいた彼に対して封筒と手紙を渡しながら。
「これをどう思う、偶然だと思うか。」
彼は封筒を受け取ると、手紙の内容を確認しながら。
「確かに偶然とは思えません、もしかしたら王都での事と何か関係があるかもしれません。主よ行かれますか。」
彼は手紙と封筒を調べ終えると、アーサーに手渡しアーサーはその手紙を近くの机の上に置きながら。
「もちろんだ、どんな事が待っているとしてもだ。」
「了解。」
「すぐに準備をする、できれば今日中には出発したい、そうすれば明日の昼には着く事が出来るだろう。」
アーサーは言い終わると、そのまま出発の準備に取り掛かった。
それから1時間後、アーサーは護衛を引き連れ馬に乗って町を出た。
その道中、揺れる馬の上で今後の事を話していた。
「首謀者は将軍で、王族と文官が処刑され。主だった都市で一斉に決起と制圧を行った。それが今確認できる情報のすべてです。」
彼は自分の馬の、頭一つ前を走っているアーサーに少し息を切らせながら話しかけていた。
「妙だな、情報が流れてくるのが早すぎる。もしかして、意図的に流しているのか、だとしたら想像していたより事態は悪い方向に進んでいる。」
アーサーは眉間に皺を寄せながら、静かに呟いていた。
アーサー達が目的の場所に着いたのは日付が変わり太陽が真上を指す頃で、額の汗を飛び散らせながら馬の速度を落としていった。
馬の上から辺りを見渡すと前方に人影が見え、遠かったので正確な人数は分らなかったが4・5人ほどだった。
人影を見つけると、アーサーの少し後ろにいた彼が馬の速度を上げてアーサーの前に出て、そのまま2人は人影に近付いて行く。
その人達はどこから持ってきたのか、テーブルと椅子が2つあり1つには女性が座っていた。
その女性を護衛するようにして、4人の兵士が彼女を囲むようにして周りを警戒していた。
彼女は2人に気が付くと、前に出ようとした護衛を手で制して。
「あなたが、アーサー卿ですか。」
静かで優しい口調で、なぜか心に響いてきた。
2人は馬から降り、今度はアーサーが前に出ると軽く一礼をしながら。
「私がアーサーです、あなたがこの手紙の主ですか。」
アーサーは腰に付けていた、袋から手紙を出し彼女に渡した。
彼女は手紙を受け取り中身を確認すると、近くの護衛を呼びと軽く耳打ちをした。
護衛の兵士はもう1つの椅子に近付くと、椅子を引いて一礼をして彼女の横に戻っていた。
アーサーは椅子に座ると、その横に彼が立っていた。
「単刀直入にいいます、時間がないので本題をお願いします。」
アーサーは強い口調で彼女に話しかけ、彼女はテーブルの上で指を組むと。
「そうですね、お互い時間がありませんしね。こちらも、単刀直入にいいます。この度の反乱で王族と文官のほとんどは死に。将軍が全権を握っています。王都からは討伐軍が出たと聞いています、アーサー卿あなたはどちらに付きますか。」
アーサーは内心驚きを隠せずにいた、自分から言わせたがここまで直線的に言われるとは思ってもいなかった。
少しの間、無言で緊張が辺りを包んみアーサーの横にいた彼は剣の柄を握った。
彼女の護衛も、柄を握っていた。
最初に沈黙を破って、重い口を開いたのは彼女だった。
「驚いていると思いますが、これはもっとも重要なことです。」
彼女は一度深呼吸をすると、アーサーに考える時間を与えるように再び口を開いた。
「今は私が当主をしていますが、本当は兄が当主でした。兄は数日前に式典に出席するために、王都に行きました。その兄から手紙が届きました、その内容は王都の様子がおかしい。城の中に武官が見当たらなく、町の中の兵の数が異常に多い。何か嫌な予感がする、式典が終わり次第すぐ帰るが、自分に何か起きた、もしくは起きたと判断できる時は、自分の当主との権利のすべてをお前に委譲する。そしてすぐに隣の領地のアーサー卿に会って、今後の事を自分で決めろと、この手紙が届いてから直ぐに王都での反乱を聞き。」
一度言葉を噤むと、目をつぶって顔を俯かせた。
「多分兄は、文官と一緒に殺されたかと。」
護衛の兵士も顔を俯かせていた、中には涙を流す者さえもいた。
アーサーは決心したのか、重い口を開いた。
「私は将軍には従えません、私は将軍と敵対します。」
短い言葉だった、しかし、その意思の強さを表すには十分な言葉だった。
彼女は顔を上げると、思わず立ち上がりアーサーの手を握った。
「改めまして、私はベディヴィアと申します、これからはアーサー卿に従う事をお約束します。そして、これから反将軍の者たちがアーサー卿の旗の下集まってくるでしょう。アーサー卿がその者達の受け皿になると思います。失礼と思いますが、改めて問います。その覚悟はありますか。」
その言葉は願いだったのか、ただの祈りだったのかはわからないが、その弱々しくも重い声にアーサーは胸が痛みだす。
しかし自分は言わねばならない、もう決断は下したのだから。
「覚悟はできている、ともに進もうベディヴィア。」
アーサーが力ずよく答えると、ベディヴィアと護衛の兵士はアーサーに対して膝を付き頭を下げ恭順の意を見せる。
アーサーはその姿を横目に、隣の護衛の顔を盗み見する。
この決断に彼はどう思ったのかと、予想道理であったが護衛の彼はいつも通りの表情でただこちらを見ていた。
アーサーと同じ黄金の瞳は、何を望み何を見ているかはわからなかった。
しかし彼がついてきてくれるのだったら、どんな事でもできるそう思えるのが唯一の救いだった。
そしてこの日から、アーサーの下には各地の反将軍の者たちが集まることになり。
将軍との決別が決定的になり、民たちに一気に広がっていった。