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王の友  作者: ARIKA
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二振りの剣

王都は全体的に慌ただしかった、城では文官が物資調達のため走り回り。

武官は兵士の編成作戦の立案、町でもその緊張感が伝わって町民は口数が少なかった。

しかし人の噂や商人たちの情報網は広く、ある噂がまことしやかに囁かれていた。

「王子の軍隊が部族征伐に出陣して、惨敗して逃げ帰ったらしい。」

「私は王子が討死して、将軍だけ生き残ったて。」

「違うさ王子が死んだと聞いたけど、兵士を置いて逃げようとしたら、その兵士に殺されたって聞いたよ。」

「いやいや、将軍が死んで王子は敵方につかまったのが真実さ。」

人の噂は独り歩きしていった、内容は近いものもあれば、まったく違うものもあった。

しかし、一つだけ共通点があった、それは「王子が負けた。」それだけが同じだった。

そして、噂は人から人へと伝わっていき城にさえ噂が流れ、城の者さえ動揺して勘違いをするものさえもいた。

国王は自室で、椅子に座り顎に手を当てて目を瞑っていた。

人の噂は広がりやすい、将軍たちめ余計なことをしてくれた、これでは王子が生きていても民は信じてくれるのか。

息子が生きているのは嬉しいが、今回の敗戦での軍資金が膨らみ。

怪我や死んだ者に対して、報酬を与えないといけない、この事は財務大臣と相談だが、正直捻出できるかはわからない。

将軍が死んでいれば、財産すべて没収して当てることもできたが、どうすべきか。

将軍達に何かの罰を与えないと他の者に示しがつかない、しかしそれでは文官と武官のバランスが崩れ。

宰相が今以上の権力を獲得して、軍事面にも意見を言ってくるかもしれない。

今まで保ってきた均衡が崩れるか、ここで将軍達を庇えば文官たちに付け入る隙を与えてしまう。

国王は考えが纏まらなかった、そう国王の中では迫ってきている敵より、内側にいる家臣たちの方が厄介だった。

この思考でわかるように、国王は軍事面より政治闘争を得意としていた。

そんな時に城にはある知らせが届いた、その知らせがさらに騒ぎを大きくさせた。

それから数日後、城の謁見の間には王子と将軍がいた。

正面に国王が王座に座り、王子と将軍は部屋の中央に片膝をついていた。

部屋の端には文官が並んで、王子たちを見ていた。

文官達は皆よく、肥えていて裕福な暮らしをしているのがよくわかった。

王子たちは下を向いたまま、顔を上げることが出来ずにいた。

「報告からいかせてもらいます。今回のベイドン丘での戦いで我が軍は部族連合の長を討つ事に成功、我が軍の勝利で終結しました。」

宰相が手元に持った、紙を読み上げていた。

「しかし、今回の戦いで我が軍は総勢2500のうち死亡または行方不明が800、負傷者は軽傷重傷合わせて1000名、指揮官で生き残ったのは、アーサー卿ガイド卿の御2人と本陣の王子と将軍のみでした。」

宰相は王子の方に目線を向けた、周りの文官たちの口元は笑っていた。

「次に戦況の流れですが、大間かに説明させてもらいます。あくまでも生き残った者の報告や、相手捕虜による証言に基づいているため。今後変更がある場合あるので、それを踏まえてお聞きください。」

宰相は紙をめくり、一度深呼吸してから話し始めた。

「まず我が軍は2500、敵部族は10以上の部族が連合を組んでいた模様で総勢4200前後ベイドン丘付近で先端が開かれました、本隊は敵の数が約2倍だったため、ザクソン砦まで退却して体制を整えようとしました。」

宰相は一度息継ぎをして、再び王子たちの反応を見てから紙に視線を戻し。

「この時アーサー卿のみが第2陣の約半分の500の兵を従えて、敵中央突破を行い、部族連合の長を討ち取りました。またこの時すでにアーサー卿とガイド卿以外は戦死していた模様でした、メディガ卿は流れ矢で死にバザール卿は逃げる際に、味方の兵士を切って進んだため、逆に兵士に殺されました。サーレー卿は逃げる味方に踏まれて亡くなりました。他の者も同じような状態だったと報告を聞いています。」

報告を聞いている間、王子は俯いたままで地面を見ているだけだった、しかし突然顔を上げて。

「父上このたび。」

国王は突然王子を睨めつけた、王子は再び俯きながら言い直した。

「陛下この度は誠に申し訳ありませんでした、今回の失態は私めの未熟さと将軍達の過信が招いたものです。しかし今回の作戦立案は将軍達が行い、指揮も将軍達が行っていました。」

将軍達は顔を上げて王子の方に視線を向けたが、王子は俯いたままだった。

「若輩者の自分が軍隊の指揮をできるはずもなく、将軍達の助言を聞いて最終判断を下していました。将軍達も私めの命を守ることに全力を尽くしてくださいましたが、その代わりに多くの兵を失ったのが現実でした、この度は誠にすいませんでした。」

俯いていた顔をさらに下げ、謝罪の意思を伝えた。

しかし、将軍達にしてみれば王子は自分の保身のために、責任をすべて自分達に押し付けているようにしか考えれなかった。

国王は再び王子の方に視線を移すと、重い口を開いた。

「息子よ、この度の事で戦の怖さなどを知ることが出来ただろう、確かにたくさんの兵達を失ったのは痛かったが、此度の事で新しく考えることもできただろう。今回の件は不問と処すが、しばらく城の中で宰相などから統治者としての、勉強をするがよい。将軍達の処遇は、宰相に伝えてある。」

国王は立ち上がると、そう言って歩き出して部屋を出て行ってしまった。

王子も後を追うように、速足で部屋を出て行った。

謁見の間には顎鬚と口髭の将軍、それと宰相と文官達のみが残った。

しばらく静寂が部屋の中を包んでいた、その中宰相が手元の紙をめくった。

宰相の口元には笑みがこぼれていた、一度息を吸ってから。

「此度の戦いの責任は将軍達にある、弁明や意見は一切聞かないので覚悟をしてもらいましょうか。」

宰相は顎鬚の将軍の方を見て。

「此度将軍はアーサー卿に2陣の指揮権の委譲を、行うことで最悪の事態には至らなかった。そのため此度は将軍の地位剥奪と、5年間の自宅謹慎を申し与える。この場からすぐに、立ち去りなさい。」

顎鬚の将軍は立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。

今回の処分で、将軍の地位を奪われただけでなく、事実上の追放処分だった。

将軍は奥歯をかみしめていた、手のひらには爪が食い込み血が流れていた。

「さて、あなたの処分ですが。」

宰相は口髭の将軍の方をみると、言葉をわざと伸ばして勿体ぶる様な言い方をしていた。

「今回の件では誰かが責任を取らねばいけません、そうある程度の地位を持った方の、たとえば将軍が今回の全指揮権を持っていて。この度の撤退は将軍が独断で行い、王子は残していった兵達を心配したが、将軍が独断で強引に王子を連れて撤退したとね。」

宰相は独断を協調をしながら、将軍の方を見ていた。

周りの文官も、じっと将軍の方を見ていた。

宰相達の思惑では、今回の事は全権を持っていた将軍がすべての事を決めて実行していたため。

王子には非がなく、責任をすべて将軍に押し付けて、将軍の財産を没収し今回の戦費に変えることだった。

口髭の将軍は片膝を付いた姿勢のまま、まったく動かなかった。

「それでは、今回の件はこれで終わりとします、衛兵元将軍を速やかにお連れしろ。」

扉が開き2人の衛兵が入ってきた、衛兵は将軍の両脇に立ち腕を持って立たせようとすると、突然将軍が立ち上がり。

「了解。」

その一言を告げると、そのまま部屋の外に出て行った。

宰相達は突然の事に吃驚していたが、将軍がおとなしく出ていくのを見て安堵した。

口髭の将軍はその日のうちに、処刑された。

この処分で、今回の戦いで味方に大きな損害を与えたのが将軍であり。

その敗戦をアーサー卿が覆し、それを施したのは王子だと。

文官達は、噂を町や商人達の情報網わざと流した。

これで、王子への汚名が少しでも緩和して、武官たちの勢力を大きく削ることが出来た。

その頃、アーサー達は自分の領地に戻っていた。

アーサーが納める領地は、港町が1つとその周辺地域のみだった。

町は全体的に石造りが多く、町の中心を川が流れていた。

アーサーの家はこの町では、大きめで屋敷であるが、王都と比べれば小さい方で中流貴族の下の方だった。

アーサーが町に着いた時には、この町で集めた兵士は3人しか生き残っていなかった。

しかし、アーサーを迎える町民は歓迎ムード一色のお祭り騒ぎで、町の人は皆家から出て道の両端に立ち凱旋を喜んでいた。

アーサーは馬の上から、手を振りながらゆっくりと屋敷への続く道を歩んで行った。

アーサーは微笑んでいたが、その鎧の下には包帯が巻いてあり、閉じきっていない傷口もあり。

包帯の一部は血でにじんでいた、それでも笑顔を絶やさないのは領民の前では弱みを見せられないからだ。

しかし、アーサーの後ろから付き添っていた彼だけは、目の端に泣いて、地に伏せている女性が視界に入っていた。

それは、今回の戦争で死んだ誰かの妻だろうか、もしかしたら恋人だったのか。

多分これと同じことが、町の至る所で起きている、そう帰ってきたのはたったの3人なのだから。

アーサー達が屋敷に着くと、使用人が3人ほど迎えてくれた、アーサーの家には使用人が3人と指南役もつとめる護衛の2人が住んでいたが。

先の戦争で1人は還らぬ人になってしまっていた、アーサーが屋敷の中に入ると。

「主様お帰りなさいませ、今回の旅はどんないい事がありましたか、今度は自分も連れてってください。」

アーサーは周りを見渡したが、そこには誰もいなかった。

そう、いつもなら軽口で迎えてくれた、彼がいなくなってしまっていたのだ。

それを再び実感すると、不意に天井を見上げたアーサーの頬には涙が流れていた。

「主よ、今回の戦いで国の情勢が大きく変わる可能性があります、どんな些細なことも、お見逃しなく。」

アーサーは目を開けて、声の主を見ると、そこには彼が深々と頭を下げていた。

「大丈夫だ、少し感傷に浸っていただけだ。確かにもう彼奴の軽口は聞けない、だが自分はそれ以上に多くの者を殺めてしまった。」

アーサーは手の甲で涙をぬぐうと、力強い声でそう答えた、そして止まっていた足を再び動かして、歩き出した。

「すぐに、今回の戦争亡くなったものの遺族への対応をするぞ。もちろん生きて帰ってきた者にも、十分な報酬を渡してくれ。」

「了解。」

彼はその場に立ち止った、アーサーはそのまま自分の部屋に歩く。

数日後アーサーは護衛をつれながら町中を歩き、ある場所に向かっていた。

アーサー達はある家の前で足を止めた、その家は石造りで煙突からは煙が出ていた。

「すいません、お願いしていた物を受け取りに来ました。」

扉の向こうからは返事はなかった、しかし中からは金属を叩く音が聞こえ続けていた。

アーサーはそのまま扉を開けて、中に足を踏み込む。

中に入った瞬間、温度が急激に上がりアーサーは額から汗を流しながら部屋の奥に進んで行った。

部屋の奥には、白髪頭の老人が黙々と剣を叩いていた、叩いては火に入れて、そしてまた出したら、叩く作業を繰り返していた。

老人はこちらに気付いているのかもしれないが、まったく気にしない様子で黙々と同じ作業を繰り返していた。

アーサー達は老人が手を休めるまで、立ったまま待ち続ける。

老人は頬がこけて額には汗がにじみ出ているが顔の汗を拭きもせず一心不乱に剣を叩いていた、それからどれほどの時間が経ったのか。

アーサー達はあまりの熱さで、体中から汗が噴き出していた。

しかし、老人はそれより近い場所で火で炙られ続けている。

老人は徐に手を止めて、アーサー達の方を見て重い口を開く。

「来ていたのか、注文の品ならできている。思ったより時間がかかってすまなかったな。」

老人は立ち上がると、部屋のさらに奥へと歩いて行く。

アーサー達はその後ろ姿を、ただ眺めていた。

老人は両手に1本ずつ剣を持ってくると、アーサーの前に立ち左手の剣を置くと、右手に持った剣をアーサーの目の前に突き出す。

その剣は鞘と柄が赤を基調とした色で、装飾自体はあまり豪華ではなくて派手さには欠けていた。

しかし、その剣を鞘から抜いたとき、アーサーは目を見開いて刀身から目が離せなかった。

その刀身は美しく、まるで鏡のように自分の顔を映していた。

自分が口を半開きにして目を見開いている姿が映っていて、自分でもこんな間抜けな顔ができるのかと苦笑いを浮かべる。

すぐにそんな事が気にならないほど、その刀身はきれいで吸い込まれそうだった。

老人が剣を鞘に収まると同時に、アーサーは我に返った。

老人はそのまま、剣をアーサーの方に差し出しアーサーは剣を両手で受け取った。

その両手は震えており、喜びと感動がアーサーの中を占めていた。

アーサーが感動していると老人は置いてあったもう一本を手に取るり、もう一度アーサーの目の前に突き出す。

その剣は先ほどの剣と同じで赤を基調としていて、見た目は瓜二つだった。

老人は剣を抜くと、その刀身もアーサーが吸い込まれそうなほどきれいな刀身だった。

アーサーは持っていた剣を、護衛に渡すと老人から剣を受け取った。

手に取った瞬間、先ほどの剣よりずいぶん重く手にずっしりときた。

先ほどの重さだと思っていたアーサーは、渡された瞬間手が下がってバランスを崩しそうになってた。

バランスを取りなおすと、老人の方を見た。

「この剣は二本一対の剣だ。」

アーサーは再び手に取った剣と、彼の剣を見比べた。

「しかし、手に持った時わかったと思うが、重さがずいぶん違う。最初に渡した剣は切れ味を求めており、耐久性はかなり低い。その名をカリバーン全てを切り裂き、すべてを開くもの。」

アーサーは彼から剣を受け取ると、剣を抜いて頭上高く掲げた。

「カリバーン全てを切り裂き、すべてを開くもの。」

アーサーは無意識のうちに、呟いていた、その名を聞いた瞬間からアーサーの中では何かが芽生えた気がした。

「そして、ついの剣どんな事があっても、欠ける事がない剣その名をカレトヴルッフ、いかなる事があっても、欠けることも砕けるこもない。」

「カレトヴルッフ。」

彼はアーサーから手渡され、たその剣を見ながら呟いた。

「その2本の剣は、別々の思いを込めて打った剣だ、しかし二本とも私の人生最高傑作だ、先の戦間に合わなくてすまなかった。」

老人は渋い声で話しながら、頭を下げた。

彼はカレトヴルッフをアーサーに手渡した、アーサーはカレトヴルッフを見つめていた。

アーサーは再び彼の目の前に、剣を突き出しながら。

「これは、先の戦いの褒美だ受け取ってくれ。」

彼は驚いていた、その剣は誰が見ても名剣で、時代が時代なら国宝級の品だで彼は剣を受け取れず、ただ首を横に振る一方だった。

確かに先の戦の報酬のほとんどは亡くなった遺族などに払ってしまって、手元にはお金がほとんどなかった、しかし彼はそれでもアーサーが生きているだけで満足だったからである。

「お前に受け取ってほしい、小さい時から共に育った。そう私にとっては唯一の友なのだから。」

彼はその言葉を聞いた瞬間から、涙が溢れてきた。

その涙は頬を流れ、地面を濡らしていった、彼は涙を拭うこともせずに。

片膝を付いて、両手でカレトヴルッフを受け取った、そして頭を深々と下げた。

そして、立ち上がるとアーサーが先ほどしたように、剣を抜くと頭上高く掲げると、再び剣の名を呟いた。

「カレトヴルッフ。」

アーサーが続くように。

「カリバーン。」

彼は剣を見上げながら、誓った。

「この剣に誓って、主よ永遠の忠誠を。」

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