小さな歪み
日が沈み、再び昇る太陽を背にしながら一騎の兵士が王都に伝令として到着した、町は高い壁に覆われてその外側に空堀があった。
王都に入るには、門が3つありその正面の入り口に伝令が走りこんだ。
街中は石造りで、正面門から城へ続く整備された大きな道以外は小路が多く、敵の侵入に対しての備えもされていた、中央に進むほど家が大きく屋敷が多く、その奥に城がありそこに国王がいた。
兵士は城下町を馬に乗ったまま走り抜けた、早朝だったため人影は少なかったが、それでも皆無ではなく露店を開く準備をする者や、散歩をしている人は、何事かという顔で猛スピードで駆けていく兵士を見ていた。
石造りの道をたどると、城が段々と近付いていった、そのまま大きな広場に出ると城の全貌が確認できた、城はその周りを囲むように水掘りがあり、まるで川が流れているようだった、その正面に吊り橋があり城に入るにはそこを通るしかなかった。
幸い吊り橋は降りていて、皮で出来た丸くヘルメットの様な兜をかぶり、胴体を皮上のベストの鎧を着た兵士が数人立っていた、伝令は駆け込むように吊り橋に付くと息を切らせながら。
「至急、王に取次ぎを、王子の初陣の事で、早く取次ぎを。」
伝令は一度に話せず、区切り区切りに話していた、それほど疲れていて焦ってもいた。
門番は伝令の様子を見て、身分の確認をするのを忘れたまま、すぐに上官に報告しにいった。
すると手に水を持ちながら1人の兵士を連れてきた、一緒に来た兵は何か頷くしぐさをして水を渡した。
「身元は確認した、早く行け。」
伝令はもらった水を勢いよく流し込んだ、そして一礼して走り出した。
中の兵たちは何か事かと皆が振りむき、困惑した表情を受けべた。
駆け抜ける兵士は、刺さるような視線を無視しながら走り続け。
中央の階段を上ったところから、中は豪華な作りに変わり、足は自然に小走りになっていく。
一段と豪華の部屋の前に着き足を止めると、その扉を守るようにして扉の両脇を全身を鉄で覆ったプレートアーマーを着た兵が立っていた。
「陛下に、王子の事で至急の事が。」
今まで置物の様に一点を見つめていた鎧の兵が、首だけを伝令の兵を見下ろすように動いた、
「入れ。」
扉の向こうから静かで重みのある声が聞こえ、兵士はドアノブに手をかけると扉を開けた。
初めて入った部屋の中は金銀をふんだんに使った置物や、1メートル四方の絵画など飾られており。
その豪華さに彼は声を失い、1つ1つが自分がどれだけ働いても買うことができないほどの高価なものであると容易に想像できた。
その部屋の中央に自分が主人だと言わんばかりに、宝石を多々埋め込み表面に金を塗った椅子に一人の老人が膝の上で手を組むようにして座っている。
見た目は50歳前後で髭を生やし、髪の毛と髭は白く染まっているが、この老人こそこの国の最高権力者である。
「それで用件は。」
そう呟くようにいうと、兵士は我に返り。
「先日行われた、王子の初陣ですが、敵部族が我々の予想より多く。」
話を切って、兵士は少し言葉を濁した。
「続きと詳細を。」
国王は組んだ指先を見ながら、顔を上げずに呟くように言っていた。
「はっ、昨日我が軍は敵部族討伐のためベイドン丘に陣を引き、敵を待ち構えていました。敵は予想道理ベイドン丘に現れ交戦しようとしましたが、敵総数4000以上で我が軍の約2倍のため。本隊は体制を整えるためザクソン砦まで後退しました。」
一気に話したため、一度息を吸い呼吸を整えてから。
「王子と将軍は無事砦まで引き、周辺の兵力を集めて砦にて籠城戦を行うそうで、そのため物資と援軍の輸送をなにとぞお願いいたします。」
兵士は言い終わると、深々と頭を下げた。
「うむ、援軍を送るのはいいが、味方の被害と砦の戦力はどうだ。」
国王は顔を上げて、壁に掛けていた息子の肖像画を見ながら静かな声で呟いた。
「砦に到着した兵士は500人ほどで、他の兵の行方は知れず。砦には100人ほどの守備隊しかおらず食料などの物資は1週間持ちません。」
「合わせても600で4000の敵を迎え撃つか、相手に攻城戦の用意がなくとも長くはもたないか。」
国王は少し考えるような仕草をしてから髭を撫でると少しの間が生まれ、兵士は恐怖で顔を上げることが出来ず国王の返事を待ち続け。
兵士にとっては生きている心地がせず体中から汗が吹き出て、顔を伝って地面に落ち小さな水たまりを作る。
国王は髭を撫でる手を止め顔を扉の方に向けると。
「宰相をここに。」
そう一言だけ言うと、扉の向こうから。
「ただちに。」
と短い返事が返ってきて、足音が段々と遠ざかっていた。
「援軍と物資は送る、しかしな。」
兵士は国王の言葉を聞いて、やっと顔を上げて安どの表情を浮かべ息をつく、しかしその後に続いた言葉を聞いて顔を青くした。
「実はつい先日、国境付近に他国の兵が表れて我が領土に進行する動きをしてな。そのため将軍を向かわせて、物資も兵士もほとんどいないのが現状だ。」
「しかし、このままでは王子が。」
兵士は自分の立場を忘れて、思わず言葉を発していた。
兵士は口元に手を当てて、目を見開いて今の状況を思い出し急いで額を床にこすりつける。
「誠に申しわけありません、私程度が。」
兵士がすべてをいう前に、国王は掌を向けて数回押し出す仕草をした。
冷や汗を流しながら、再び頭を上げ。
「よいよい、それに援軍は必ず送る、しかし急遽集めるため時間がかかる、最低でも1週間はもたせろと伝えろ。」
兵士は一礼をするとそのまま部屋を出て行き、彼とすれ違いざまに宰相が部屋に入ってきた。
宰相は60~70歳ほどで薄い灰色の髪の毛をして、全体的に丸びをおびていた。
宰相は部屋に入るとき一礼をし、足音を立てずに国王に近づく。
「国王陛下何かご用でしょうか。」
「うむ、知っているとは思うが息子の状況が悪いらしく、援軍と物資の輸送をできるだけ早く後れ。武官については、そちにまかせる。」
宰相はわざとらしく驚いた顔をし、再び頭を下げると。
「了解しました、しかし知っていると思うがとは、少々買い被りが過ぎるかと。」
「お前に知らない事があるのか。」
国王と宰相の会話は、王と家臣の話し方ではなかった。
このやり取りだけで、この宰相がどれだけの権力と発言力をもち、独自の情報網を有しているのは想像できた。
「では、早急に行ってきます。」
宰相はそのまま部屋を出て、廊下を歩き出した。
その後ろには側近の部下が数人付き添っていた、宰相は歩きながら思考をめぐらす。
(地方部族の発起と国境に敵部隊か、なぜかタイミングが良すぎる気がする。)
宰相は今回の一連の動きが、偶然ではない気がしていた。
長年暗殺や流言が飛び交う世界で生きながら、数多の政敵を潰してきた彼だからこそ、いやな予感がしてならなかった。
「部族と敵部隊の関係を調べてこい。」
その言葉を聞いて1人の男が頭を下げて、来た道を引き返す。
「それと、国内外で少しでもおかしな動きがなかったか。どんな些細なことでもいい、調べてこい。」
次の角を曲がるとき、また1人の男が宰相と反対側に曲がっていく。
この時の宰相の長年の勘は当たっていたのだ、これはまだ始まりにしか過ぎなかった。
伝令が王都に着着いたころ、砦では王子と将軍が今後についての相談をしていた。
「ここにはどの程度の兵力があるんだ。敵はいつ来る、物資は。」
王子はヒステリーを起こしているように、何度も何度も同じことを将軍に聞いては、部屋の中を歩き回った。
王子は不安と恐怖に押しつぶされそうになり、何かをしていないと正気を保てない。
王子の様子に、将軍たちは顔を見合すと深いため息をつく。
「兵の数は600で物資は1週間程度はもちます。王都に伝令を走らせたので、1週間以内には帰ってきます。」
顎鬚の将軍が口を開くと、王子はすべてを聞き終える前に。
「1週間だと、間に合わないじゃないか。飢え死にか、それとも武器も尽きて素手で戦えというのか。」
大きな声で怒鳴が部屋に響く、もう1人の将軍はやれやれと首を振りながら。
「何度も申し上げていますが、食糧の方は切り詰めれば10日はもちます。最悪飲み水さえ確保すれば、1月以上は籠っていられます。」
「飯がなくて戦えるか、3日も何も食わないと死ぬぞ。」
顔を真っ赤にしながら、テーブルの上にあったコップを手に取って喉に流し込んだ。
将軍たちは内心、世間知らずの王子が1~2週間食べなくても死にはしない。
そんな事も知らずに今まで生きてきたのか、戦場もただの狩場だと思っていたのか。
将軍たちは内心不満でいっぱいだったが、口に出すことが出来ず。
ただ怒鳴り散らす王子をなだめて、伝令の帰りを待つしかなかった。
王子は将軍や兵士たちの気も知らずに、頭に浮かんだ言葉を考えもせずに口に出しては、罵倒するだけだった。
「だから、お前たちのせいで負けたのだ、帰ったらどうなるか覚悟しておけ。」
王子は急に静かになると、頭に手を当てて何かを考えるしぐさをし。
将軍達は悪い予感しかしなかった、世間知らずがまた無理難題を吹っかけてくるのではないかと。
先ほども酒を持ってこい、脂ののった焼きたての肉を持ってこい、白いパンを持ってこい。
など、前線の砦にはないものばかりを要求してきて、それを鎮めるのも一苦労だったのに、次はどんな言葉を発するかうんざりしていた。
王子は一瞬目を見開いて、何かを思いついたのか急に笑い出した。
「うはははは、ないなら集めてくればいいのだ、いや奪ってくればいい。」
両手を広げて、顔を天井を見るように上げた。
「今すぐ兵士たちを連れて、近くの集落から物資を徴収してこい、抵抗するなら殺してでも奪ってこい。」
将軍たちはあまりの事に、驚いて言葉が出てこなかった。
まさか、王子が自分の領内で略奪をして来いと言うとは、正直考えてもいなかった。
顎鬚の将軍が、椅子から立ち上がり王子に近付きながら。
「いけません、そんな事をしたら領民の忠を失ってしまいます。」
その言葉に続くように、口髭の将軍も慌てて立ち上がり。
「そうです、下手をしたら周りの集落が反旗を翻して、生き残るために敵方に寝返り。最悪それが国内全土に広がり、王国の転覆にも繋がります。どうか、なにとぞお考え直しを。」
王子は近付いてきた将軍にたいして、いきなり平手打ちをし部屋中に乾いた音が響く。
平手打ちをされた将軍は目を白黒させて、状況が飲み込めていなかった。
「誰にものを言っている。お前らがまともな事を考えれないから、俺自ら考えて案を出したのだ。貴様らは二言目には我慢しろや耐えろだと、できるわけないだろ。俺は王子だ、時期国王だ貴様らとは立場が違う。」
そう怒鳴りつけると、もう1人の将軍に近付き顔を殴りつけた。
「貴様らが悪いのだ、そうだきさまらだ。」
そう言うと再び笑い出した、そして吐き捨てるように。
「そのついでに酒と肉も取ってこい、なければ帰ってきた兵士を殺して物資を節約させろ。」
もはや、王子としてではなく人としてもあまりだった。
この時将軍達の眼差しは軽蔑から、憎悪に変わっていった。
自分たちを罵るのはまずいい、それぐらいの罵倒や罵りは甘んじて受ける。
しかし、大事な部下や民に対しての態度は許されない、国が成り立つには民が必要であり、それを効率的に維持するための王であり。
「国は民のために、民は国のために。」
将軍たちはいつも部下たちにそう語っていた、だからこそ守る価値があると。
国が民を切り捨てれば確実に民も国を捨てる、民がいない国で国王を名乗ったとしても、ただの自己満足でしかない。
心の中にある怒りを無理やり押し込むと、想いを殺し。
将軍達は座り込むと頭を下げ、王子をなだめるために地面に頭をこすり付る。
王子はその姿を見ると、顎鬚の将軍に近付くとその顔を蹴り上げた。
顔を蹴られた将軍の鼻は折れ、鮮血をまき散らせながら後ろに倒れこむ。
王子は自分の靴についた血を見ると舌打ちをし、不機嫌な顔をしながら口髭の将軍に近付きその頭を踏みつけた。
激しく床に押し付けられたことで、将軍の額は割れ血がにじみ出る。
将軍たちは痛みと屈辱を、奥歯を噛みながら必死に耐えた。
自分たちは長い間この国に仕えて、数多の戦場を戦い国の危機を救い今の国王に何度も感謝された。
数年前には不利だった状況を打開して勝利に導いた事があり、その時は国王自ら近づいてきて、手を握って感謝の言葉をかけてくれた。
なのにこの王子は何も知らずに戦場に来て、ただ自分の意見を言うだけで、我々がどれだけ作戦を練り直したか。
最初はもっと別の作戦だった、しかし王子が作戦に口を出して。
それに基づいて、修正を何回も加えて王子の納得のいく形にした。
確かに自分達も負けるとは、思ってはいなかった。
敵を過少評価してた、もしもの時の策を何度も立案したが。
「そんなのはいらない、負けることや不利な状況を考えている時点で負けている。出せる戦力を出し切って、蹂躙するだけだ。圧倒的な数の前に、作戦は不要だ。」
その一言で、作戦の方針が決まってしまった。
「この無能が、役立たず。」
王子は声を荒げて、何度も何度も踏みつけていた。
将軍の額から流れる血の勢いは増す、それでも将軍は只々頭を下げ続けた。
もう1人の将軍も起き上がると、血だらけの顔を拭くこともせずに床に額を擦り付ける。
しばらくすると、王子は息を切らせながらコップの水を流し込む。
テーブルの上にあった、水が入っている陶器の容器に手をかけ。
少し重そうに持ち上げると、踏みつけていた将軍の頭の上で容器を傾け、少しづつではあるが確実に将軍の頭に水をかけ続ける。
口元をあげにやつく王子は、将軍に屈辱を与えることに喜びを覚えていた。
中の水をすべてかけると中を覗き込んだあと、空の容器を少し離れている所で頭を下げている将軍にたいして投げつけた。
陶器は将軍の頭に当たり割れ、将軍の頭からは血が流れだす。
しかし、将軍は唸り声1つ上げず耐えていた。
その程度の事では、何1つ動じない姿はまさに歴戦の武人だった。
王子の顔から笑みが消え、興味をなくしたように。
「さっさと酒だ早くしろ。」
捨て台詞を吐くと部屋の扉を開けそのまま出て行く、その後を数人の護衛が一礼し速足で去っていった。
複数の足音が遠ざかるのを確認すると、2人の将軍は顔を上げた、髭の将軍はよく見ると頭と額から血を流していた。
その血は自慢の髭を伝って、床を汚していた。
口髭の将軍も何度も額を叩きつけたせいか、血が滲み額をつけていた所には血の染みがついていた。
将軍達は顔を見合わせると、扉の向うにいる兵に対して、布と床を掃除する物を持ってくるように指示を出した。
「了解しました。」
扉の向こうから、緊張した声が聞こえると、兵士は走り出していったようだった。
将軍達は椅子に座りなおすと、ため息をつき心を落ち着かそうとする。
しかし、再び扉の向こう側で足音が近付いてきた。
将軍達は顔を見合せ、兵士が戻ってくるには早すぎた、内心再び王子が無理難題を押し付けに来たのかと思い何度目かの深いため息をつく。
それは将軍たちの予想を裏切ることだった、扉の向こうから息を切らせた声で。
「申し上げます、偵察に向かわせた兵戻ってきました、その。」
兵士は歯切れが悪く、一回言葉を区切っていた。
「何があった、いいから入って伝えろ。」
顎鬚の将軍が傷口に手を当てながら、扉の方に話しかけていた。
「了解です、失礼します。」
扉が開き、偵察に出していた兵が入ってきた、息を切らせ額から汗が流れていた。
兵士は将軍たちの顔を見ると、驚いた表情をした。
将軍達が頭から血を流し、それを抑えている状況だった、戻ってきたばかりの兵には理解できず戸惑っいを隠せずにいた。
その様子をみて、口髭の将軍が兵士の方に顎を向けるしぐさをして。
「気にするな、現状と敵についてわかった事を報告しろ。」
兵士は我に戻り、一礼をした。
「申し上げます、我ら偵察隊はベイドン丘に向かいました、その道中敵部隊は確認できず。丘に到着しました、すると第1陣と2陣が布陣していた辺りに大量の戦死者を発見しました。」
兵士は早口で報告を続けた。
「死亡した兵は味方以外にも敵方も多く、敵一部には仲間同士で殺し合った形跡さえありました。」
報告は途中だったが、将軍達は報告の意味が分からず。
「待って、なぜ敵同士で殺し合ったんだ、相手は勝っていてこちらに追撃戦を仕掛けていたと、砦にたどり着いた兵が言っていた。」
「そのはずだ、なぜ勝者が殺し合ったんだ、確かに利益を奪い合うために、仲間割れすることはある、しかし奴らは何の利益も上げていない。」
顎鬚の将軍はそういうと、勢いよく椅子から立ち上がり、その反動で座っていた椅子は倒れ静かな部屋にその音が響いた。
兵士はその様子に脅えながら、先ほどより大きい声で。
「我々は状況を知るために、全体を見渡せる丘の上を目指しました。」
兵士は息を大きく吸って、自分を落ち着かせながら。
「丘の上には自軍がいました、その数が50人にも満たない数でした。」
「自軍だとどこの部隊だ、いやどんな奴がいた。」
今度は口髭の将軍が声を荒げながら、傷口に当てていた手を下し、手についていた血が辺りに飛び散っり、兵士の顔にもかかった。
兵士は自分の顔に着いた血を見て、顔を引きつかせていた。
「丘の上にいたのは、第2陣のアーサー卿の部隊でした。アーサー卿を含めて全員傷だらけで、全身に泥と返り血を浴びていて。」
兵士は恐怖していた、声は震え声がでず言葉に詰まっていた。
顎鬚の将軍は、その名前を聞いて驚いていた、まさかあの時やってきた男が生きていたのかと、そしてこの状況の何かを知っているのだと。
「アーサー卿に、聞いた、所、長を、討つこと、に成功して、敵部隊は、混乱して、指揮系統が、分裂して、撤退したそうです。」
兵士は途切れ途切れながら、なんとか言い切ると、緊張の糸が切れたためか、倒れてしまった。
報告を聞いている時、顎鬚の将軍は彼との会話を思い出していた。
「お願いがあります、この戦いで亡くなったものに対しての相応の報酬を約束していただきた。」
「それと2陣の全指揮を頂きたい。」
その時は、大きな事を言う若者がいるなとしか考えていなかった。
今思えば、あの背中はなぜか大きく見えた気がした。
絶望していたら、背は丸くなり言葉には覇気がなく、悲観的な言葉が増えるのに。
その時のアーサー卿の背筋は真っ直ぐと伸び、言葉には重みもあった。
そうか、あれは昔の自分たちの背中で、今の自分たちが忘れたものだったのかもしれない。
顎鬚の将軍は天井を見上げ、突然笑い出していた。
「ふははははは。」
何が王子の守り役だ、自分もあの時戦場に残っていたら。
あの時の自分を取り戻せたかもしれなかった、いや今からでも遅くないのかもしれない。
その時、将軍の心の中に何かが芽生えていた。