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赤い風船  作者: 黒猫
9/13

動く死体

少年は、夕闇の公園で意識を取り戻した。ブランコの椅子にうなだれて、地面に膝を着いていた。

沈みゆく真っ赤な夕焼けが遠くに見える。


―――――きれいな夕焼けねぇ。ショウちゃん、明日は晴れるわよ。


少年は、昔病院の帰り道に手を繋いで歩きながら、母が教えてくれたことを思い出す。


公園には昼間より大分涼しい風が吹いていた。


―――――ショウちゃん、ごめんね。


母が自分を抱きしめる記憶。


少年は、自分が幼い頃赤い風船を怖がっていたことを思い出した。

どうして恐れていたのかも。

あの日、庭で水遊びをしていた少年が外へ飛び出して「あの人」に連れていかれたのだ。

どうして、飛び出したんだろう。

少年は目を閉じて記憶を辿ろうとした。

キラキラした水。庭のすみれの香り。

太陽の反射する濡れた草木。

それから、赤い、

「痛」

少年は、こめかみを押さえた。

脳みそが、思い出すのを拒絶している。

少年は考えるのを止めた。


その時、公園のトイレから物音がした。

顔を向けると、誰かがトイレから出てきたところだった。

薄暗くなったので、はっきりとは見えないが、服装やシルエットで、前に熱中症で倒れた少年を介抱してくれたホームレスの男だと分かった。

「こんばんは」

少年は声をかけた。

ゆらゆら、ゆっくりした足取りで、男は歩いていた。怪我でもしているのか、一歩踏み出す度に膝がガクッと不自然に曲がった。グチュッと水気のある音も聞こえる。

少年には気がついていないようだった。

男は少年のいるブランコの前を通りすぎた。

「・・・・・!!」

少年は、男の顔を見つめて息を飲んだ。

男は、左の眼球が無かった。左頬も裂傷で頬骨と赤い筋肉がちらちら見えていた。

大丈夫ですかと声をかけそうになって、少年は思いとどまった。


アノ人、生キテイルノカシラ?


形のない声がささやく。


アノ人、死ンデルンジャナイカシラ?


―――――気をつけて、お兄ちゃん。


「カナ。そこにいるの?」


静カニ、気ヅカレルワ

ソノママ ジットシテ


少年は息を殺した。


ホームレスの男は一瞬立ち止まったが、またゆらゆら歩き出し、ゆっくりと公園から出て行った。


少年は息を吐いた。

「どうして?おじさんは死んじゃったの??」


ソウイエバ ニュース デ

暴行サレタ ホームレス ガ

亡クナッタッテ 言ッテタワ


「そうだっけ?」


多分アノ オジサン ガ

殺サレタノネ


「いい人だったのに。」


少年は切なくなった。


「どうしておじさんはあんな姿でさまよっているの?」


知ラナイ


「・・・・・」


モウ暗クナッタカラ

家ニ 帰ロウ オ兄チャン


「・・君は、誰?」


少年は形のない声に訊ねた。

幾度となく自分に語りかけてきた、声。


ワタシハ アナタノソバニ イル

ズット昔カラ アナタノコトヲ

見テイル


「誰?」


少年は全く記憶に無い声の正体を考えあぐねたが、声の反応が全くなくなってしまったので、諦めて家に帰った。



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