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赤い風船  作者: 黒猫
8/13

僕の半分

残酷な描写があります。

苦手な方はスルーして下さい。

-----いいかい、君は、赤い風船を見るたびに、思い出すんだ。


その人は僕に、言った。

その人は、首を吊って、死んだ。

その人は、僕を閉じ込めた。

その人は、僕に暗示した。

僕は、丸5日、その人と、一緒だった。

その人の、ゆらゆら揺れる屍と、ずっと一緒だった。

その人の、顔は腫れ上がって、身体は色んな物を排泄して、今まで嗅いだことの無い臭いがした。

人の、死んでいくにおい、排泄物のにおい、細胞が腐っていくにおい、酸化する、皮膚の、血管の、脳みその、脂肪の、白血球の、におい。

僕は、楽しいことを考えて、過ごした。

何か楽しいこと。

幼稚園で、帰りにみんなで歌う曲。

運動会で食べたお昼のお弁当。

お母さんが洗濯物を干した後に、ぎゅっと抱き締めた時の、洗剤の残り香のにおい。

お父さんが、お風呂から上がったときに、ごしごし髪を拭いてくれること。

日曜日に見る、正義の5レンジャーの番組。


だんだん、楽しいことを考えることができなくなった。

お腹も減っていた。

喉も渇いていた。

ひどいにおいだった。

涙も枯れて、そのうち空腹も喉の乾きも、何も感じなくなった。


ぼんやりと過ごしていたら、いつの間にか、閉じこめられていた倉庫のような場所の扉が開いていた。

日の光が、扉の開いた所から差して、僕の顔を照らした。

僕は、ゆっくり立ち上がって、転んだ。

何も食べていなかったから、うまく歩けない。でも、ここから出たかった。

何度も立ち上がって、転んで、やっと外へ出た。

知らない場所。


-----おかあさん。


僕は母を呼んだ。

どうしていいか分からなかった。

でも、誰かに助けて欲しかった。



-----ごめんね、ショウちゃん、ごめんね。


母が、僕を抱きしめた。

でも僕は、母の体温を感じることができなかった。

あの時、僕は、半分だけ死んでしまったんだと思う。

いつの間にか僕は警察に保護されていた。

記憶は、所々穴が開いたみたいに抜けている。

あの死体がどうなったのかは、知らない。警察の人からもその事については聞かれなかった。ただ、僕が突然いなくなって、一週間後に自宅から5キロ程離れた住宅地で見つかって保護された事だけ確かだった。


-----誰かに連れていかれたの?


-----どうやってあそこまで行ったの?


警察の人にも、両親にも何回も聞かれたけれど、僕は話すことができなかった。

首を横に振って、震えていた。

怖かった。

話してしまえば、何かに復讐される気がした。



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